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香川県三豊市立永康病院の病院建替え

伊関 友伸(いせき  ともとし)氏
伊関 友伸(いせき ともとし)氏

 本稿は、筆者が政策アドバイザーとして協力している香川県三豊市の市立永康病院の病院建替えについて現状報告を行うものである。地方の自治体病院で病院建物が老朽化しているものの建替えに躊躇している病院は少なくない。特に地方の病院は医師や看護師など医療人材の不足が深刻で、病院収益を悪化させ、病院自体が縮小均衡、最終的には消滅のサイクルに入っている病院も多い。市立永康病院も、そのような病院の一つであった。

寄稿 伊関 友伸氏

城西大学経営学部マネジメント総合学科教授

老朽化した病院建物

 香川県三豊市は、県の西部にある市で人口は約6万2千人。2006年1月に旧三豊郡の7町(高瀬・山本・三野・豊中・詫間・仁尾・財田)が合併して成立した市である。県内では高松市、丸亀市に次いで、3番目に人口の多い自治体である。

 

三豊市立永康病院(当時199床:一般92、療養48、精神59、現在は総病床数157床、

一般50、療養48、精神59)は、瀬戸内海沿いにある旧詫間町が1949年に旧海軍兵舎を利用して町立病院として診療を開始し、1961年に現在の位置に移転、合併により三豊市立の病院となった。過去に建築された建物の老朽化が激しく、耐震性に問題を生じている。最近では医師の退職が相次ぎ、入院・外来患者は大幅に減少し、厳しい経営状況にある。

 

永康病院の建物は1961年に移転新築した建物(現在は医局と会議室などになっている)、1981年に増築した本館棟・管理棟、1986年に増築した精神・療養病棟等の建物からなる。どの建物も老朽化していたが、2007年に行われた耐震診断で、GIs値(構造耐震指標値:地上階の耐震性能の評価単位で、必要な耐震強度は0.6 以上とされる)が、本館棟で0.183(緊急に改修等の措置を講ずる必要がある)、管理棟で0.440(可及的速やかに改修等の措置を講ずる必要がある)と評価された。

早急に建物の建替えが必要なのであるが、建替えはなかなか進まなかった。理由の一つは、病院経営の将来の不透明さであった。耐震性に問題があることが明らかにされた当時、病院の経営は決して悪い状況ではなかった。しかし、病院建物建替えには一定の建設費が必要で、建替えを決断するほどの収益状況ではなかった。その後、病院の経営状況の悪化により病院の将来が不安視され、病院の建替えはさらに困難な状況となった。

三豊市議会調査特別委員会の活動

 筆者と市立永康病院の関わりは、三豊市議会議員とのご縁が始まりであった。2016年12月、三豊市議会は混迷する永康病院の建替えに対して議会としての見解を示すために「永康病院調査特別委員会」を設置した。そうした中、私は2017年8月7日に三豊市議会に呼ばれ講演を行った。前日に三豊市に入り、特別委員会のメンバーの方々と市内の病院すべてを視察。事前のデータ分析と現地調査を踏まえ、講演会ではこれからの市立永康病院のあり方について提言をした。2017年12月には「永康病院調査特別委員会」が調査・研究報告を行ったが、筆者の提言を踏まえたものとなった。

 

ところが、市議会の報告書が提出される直前の11月3日、横山忠始市長(当時)が肺がんのため亡くなるという事態が起きる。死去に伴う市長選挙が12月24日に行われ、山下昭史氏が三豊市長に初当選する。私は2018年4月に都内で山下新市長に面談をした。その後山下市長の依頼で、市の政策アドバイザーとして永康病院の建替えに協力することになった。

ローコストの病院建築

 高齢化が進む中で、地域に身近な病院は存続の意義はあり、病院の新築も必要である。しかし、建物を建替えれば終わりではない。新築した病院の建設費の多くは企業債(借金)で賄う。返済を考えずに高コストの病院の建設を行い、借金の返済に苦しむ自治体病院は非常に多い。病院の経営が悪いままでは借金の返済ができず、病院譲渡や指定管理者制度の導入など病院の存続問題に直結する。筆者は「自治体病院の新築は病院経営の最大の危機である」とも言っている。

 

病院の建替えについて、当時、山下市長は、早期の建設着手の観点から現地建て替えも考えておられた。しかし、現地建替えは敷地が狭く、機能が低くコスト高の病院となることが確実なので、市有地などで適当な土地に移転新築することを提言した。最終的に、幹線道路沿いにある給食センターの建設予定地として保有していた土地に移転することが決まった。

 

さらに、ローコストでの病院建築を行うため、次の提案をした。

  • 建築発注に関して病院の立場に立って支援を行うコンストラクションマネージャー(CM)を置くこと。
  • 基本設計後に建設会社を決定し、建設会社のコスト縮減ノウハウを導入する後述のECI手法を導入すること。
  • 設計会社と建設会社の選定については公開プロポーザル方式で行うこと。
  • 病床数は、患者数と建設費の抑制の視点から、現在の199床から122床程度(一般46、療養46、精神30)を基本とすること。
  • 病床は縮小するものの、職員を増員し地域包括ケア病床を導入すること。(提供する医療の向上と入院単価のアップを目指す)
  • 目玉として病室は基本全室個室(一部看護の必要性で多床室化する)で差額ベッド代を取らないこと等。

最終的に以上の提案に沿って病院の移転新築が進められることになった。

 

基本全室個室には、入院環境のクオリティを上げると共にインフルエンザなど感染症対策を図れることと、男女を考えずに入院させることができるため、病床を埋めやすいメリットがある。

 

新病院では病床数は減るものの、病床利用率を上げて収益を確保することを目指している。古くて汚く、入院したくない病院から、新しくて療養環境が良く入院したい病院に変わることを目標にした。

 

基本全室個室にすると床面積が増加し、コスト増になる。そこで病床数を絞ることとローコスト建築の方法を徹底することで建設費を抑えることにした。122床で病床利用率95%であれば1日入院患者116人、病床利用率82%であれば1日入院患者100人になる。16人で入院単価2.5万円であれば1日40万円の収入増、1年で1億4600万円の収入増になる。当然、経費もかかるが、10年間程度であれば建設費増をカバーできると計算した。新型コロナウイルスの蔓延により、全室個室を目指した病院設計の先見性が明らかになったと考えている。

122床で総事業費40億円を目指す

 三豊市はCMの支援を受けて、「(仮称)三豊市立新病院建設事業基本計画書」を作成に取り組むことになった。建設には、特定非営利活動法人医療施設近代化センター(2020年4月に特定非営利活動法人健康都市活動支援機構に事業承継)にCMをお願いした。

 

CMは建設発注者から依頼を受けて、発注者の立場に立ちつつ、中立的に全体を調整して建設に協力することを使命とする。健康都市活動支援機構(旧医療施設近代化センター)とは、2009年度から始まった岐阜県下呂市の市立金山病院のローコスト病院建築の試みでお世話になって以来、いくつかの病院建築で協力をいただいている(市立金山病院のローコストの病院建築については岩波ブックレット『まちに病院を!』「4医療者・住民が『当事者』となるローコストの病院」、『公営企業2019年5月号』「どうすればローコストの病院建築ができるか?」などで紹介している。)

 

どうすればローコストで一定の質の病院建築ができるのか。筆者が市立金山病院の建築以降のローコスト病院建築で行ってきたことの基本は同じである。

 

まず、手持ちの現金と返済可能な起債(公営企業債・過疎債・合併特例債など)の額を考え、病院建築に可能な投資金額を考える。可能な投資額で、その病院が望まれる機能は何か、どのような病院構成とすべきかを絞り込んでいく。ローコスト建築を実現できる能力のある設計事務所・設計士に設計を依頼する。病院職員は自院の行う医療が何かを意識し、過大な要求をしない。設計士は病院の考えを踏まえ、シンプルでムダのない設計を行う。建設費、床面積のコントロールは厳格に行う。設計図面についてきちんと詰めて、追加工事や手戻りが起きないようにする。その上で、適正な利潤の中で、最も安い建設費で建築をする建設会社に工事を発注する。能力のある現場代理人を配置してもらう。建設会社に工事コスト削減のための提案を積極的にしてもらい、適切なものを採用する。

 

病院開設後の財務の危機に際し、どのように行動すべきか職員の意識改革をすることも重要である。病院建設中から経営改善を行い、できるだけ現金をためることが必要となる。

 

市立永康病院の場合、まず、健康都市活動支援機構のスタッフに基本計画において前頁図表1のスペースプログラム(たたき台)を作成してもらった。スペースプログラムでは、建設費40億円以内という目標を設定し、プロポーザルの基準となる建物の面積や配置案を示している。今回は、健康都市活動支援機構が市立永康病院の幹部職員と綿密に打ち合わせ、かなり完成度の高いスペースプログラムとなった。尚、病院職員の意見聴取は、意見の量が膨大なため、設計会社の選定が終わった後に設計会社が行うことになる。

 

スペースプログラムの意義は、プロポーザルの提案に金額と面積のしばりをかけることにある。筆者は自分が直接の責任を持たない設計プロポーザルの審査にいくつか参加したことがある。基準となるスペースプログラムがなく、設計会社の自由なプロポーザルに任せると、どうしても金額や面積の制約を超えた提案になりやすい。そのような提案を選定した場合、当初の建設費や面積の想定を超えたものとなってしまう。建設費の総枠をコントロールするためにスペースプログラムは効果的と考えている。

 

スペースプログラムの作成を経て、2019年3月、(仮称)三豊市立新病院建設事業基本計画が策定された。4月8日には「(仮称)三豊市立新病院建設工事に係る設計業務」について業務委託者を公募型プロポーザル方式により選定する公告が公表された。

 

設計業務は、建設地:三豊市詫間町詫間6784番地206他、建築面積:3050㎡、延べ床面積:9295㎡、構造・種別:鉄筋コンクリート造5階建塔屋1階・免震構造、病床数:122床(内訳)一般46床、療養型46床(うち地域包括ケア病床23床)、精神科30床、総事業費:40億円以内(消費税及び地方消費税別途)建築本体工事・電気設備工事・機械設備工事・浄化槽工事・外構工事・駐車場工事というものであった。

 

スペースプログラムにおいて基本全室個室ということが示された上で、総事業費40億円とかなり抑えた金額となっている。

 

公告に対して設計会社4社からの応募があり、2019年5月25日に設計委託候補者の公開審査会が開催された。審査会は基本的に市立金山病院の時代から行っている手法(一部改良をしている)を踏襲した。審査員は三豊市副市長のほかは全て病院職員で、病院建築を行うパートナーを選ぶという視点で審査を行ってもらった。審査員には、職員代表として労働組合からも参加していただいた。審査員となった職員は当時精神科病棟で勤務しており、精神科病棟の視点からプロポーザル参加者に質問を行った。現場職員が選考に参加することは非常に重要と考える。

 

応募者のプレゼンテーションは具体的に設計に関わる人に行ってもらうことをお願いした。実際の審査に関する得点も設計担当者の人となりに重点的に配分を行った。一緒に仕事をしたい、能力があって人柄の良い設計士をいかに選ぶかがプレゼンにおける最も重要な選考の視点であった。筆者はアドバイザーとして、「なぜ建築の世界に入ろうと思ったのか」「高校・大学時代はどういうクラブに入っていたのか」「建築士として一番感動した体験は」など人として訴える力、共感する力を感じ取ることができるような質問を行った。単なる「業者」の選考ではなく、新病院建築の「同志」である、能力と熱意のある設計スタッフを選ぶことを目指した。

 

プロポーザルは公開で行い、傍聴席には多数の市民が参加した。公開でプレゼンテーションを行う意義として、病院職員や三豊市民(三豊市議会議員も参加されていた)や病院職員が病院建築の「当事者」となり、病院建築について学んでもらうことがあった。

 

設計各社は、多額のお金を使って資料を作成している。それは病院職員や市民にとって病院建築に関する最高の教科書でもあった。住民・病院職員には、病院建築について学ばせていただくという感謝の気持ちを持って接することが必要と考えた。そして最後には、全ての発表者に拍手を以て感謝の意を表した。

 

さらに、公開でのプロポーザルは、利権の道具になりやすい公共事業に対して、徹底的な情報公開により透明性を高めるという視点もあった。どの設計事務所のプレゼンテーションも素晴らしく差はあまりなかった。最終的に、業者選定は委員全員の単純投票で最高点を取った設計事務所に決定した。

 

設計委託料は値切らず、設計事務所が提示する必要な金額を払った。設計事務所にとっても、良い仕事をするには「適切な」利益が得られることが必要である。高い建築コストの設計を安い請負金額で建築させるのではなく、安い建築コストの設計を適正な請負金額で建築させることを目指したのが市立永康病院の設計プロポーザルであった。

 

一般に行政の建設工事の発注は、金額を示してその中で一番安い金額を入札した業者を選定する指名競争入札が多い。今回の公開プロポーザルでは、建設費40億円以内という基準の中で、設計事務所間の金額のたたき合いではなく、いかに優秀な建築士を派遣し、時間をかけた丁寧な仕事ができるかを選定の基準としている。ポイントは何を「透明化」するかである。指名競争入札という制度を使い、提示される委託金額を透明化するのか、一定の委託金額の中で、設計事務所や具体的に仕事をする設計士の能力を透明化するのかの違いである。ローコストで質の高い病院建築を実現するには、後者の方が優れていると考える。

 

設計事務所が提示する金額を支払った分、設計事務所に対して、職員との対話を十分してもらうことをお願いした。職員は無意識で毎日の仕事をしている。病院設計に関わり、対話をすることを通じて、自分の仕事の意味を文字化・図面化することが可能となる。病院建築は病院職員の能力向上の重要な機会であるともいえる。委託金額が安い場合や事務職が官僚的な場合、病院職員にほとんど設計に関わらせずに、設計業務を終わらせる場合がある。結局、現場のオペレーションを考えない設計で、使い勝手が悪いものとなる。職員の能力やモチベーションの向上にも全くつながらない。

配置計画
配置計画
1階と2階の平面計画
1階と2階の平面計画
3~5階の平面計画
3~5階の平面計画

市民ワークショップ

 設計業者も決定し、新病院の建築作業は一歩前に進むことになった。7月7日には、住民の意見を病院建築に活かすため、新病院に向けた市民ワークショップを行った。自治体病院のオーナーは住民であり、病院やそこで行われる医療のあり方については、「当事者」として関わることが必要といえる。しかし、多くの自治体病院建築では、住民は「お客様」で蚊帳の外ということが多いのが現実である。ワークショップは、住民の皆さんに病院建設について身近に感じていただくこと、住民の意見を病院建築に反映させることを目的としていた。

 

ワークショップには56名の市民が参加した。参加者には三豊市議会から三豊市市議会議長、市立病院建設調査特別委員会委員長を始め数多くの市議会議員の皆さんも参加しておられた。朝、市議会議員さん達の顔を見て急きょワークショップの司会をその方々にお願いすることを思いついた。筆者の急な申し出に議員の皆さんには快く司会を引き受けていただいた。皆さんには司会のほか、最後の発表もしていただいた。

 

ワークショップでは、写真1のように、1枚の模造紙を「ほしい建物の機能(左上)」「ほしい医療の機能(右上)」「そのために住民ができること(中央下)」の3つに分割し、それぞれについて議論をしてもらった。司会を市議会議員の皆さんにお願いし、各グループには市民のほか、病院職員と設計会社が参加した。設計会社の職員は、事務作業と共に、住民の生の声を聴くことで設計に意見を反映することを目指した。

 

行政の行う一般の建物の建築でワークショップを行うことは少なくないが、その多くは建物の機能について議論をするものである。医療を提供する病院の場合、建物の機能だけを議論しても不十分であり、そこで行われる医療がどのようにあるべきかについて議論する必要がある。さらにいえば、建物の機能、医療の機能には、お金という財源の制約と医師・看護師などの人材の制約がある。この制約を忘れて無制限に要求をしては、医師や看護師が疲弊して医療が崩壊したり、過大な規模の病院の借金で経営が破綻したりする。

 

そこで重要な視点が「そのために住民ができること」の視点である。建物の機能、病院の機能には限界があるが、住民が病院に対してできることをすることで、2つの機能の限界を拡大することができる。住民が、自治体病院を支える「当事者」として、お金や人材の制約を意識し、できる行動は何かを考えてもらうことが重要である。

 

実際のワークショップでは、豪華な病院を建築したが、借金の返済や医師の退職に苦しんでいる自治体病院の例などを紹介しながら、「病院の新築は病院の『最大の危機』である」ことを訴えてから、議論をしていただいた。

ワークショップの議論
ワークショップの議論

個室病室へのトイレの設置

 設計受託会社が正式に決まり、いよいよ病院の基本設計が本格的に始まった。病院職員には、「病院オープン後に使い勝手が悪くても皆さんの不勉強の現れなので、よく勉強してどんどん発言してください」とお願いした。病院職員も通常業務に加えての設計の仕事であったが、積極的に取り組んでいただいた。

 

今回の設計において一番悩んだテーマがトイレの配置であった。新しい個室病室は一定の面積を取ったが、ベッドを置くと広いというわけではない。トイレを廊下側に配置するとベッドまでの通路はデットスペースになる。トイレを窓側に作るとデットスペースは少なくなり、面積は有効利用できるが窓は小さくなる。最終的にはスペースを考え窓側にトイレを配置することにした。

 

トイレについては、さらに議論が続く。職員から、市立永康病院の患者は高齢で寝たきりの方が多く、その多くがオムツを使用し、トイレを使わないことからスペースを確保するためトイレを廃止してはどうかという意見が出された。職員が意見を表明することはとても良いことであり、話し合いでトイレを設置する病室は3割とし、後でトイレを設置できるよう配管を施すこととなった。

 

7割の病室のトイレを廃止することで、共同トイレの場所をどのように確保するかが後述のECI手法による建設会社も入った実施設計作業での課題となった。

施工予定者選考プロポーザル

 設計会社と職員の努力により、2019年11月には基本設計がまとまった。ここで当初の予定のとおりECI手法による設計・建設を進めるために、建設工事請負業務委託者選定に係る公募型プロポーザルを行うこととした。

 

ECI手法とは、基本設計後に建設会社を決定し、実施設計から参加してもらうという設計・建設手法である。市立金山病院の時に健康都市活動支援機構と一緒に試行錯誤で生み出した方法で、当時、国や自治体に例がなく「二段階(設計)発注方式」と名付けた。その後、国立競技場の建設などで行われ、国土交通省はECI方式(Early Contractor Involvement)と呼んでいる。

 

そもそも従来の官庁発注と呼ばれる方法では、図表2のように設計会社を選定するために指名競争入札を行う。入札では予定価格(上限価格)の中で一番低い金額を提示した会社が契約相手として選定される。業者選定においてプロポーザル(提案)で選定するやり方もある。選定された設計会社が基本設計、実施設計、詳細設計と建築の図面をつくり、最終的に工事費の見積もりを作る。建設費の見積もりを元に発注者である地方自治体は、建設会社の指名競争入札を行い、予定価格の中で一番価格が低い金額を提示した会社が契約相手として選定される。

 

図表3は、筆者流のECI(二段階発注)方式の図である。まず、公開プロポーザルで設計業者を選定する。設計業者が病院職員と共に基本設計を完成させ、この時点で建設費を概算する。概算した費用を元に建設業者の選定を公開プロポーザルで行う。決定した建設業者は実施設計・詳細設計に参加して技術協力を行う。実際に建築を行う建設会社のローコスト建築のノウハウを病院の設計に盛り込もうというのが基本的な考え方である。

 

さらに、建設プロポーザルにおいても、設計業務のプロポーザルと同様に、現場で仕事を行う「現場代理人」の人間性を重要な評価の項目とした。さらに自治体病院として税金を使う以上、建設工事に関しての具体的な地元への貢献策について提案していただいている。

 

これまでと比べて市立永康病院の事例で変更をしたのは、JV(Joint Venture:ジョイントベンチャー)の取り扱いであった。JVは資金力・技術力・労働力などから見て、一企業では請け負うことができない大規模な工事・事業を複数の企業が協力して請け負う事業組織体である。JVで参加する企業は都道府県における指名競争入札の格付け点数が上がるなどのメリットがあり、地元企業の参加するJVを希望する自治体が多いが、大手ゼネコン1社の応募に限定してきた。その理由は、病院建築は専門性が高く、地元企業がJVを組んでも技術的な利点はないこと、指揮命令系統が複数となり単一とならないこと、職員による投票に地元JVの関係者が入るリスクがあること、地元下請け業者に公平に受注の機会を与えること(JVの場合、JVに参加した地元企業が受注を独占することが多い)というものであった。しかし、地元建設会社からの要望が高いので、三豊市の場合は、単独企業又は共同企業体であることを1次審査及び2次審査に於ける評価点の対象としないことを明記して参加を認めることにした。

 

2019年12月22日、建設工事請負業務委託者選定に係る公募型プロポーザルが行われた。プロポーザルの概要は、病床数:122床(一般46、療養型46、精神科30)、建築面積:3156.31㎡、総延床面積:9878.82㎡、構造:鉄筋コンクリート造6階建・免震構造、駐車場111台(車いす用4台含む)駐輪場24台、総事業費40億円以内(消費税別)、予定工期実施設計:2020年1月6日~同年5月、建築工事着工:2020年8月予定、工事竣工:2021年10月予定、外構工事完了:2021年11月予定、新病院開院:2022年1月予定というものであった。

 

全国で建設工事の入札不落が続いている中で、果たしてプロポーザルに応募する建設会社があるか心配していたが、奇跡的に6社から応募があった。四国では新しい病院建築の案件が少なかったことや、建設会社の技術力をローコストの病院建築に提案で活かせること、病院の基本設計がシンプルで建築しやすいものであることなどが評価された要因と考えられた。

 

選考の方法は基本設計と同様、現場での責任者となる現場代理人の人柄を重視して配点を行った。建設プロポーザルについては一部議員からの指摘があり、筆者が委員長となった。質問は、アドバイザーの健康都市活動支援機構のスタッフが技術的な質問、筆者が人物についての質問、審査委員が追加質問を行い、審査委員が単純に採点したものを委員会に諮り決定した。

 

人物を重視するという意図が伝わっていたこともあり、6社とも全員優秀な現場代理人を配置して、プロポーザルに臨んでいた。最終的にはその中でも最も人間性に優れ、優秀と思われる現場代理人を配置した建設会社が第一優先順位の会社となった。プロポーザルの中で、第一優先順位の会社の現場代理人は最後に次のように発言した「今回の病院のプランを拝見させてもらった時に、シンプルで分かりやすく、使いやすいプランだと感じました。一般、療養、精神、この3つの性格の異なる病棟を、無理なく整然と縦積みされたプランであり、患者とスタッフの動線も明確に分離されております。これからの地域医療を担うにふさわしい設計だと思っております。また、今回のポイントとなる一床室においても、細部までしっかりと検討され、観察のしやすさと患者のアメニティを両立させており、是非とも病院の皆さま、設計事務所の皆さまと一緒にこの建設に携わらせて頂きたいと強く希望いたします。何卒ご信頼いただき、必ずやご満足を頂ける新病院を完成させることを約束しまして、私共のプレゼンテーションを終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。」

 

 

文字に起こせば当たり前のことと読めるかもしれない。しかし、発言者は原稿を機械的に読み上げるのではなく、自分の言葉で語っていた。設計の狙い、関係者の努力を感じ取って行った発言ということが分かった。筆者はこの言葉を聞いていた時、心から感動していた。正直、三豊市の仕事をしていて本当によかったと思った。

職員アメニティと新型コロナウイルス対策

 交渉の結果、第一優先順位の建設会社と40億円以内(消費税抜き)での発注で合意した。基本全室個室の122床で40億円(消費税抜き)であれば1床あたり3278万円となり、1床4000万円、1床5000万円という建築が相次ぐ自治体病院の中では胸をはれるローコスト建築である。さらに、同社はプロポーザルでは、地元貢献策として市内企業に12億円(30%)の提案をしている。

 

建設会社が参加した実施設計の設計図が固まりつつある中で、修正を行える余地も少なくなってきた。その中で、筆者にとって心残りは職員用のスペースであった。図面を見るとコスト削減のため職員アメニティスペースが最小限になっていた。特に職員の休憩室や男子職員の更衣室は狭かった。職員が気持ちよく勤務できる環境をつくることが収益向上にとって必要となる。そこで図表4のように、総建設費をやりくりする中で、アメニティスペースの見直しを行うことをお願いした。屋上庭園のスペースに職員のラウンジと患者用ミーティングスペースを新たにつくり、男子更衣室と実習生の部屋の面積、事務職員事務スペースを拡大した。

 

さらに、新型コロナウイルスの蔓延で感染症対策も再検討した。一般病床の個室2室を陰圧化し、ウイルスを病院内に出さず、殺菌して室外に排出する機能を備えることとした。感染症外来も設計されていたが、もう一度感染症対策の視点でチェックすると、感染症で独立した入口がなく、待合も狭かった。感染症患者専用のトイレもなかった。隣接していた外来職員休憩室を他の場所に移転してもらい、感染症外来の面積を拡大し、独立の入口、待合の拡大、専用トイレの設置、外来診察室の陰圧化を図ることとした。

 

変更前
変更前

変更後
変更後

このようにして完成した基本設計を元に、2020年10月2日に新病院の起工式が行われた。新型コロナウイルスの影響などから当初の予定からは少し遅れ、2022年2月に建物完成、4月以降に開業する予定で建設作業が進められている。(図表5)

 

 

新型コロナウイルスの蔓延により、自治体病院を含めた病院の感染症対策が喫緊の課題となっている。新型コロナウイルスのような感染症にはソフトとハードの対策が必要となるが、病院の建替えはハードの対策として効果的であると考える。新型コロナウイルス感染症を契機に病院の建替えに踏み切る自治体病院も多くなるだろう。市立永康病院の病院建替えは、そのモデルケースになると考える。

プロフィール

伊関  友伸(いせき  ともとし)氏

学校法人城西大学経営学部マネジメント総合学科教授(行政学)

 

1984年 東京都立大学法学部法律学科卒業。

2001年 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。

1987年 埼玉県庁に入庁し、県民部県民総務課調査係、大利根町企画財政課長(県派遣)、総合政策部計画調整課主査、健康福祉部社会福祉課地域福祉担当主査、県立精神医療センター・精神保健福祉センター総務職員担当主幹等を務める。

2004年 城西大学経営学部准教授に転じ、現在に至る。

 

研究分野は行政学・地方自治論。研究テーマは保健・医療・福祉のマネジメント、自治体病院の経営。総務省公立病院に関する財政措置のあり方等検討会委員、地域医療の確保と公立病院改革の推進に関する調査研究会委員など、国・自治体の委員等を数多く務める。