白老町立病院の建替えとCM❷

 白老町の古俣副町長に続いて、CMの評価や公開プロポーザルについて政策推進課課長の冨川英孝氏に、財源確保に向けた補助金の申請状況について同課主幹の温井雅樹氏にインタビューした。また、前任者として2017年より病院改築に携わった白老町教育委員会生涯学習課長の伊藤信幸氏(前町立病院改築準備担当参事)からコメントをいただいた。

現状評価と補助金の活用

機構のCM業務への評価について、担当者の立場でお聞かせください。

冨川

 計画初期からパートナーとして並走いただき感謝しています。特に技術的な問題を適切なアドバイスで乗り切ることができました。

 

物価高騰やウッドショックにより公共発注での見積りが40億円を超えていたこともあり、基本計画で26億5千万円の積算が出た時には、疑心暗鬼でした。「本当に機構と組めば25%もの事業費と工期の短縮ができるのだろうか」と。ところが、プロポーザルでは7社中4社が26億5千万円を下回る参考価格を提出してくれた。機構の目標値のおかげで、あれだけの要求水準にもかかわらず低い提案価格が実現できたと評価しています。

 

物価高騰や資材調達の困難さに直面する今、機構にはコストコントロールの役割に特に期待しています。病院のような大型な改築には様々な要素が複雑に絡み合っており、我々が要求している水準が正しいのか、判断するのが困難です。実際、要求水準の提案価格に対して、JV側からいくつかの追加の費用負担が出ています。プロポーザルで提示された内容と価格は前提条件のはずです。社会情勢は理解できても、どこまでお互いに譲歩できるのか、その適否を含めて機構に確認を取りながら進めています。

 

工期については、通常、この病院の規模だと基本設計に1年、実施設計に1年、施工に1~2年をかけるのですが、基本設計と実施設計に1年、施工1年という半分の工期で達成しようとしています。デザインビルド方式とはいえ、負荷がかかり過ぎているのではないかと心配するところですが、豊富な専門家集団である機構のCMであれば可能と信じています。 

公開プロポーザルでの課題については?

冨川

オンライン形式になったことです。質疑の場である対話会は対面でしたが、その後のコロナ禍でオンライン形式を余儀なくされました。対面で実施した場合、結果が違った可能性があったのではないかと思っています。質問とそれに対するリアクションの熱量を肌で感じ取ることができず、「お互いに消化不良になる場面があったのではないか」と自問しています。 

対話会
対話会
オンライン形式での公開プロポーザル
オンライン形式での公開プロポーザル

CM方式を検討している自治体へのアドバイスをお願いします。

冨川

CMrは頼りになります。短期で質の高い病院建築を実現するために必要な存在であることは間違いありません。一方の発注者側としては、デザインビルド方式が未経験なこともあり、CMrの役割等も含めて内部の合意形成を充分図ることが大切だと思います。

 

今回はその不十分な点を機構に穴埋めしてもらいながら一つひとつ課題を解決しています。「新たな発注方式で決めたのだから腹をくくる」という思いを関係者が共有し、内部調整をしっかりやっておけばさらにスムーズに事業を運営できると思います。

前任者のコメント

 2017年より町の医療政策の観点から病院改築に携わってきました。白老町立病院は、2019年厚生労働省より地域医療構想に関する具体的対応方針の再検証要請を受け、改築基本計画の前段として、既存基本構想の再点検を行う必要がありました。

 

当診療圏域内では、多くの町民が中核市である苫小牧市内の医療機関を利用していますが、今後、同市の高齢化が進むことで回復期病床の大幅な不足が見込まれます。そこで、町民の回復期移行の受け皿としての機能を新病院の骨格とし、地域医療構想調整会議などの同意を得て、2016年の基本構想から5年の歳月を経て基本計画を完成させました。

 

計画づくりの終盤では工期短縮・事業費縮減が最大のテーマとなり、DB方式への転換には『良い病院をリーズナブルなプライスで実現する病院づくり』をモットーとする健康都市活動支援機構の協力が不可欠であると結論付けました。

 

今は病院改築業務から遠ざかりましたが、これからも町との良きパートナーとして機構の経験とスキルを最大限発揮していただけることは頼もしい限りであり、町民が期待する新病院が無事完成することを心から期待しています。

財政が厳しい中、どのような補助金の活用を検討しているのかお聞かせください。

温井

 当初は厚生労働省系の補助である国民健康保険調整交付金や介護サービス等補助金約2億5千万円、病院事業債12億円、過疎債12億円で合計26億5千万円の財源を予定しましたが、起債の割合が多く、将来的な財政ひっ迫が課題としてあげられていました。そうした中、津波対策によるピロティ化により、さらに事業費が膨れ上がり、他に好条件の補助メニューがないか、国や北海道などの協力をいただきながら、様々な補助メニューの可能性を模索してきました。

 

現在、活用の可能性があるメニューとして獲得を目指している補助金は、国土交通省系の「都市構造再編集中支援事業補助金」です。この補助金は、都市の再開発にかかる費用の2分の1を補助する仕組みであり、病院改築を含めた面的整備に係る費用の半額、およそ13億円の補助金が見込まれる補助メニューです。

 

この補助金を活用するためには、コンパクトシティを推進するための「立地適正化計画」の策定が前提となりますが、当時、本町では本計画を策定しておらず、通常2~3年かけて策定する計画を1年足らずで策定しなければならない状況にありました。

 

時間的制約から実現の可能性を含め、庁内で幾度も議論を重ねる中、将来世代の財政負担を軽減するためにもチャレンジする価値はあると判断し、現在、急ピッチで計画づくりに取り組んでいます。現状の見込みでは、本年12月を目途に立地適正化計画が成案化する見込みであり、補助申請に必要な都市再生整備計画の策定も並行して進めております。

 

「都市構造再編集中支援事業補助金」は2020年度からの制度ですが、新しいものではありません。以前は「まちづくり交付金」の名称で、これを活用して病院づくりを行っていた自治体はたくさんあります。ポイントは、都市計画系の補助金なので、病院建設と都市計画を連携しなければならないことです。

 

一方で「これをやらねばならない」という決まりはなく、計画内容は地域の事情に委ねられています。白老町の場合、「地域で誰もが安全安心に暮らせるまちづくり」を理念に掲げ、病院機能と津波一時避難場所としての防災機能を複合化し、医療と防災の両面から町民の命を守る拠点づくりを進めております。