病院再生とCM(コンストラクションマネジメント)➏

 北海道白老町は当初、一般競争入札(設計・施工分離方式)での病院建替えを予定したが、工期短縮や事業費削減の観点から、デザインビルド(設計施工を一括で発注する方式)に変更し、当機構にCM業務を委託した。就任以来、財政健全化と町立病院の建替えを先導する古俣博之副町長に、これまでの経緯とCMの役割についてインタビューした。

患者に信頼され思いやりのある病院づくり

最初に副町長への就任と病院改築の経緯についてお聞かせください。

 学校の教員から2011年に教育長になり、2015年に副町長に就任しました。現在は2期3年目です。行政経験はありませんでしたが、何とか皆さんのおかげで今まで勤め上げてきました。

白老町立国民健康保険病院
白老町立国民健康保険病院

大きな課題は病院改築と財政再建でした。病院改築の議論が始まったのは2008年頃でしたが、以前から財政健全化に向けた議会調査特別委員会の外部有識者検討委員会が経営状況を疑問視していました。町が財政危機に陥ったのは、戸田町長が就任した翌年の2012年です。実際、夕張市に次ぐ規模の財政悪化で、町は破綻しかけていたのです。2013年、同委員会から病院廃止の答申が提出されました。

議会で答弁する戸田町長
議会で答弁する戸田町長

町長は一時、「原則廃止と指摘された以上、その方向でやむを得ない」と思っていたようです。同時に「これからのまちづくりの中で医療をどうするのか」という課題に直面していました。理由は高齢化です。本町の高齢化率は46%と非常に高く、いずれは高齢の町民が隣接する自治体の病院に通うことが困難になります。地域医療を支えるために民間への移譲を打診しましたが、58床という小規模の病院は採算性に乏しく引き受けてはもらえません。苫小牧の医師会を巻き込み公設民営も検討しましたが、実現には至りませんでした。

そうした中、町民の有志から成る「病院を守る友の会」が「どうしても残してほしい」と町民運動を展開し、約5千筆の署名を集めました。人口約1万6千人では大きな割合です。町民の声が大きくなる中、町長が「何とかしなければならない」と病院改築に向けた政治判断を下したのです。正直なところ苦渋の選択でした。そこに至るまでに10年を費やしています。

 

 

病院の経営不振の根本的な原因は、町民に信頼されていなかったことにあります。そこで病院の理念である「患者に信頼され思いやりのある病院づくり」の原点に立ち返り、庁内で再検討を開始しました。最初に議論したのは、「病院か、それとも診療所か」です。財政的に、現在の58床を維持するには経営リスクが大き過ぎます。一方で19床の診療所だと町民の医療ニーズに応えきれなくなる。意外と診療所でもコストがかかることもわかりました。病院の収益の中心は入院診療です。そこでダウンサイズして病床を40床にし、地域の実情を踏まえて現在の老健29床を介護医療院19床に変更する基本計画を5年がかりで立案しました。

CMを導入した経緯と理由についてお聞かせください。

古俣副町長
古俣副町長

 基本計画の成案化を進める過程において事業費の概算を想定したところ、工期2年で40数億円にのぼる可能性が示唆されました。町にそのような余裕はありません。議会からもコスト削減や工期を短縮する意見が出され、病院改築を所管する担当者が別の発注方式を再検討することになりました。デザインビルドやECI等を検討した結果、デザインビルドが最も工期短縮に有効でコストコントロールが容易と判断し、議会に提示したのです。しかし、建設課に技師が存在するものの人数が少なくデザインビルドは未経験で、新たな方式を採用する体制が整っていませんでした。一般の公共事業かデザインビルドかで賛否両論が飛び交う中、浮上したのがコンサルタントの採用です。

思い悩む中でたまたま手に取ったのが健康都市活動支援機構の機関誌「ヘルシーパートナーズ08号」でした。同機構がCMrとして関与した三豊市立みとよ市民病院(香川県)の建替えに関する記事で、財源や事業費の縮減、工期の短縮を実現する手法が紹介されています。「これだな」と直感しました。いくつかの候補を検討した結果、2021年に機構とCMの業務委託契約を結ぶことになりました。民間ではなく認定NPO法人を選んだ理由は、経験や実績とともに非営利であることです。民間の場合、CMの委託料は建設費の2~4%が相場ですが、機構は1%でした。

結果、プロポーザルで町民や病院関係者の想いを反映した上で見積もり額を25%減の26億5千万円に圧縮し、工期を1年間短縮することができました。機構の支援が無ければ、これだけの結果を出すことはできなかったでしょう。

 

造る以上は町民に信頼される本当にいい病院にしなければなりません。機構には初期段階からの参画を依頼し、基本計画の最終部分から関係者ヒアリング、概算、要求水準書(※)の作成、技術提案書のテーマや評価基準の立案、審査委員向け勉強会の実施、設計・施工者との調整に至るまであらゆる場面で支援いただいています。

※  要求水準書:発注者の要求を的確に伝えるために設計者に対して発注者の要求を的確に伝えるもの。業務仕様では事業の理念や目的、重視する点、事業スケジュール、事業予算等を、施設性能では、規模や面積、諸室をはじめ、構造や設備の条件、災害時対応等を記す

CMで特に印象深いのは何でしょうか?

 まずは要求水準書です。病院内のヒアリングを徹底し、相当な時間をかけて作り上げてくれました。病院の計画では、特に重要なプロセスと聞いており、本格的なデザインビルドだと評価しています。通常の公共事業だと、一定の事業費の中で「だいたい病院はこのようなものだ」と発注してしまう。以前、他の自治体を視察した際、現場のスタッフからいろいろな不満が出されたと聞いています。患者はもちろんのこと、医療提供者の要望を反映しなければいい病院は作れません。

選定委員会の勉強会
選定委員会の勉強会

また、選定委員会の勉強会では、参加7社から提出された技術提案書の内容をわかりやすく整理いただきました。それぞれ長所と短所が一目でわかるように工夫されており、建物の配置や建て方を具体的にイメージしながら各社を比較できました。委員の客観的な評価に大きく役立ったはずです。

防災対策での提案も評価しています。2021年7月に北海道から津波による新たな浸水深(※)が発表されたのですが、そのレベルの津波がくると町民の半数の命が危険に曝されることになる。当初予定していた盛土では浸水が免れないことから急遽ピロティ化に方針を切り替え、必要な対策を提案いただきました。同地域に防災施設を作らなければならないと思っていたので、屋上を避難所としても活用できる機能は、安全と財政の両面で大きく貢献するはずです。

※  浸水深:洪水・津波などで浸水した際の、水面から地面までの深さ。

2022年1月の公開プロポーザルではどのような印象を持ち、何を重視したのでしょうか?

公開プロポーザル
公開プロポーザル

 「やっとここまで進んだ!関係者全員がよくやってくれた!」と涙が出ました。同時に、関係者への期待に胸が膨らみました。自分たちの想いが具現化される病院であればいい仕事をしてくれるはずだからです。

 

何度も言いますが、「町民や関係者が病院を作って本当によかった」と誇れるようにしたい。そのためにはパートナーとしての関係性が大切と考え「私たちの想いを、どのような体制、方法でかたちにしてくれるのか」を最初に全社に問いました。

次に新病院の「面構え」です。病院が建つ区域は総合保健福祉センターや老人保健施設等が集結する健康福祉ゾーンです。線路を隔てた場所には2020年7月にウポポイ(民族共生象徴空間)がオープンしており、北海道内外から多くの人々が訪れます。新病院は、まちづくりの象徴として、そうした利用者に好印象と信頼感を与えなければなりません。

 

配置計画や増築への対応も重視しました。配置によっては、隣接する国有地を別途買わねばならなくなる。費用の割合は小さいのですが、できるだけ予算を抑えなければなりません。さらに津波等防災への対応や地域貢献も重要な判断材料になりました。

 

審査は、病院関係者をメンバーに加えた選定委員に委ねました。町長と私の想いはそれぞれありますが、表に出すことは極力避けてきました。何よりも町民とそこで働く関係者が望む病院像と一致させたかったためです。現場主導で病院づくりが進んでいることは、これからのまちづくりのためにもよかったと思っています。

新病院のパース(最適提案者:フジタ・久米設計・岩倉建設・岩崎組特定建設工事共同企業体 )
新病院のパース(最適提案者:フジタ・久米設計・岩倉建設・岩崎組特定建設工事共同企業体 )

思い起こせばあれだけの廃止論が渦巻く中、建て替えの合意形成に向けて地道に努力を重ねた当時の担当者に感謝しています。度重なる議会や内部会議で、その都度財源や手法が変わる中、着地点を見出すのは難しかったはずです。計画が動き出してからも、実にさまざまな問題が立ちはだかりました。「あれもある、これもある、これはやってなかった、これはどうなっているんだ」と。想定しきれなかったことに対して、担当者は奔走しながらも着実に計画を進めてくれています。

最後に他の自治体へのアドバイスをお願いします。

 多くの自治体では、発注担当者が一般競争入札に慣れており、書式様式もそれに準じています。前例主義が定着しており、CMの導入に踏み切ることに躊躇する傾向があります。診療報酬が右肩上がりの時代はそれでもよかったのですが、財政が非常に厳しくなった今、知恵と工夫を働かさないと生き残れません。建設コストを最小限に抑えつつ地域の実情に合う機能的な病院を建設するにはどうすればよいのか。CMの導入は、病院づくりだけにとどまらず、これからの公共事業の在り方にとっても重要なターニングポイントになるのではないでしょうか。トップのリーダーシップが問われるのであり、その点、白老町では町長の政治判断がまちづくりの流れを大きく変えたと実感しています。

古俣  博之(ふるまた  ひろゆき)氏

 

白老町副町長

1952年 北海道白老町生まれ

1976年 北海道教育大学卒業 白老町立虎杖中学校教諭

2008年 白老町立萩野中学校校長

2011年 白老町教育委員会教育長

2015年 白老町副町長

2019年 白老町副町長(2期目)