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みとよ市民病院の設計と施工

 栄康病院の建替えに向けたECI方式のプロポーザルでは、株式会社石本設計事務所が設計を、大成建設株式会社が施工を受注している。本稿では各社の担当者に評価のポイントについてインタビューした。

意見集約と合意形成を重視した基本設計

株式会社石本建築事務所

設計を担当された渡延さんにお聞きします。プロポーザルにはどのように臨んだのでしょうか?

渡延  公氏(業務企画部門)
渡延 公氏(業務企画部門)

 私が設計主任技術者として東京オフィスから、谷口が意匠担当主任技術者として本プロジェクトの拠点である大阪オフィスから参加しました。伊関氏が審査委員長ということで、人物重視の視点からいろいろな角度の質問が出るだろうと予測しました。対策を立てる術はないので、その場で対応するしかありませんでした。当日は一般公開だったので、市民のほかにも他の設計事務所や建設会社の担当者が参加していたようです。

「設計の仕事をしていて一番感動したことは何ですか?」と聞かれ、ある手紙についてお話ししました。2005年に竣工した島根県の市立病院の設計をした時のことです。ある日、出張から事務所に戻ると市立病院の設計担当者宛てに手紙が受付に託されていました。その方の父親が入院した時に訪れたということで、ヒーリングアートや吹き抜けホールのグランドピアノに癒されたこと、4床室の各ベッドから景色が見えたこと等、設計者のこだわりを高く評価する文面で、東京市ヶ谷の近くに来たので寄ったとの事でした。手紙を読みながらこの設計の仕事をして本当によかったと感動したことを話したのです。

 

 

設計プロポーザルは最も適切な設計者を選定する方式である一方、設計コンペは、最も優れた設計案を選定する方式です。今回は前者とはいえ、建物をイメージできない状態で選ぶことは困難です。新病院をイメージしやすいよう、技術提案書の施設計画には平面計画や建物のパースを挿入しました。

最もアピールしたかったのはどの部分ですか?

 技術提案書の課題に「全個室病棟における配慮事項」がありましたが、一番のアピールポイントがまさにそこです。病院の計画は病棟から作ることがセオリーで、エレベーターや搬送の縦動線に従って土台を計画していきます。その意味で病棟はシンボルだと思っています。本プロジェクトでは、病棟の中央にスタッフステーション(SS)を配置し、すべての病室にアクセスしやすい計画にしました。重症病床はSSに隣接させて24時間の看護を可能にしています。ベッド頭廻りには広い治療スペースを確保し、室内のトイレは車椅子も利用できる広さにしました。

 

今回の発注方式であるECI方式には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

 設計段階から施工者の技術力を反映させることで、コスト縮減と工期短縮を目指せることです。設計事務所が最後まで責任をもって携わることもメリットです。実施設計の段階でさまざまな技術提案がなされる中、最適な提案を選択することができるためです。

 

 

工期短縮やコストの圧縮を図るにあたり、コンストラクションマネージャー(CMR)の役割も重要です。発注者の立場でコストを含めた全体のマネジメントを行うことができるためです。財政が厳しい自治体病院にとって、ECIは最適な発注方法ではないでしょうか。

どのようなプロセスで進めたのでしょうか?

 元になるのが基本構想です。社会環境や病院の弱み、強みを整理した上で、新病院の使命やビジョン、目指すべき方向性を示しています。これを受け、新病院の具体的な方向性を確定したのが基本計画です。必要な機能及び規模の条件を計画に落とし込んでおり、各部門の基本方針や運営方針、敷地条件、配置計画、平面計画を記載しています。

 

次が当社が担当した基本設計で、建物の構成や構造、電気、設備、外構などの基本仕様を決定しました。ここで不可欠なのがヒアリングです。通常、基本設計だけで200回以上各部門と打ち合わせをし、意見集約と合意形成を行います。多機能な病院設計では特に重要で、院内部門別ヒアリングを各10回程行って病院スタッフとの価値観を共有しました。

ワークショップの様子
ワークショップの様子
医療備品レイアウトのヒアリング
医療備品レイアウトのヒアリング

一方で医療供給側の要望が前面に出てしまい、患者の視点が欠如し適格に表現できないことがあります。設計者としては経験に基づき、両者のニーズをバランスよく引き出すことも重要な仕事です。私自身、40年のキャリアで約8000床の病院を手がけていますが、このプロセスを最重視しています。

 

まずはどの階にどの部門が来るのか、どのくらいのボリュームが必要なのか、ブロックプランを示しました。「薬局は1階にしたい」、「このボリュームだと無理なので2階でどうですか」というやり取りを重ね、配置を決めていきました。次にどのような部屋を作るのか、平面図に希望を含めて落とし込みました。ある程度納得を得た段階で、放射線等の設備や医療機器の配置を決める「基本設計総合図」といえる「医療備品レイアウト図」を作成しました。入れ過ぎで全部入らないことになったため、納まるまでキャッチボールを続けました。基本設計ではその都度修正が入りますが、このプロセスが実施設計で極力手戻りを起こさないために重要です。

鳥瞰イメージパース
鳥瞰イメージパース
正面イメージスケッチ(色彩計画時)
正面イメージスケッチ(色彩計画時)
内観イメージパース(基本設計書)
内観イメージパース(基本設計書)
土地利用計画図(基本設計書)
土地利用計画図(基本設計書)
1階(基本設計書)
1階(基本設計書)
2階(基本設計書)
2階(基本設計書)

3階(向かって左)と4階(基本設計書)
3階(向かって左)と4階(基本設計書)
病室(プロポーザル提案時)
病室(プロポーザル提案時)
谷口  嘉彦氏(大阪オフィス代表)
谷口 嘉彦氏(大阪オフィス代表)

技術力でECIを支える

大成建設株式会社

建設プロポーザルにはどのように臨まれたのでしょうか?

 他のプロポーザルではコストや技術等提案書の内容に力点が置かれる審査が多いのですが、今回は、プロポーザル実施要項で、『実際に現場を担当する現場代理人(監理技術者)を中心に自社の病院建設に対する能力や実績、熱意等についてのヒアリングを行う』との記載がありましたので、現場を司る人物に重きが置かれていると思いました。したがって、会社の実績や保有技術もさることながら、プレゼンテーターの私が審査員の皆さんに認められなくてはならない、という気概を持って臨みました。

質問には自然に答えることができました。我々は常に病院スタッフ様や患者様の使い勝手を考え、設計者と協議しながらよりよい建物をお約束した工期内に無事故で完成させて、お引渡しすることを第一に考えています。予めそうした視点で基本計画を見て、感心したり共感したりしたことを、私が今まで関わった病院施工時の苦労や成功談とともに審査員の皆さんに少しでもご理解いただけるよう心掛けました。

施工現場(2021年3月)
施工現場(2021年3月)

ECI方式にはどのように対応しているのでしょうか?

 当社は病院建築で豊富な実績と高い技術力を有しています。設計部門のほか、営業やエンジニアリング等の部門では、病院の施設計画のスペシャリストや専門部署が日々研鑽を重ね実績とノウハウを蓄積しています。

 

今回、ECI方式により、われわれ施工者が実施設計の初期段階から参画できたことで、納期に時間がかかる発注物を早期に手配することができました。例えば免震装置を納入する際は、通常、発注から現場納入まで半年以上を要し、納品待ちの期間に工期のロスが生じます。しかし、今回はそうした事態にはなりませんでした。「ローコスト・高品質」に向けた材料選定等の打合せも順調でした。事前に打ち合わせをすることで、「こういうルールのもとで進めていきましょう」と関係者全員が同じ認識を持ち、スケジュールを組んで進めることができました。着工後も必要に応じて病院スタッフ様との打ち合わせを継続しています。

 

本社調達部の参画と全国ネットワークを活用したコスト削減等もうまく機能しました。資材の調達では、四国エリアでの調達が得意な工種があれば、そうでない工種もあります。不得意な工種について、他のエリアから調達した方が安くできるため、全国ネットで少しでも安く購入できる仕入れ先を探してコスト削減を図りました。

 

調達金額の中で高い比率を占めるのが、躯体工事で使用する鉄筋材やコンクリート等の材料です。官庁工事では、地元貢献の目的で市内企業への発注が奨励されます。元々コンクリートは︑品質・技術的に現場とプラントが近距離でなければならないため︑地元調達となりますが︑それ以外にも文房具や什器備品等で地元に貢献する予定です。

 

一方で建設現場の状況は刻々と変化し、時として予想もしない事態に見舞われることもあり、柔軟な対応が求められます。コロナ禍においては、製品の納期遅延に対する工程調整や、作業員を含めた感染予防対策に注力し、また、発注者様とWeb会議を多用することで、感染症予防やスムーズな意思疎通を図っています。豪雨や洪水、地震等の大規模自然災害も含め、いかなる状況の変化にも即座に対応することを常に心がけ、鋭意施工しております。

調達金額の中で高い比率を占めるのが、躯体工事で使用する鉄筋材やコンクリート等の材料です。官庁工事では、地元貢献の目的で市内企業への発注が奨励されます。元々コンクリートは︑品質・技術的に現場とプラントが近距離でなければならないため︑地元調達となりますが︑それ以外にも文房具や什器備品等で地元に貢献する予定です。

 

一方で建設現場の状況は刻々と変化し、時として予想もしない事態に見舞われることもあり、柔軟な対応が求められます。コロナ禍においては、製品の納期遅延に対する工程調整や、作業員を含めた感染予防対策に注力し、また、発注者様とWeb会議を多用することで、感染症予防やスムーズな意思疎通を図っています。豪雨や洪水、地震等の大規模自然災害も含め、いかなる状況の変化にも即座に対応することを常に心がけ、鋭意施工しております。