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内灘温泉病院/ 内灘温泉保養館

 内灘温泉病院の計画は、以前の支援した友愛病院会の富山3病院の評価のもと、医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)が再度受注した。「2段階発注方式」を富山3病院同様に採用し基本計画をまとめ、その方針に沿って、基本設計を設計事務所で、実施設計は設計事務所を主体に施工会社と協働して進めた。

コストコントロールにすぐれた「センター2 段階発注方式」で再整備計画

株式会社佐藤総合計画 プロジェクトリーダー 青山 徹

同設計主任 岩井 友佑

はじめに

 同一敷地内にある内灘温泉病院と内灘温泉保養館は、石川県河北郡内灘町白帆台の砂丘地に、北西に日本海を望み、東には雄大な白山、立山連峰が遠望できる景勝地に位置しています。

 

 施設を運営する医療法人社団友愛病院会は、富山、石川、神奈川の3 県に、計1,000床を超える慢性期医療を主体とした5つの病院群と、介護老人保健施設、通所介護施設を運営し、「高齢者の健康保持」をモットーに、患者様に楽園気分を味わっていただくために、初代理事長が温泉付き老人病院を開設したことが現在の友愛病院会の基盤となっており、温泉療法の継続、医療の質の向上を通して地域へのさらなる貢献を目指しています。

 

■設計開始に至る経緯

 今回の計画は、以前の設計監理を担当した友愛病院会の富山3病院の評価をいただき、医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)を通して清水建設、佐藤総合計画による建設チームとして、お声かけいただいたことに始まりました。

 

 建設チームの役割として、センターによる「センター2段階発注方式」を富山3病院同様に採用し、センターにて基本計画をまとめ、その方針に沿って、基本設計を設計事務所で担当し、実施設計は設計事務所を主体に施工会社協働して進める方式です。この方式の特徴は、施工者の施工上のノウハウを実施設計に反映することで発注者の要望や基本設計の品質を落とさずにコストコントロールできるところにあります。

基本計画

 2014(平成26)年12月当初、友愛病院会様からの依頼は、築23年の保養館の改築と築26年の第1病棟と2004(平成16)年完成の第2 病棟の改修を行うことでした。主な理由として、施設の老朽化(風害・塩害等)、入院率・入所率の低下と入院患者・職員へのアメニティー向上、さらには富山3病院と同レベルの施設サービスも急務の課題とされていました。

 

 新保養館は、敷地の南西側で駐車場として使用されている場所を計画地として、施設規模は3 階建て、入所定員は現状の100人を確保する計画でした。

 

 病院は、建物内外および病室のリフォーム、介護病棟と空調・給排水設備等の改善・更新を行う計画であり、ご要望に基づいてセンターにて基本計画が進められました。

 

 新保養館は、駐車場部分に新築し、病院は医療機能を継続させながらの改修であるため、旧保養館は解体せずに、病院として移転利用する建替えステップ図を作成しました。一時的に旧保養館に病院機能をすべて移転して、既存の病棟(第1、2)を同時に改修することで、工期の短縮も可能となります。

 

 数回にわたる打ち合せ後の2015(平成27)年7月に基本計画書(概算資料)をまとめ、計画概算を行いました。計画概算は、すでに完成した3 病院後の建設物価高騰時期と重なり、病院様の予算を上回り、特に既存病院改修費は新築の保養館よりも平米単価で高い結果となりました。

予算に合わせた計画の見直し

 計画概算の結果を受けて、改修から改築の方向に方針変更することになり、基本計画の再検討を行い、保養館の改築、病院の第1 病棟の改築、第2病棟の改修で進めることが決定しました。その中で、保養館と病院の建替え順序を変更する必要性についてご理解いただくことから始まりました。

 

 当初計画どおり、保養館を先に建設した場合は、病院を建てる際に第1 病棟を解体しなければ建設用地が見いだせないためです。また、病院は工事期間であっても休館とできないことが条件でした。そのため、病院を駐車用地部分に先に建設した後、第1病棟を解体して保養館建設用地を生み出す案をご提案しました。

 

 結果として、旧保養館の病院転換への改修も発生しないこと、患者様や入所者様への負担が大幅に軽減できることになりました。また、第2 病棟は通所介護(デイケア)施設として利用する方針に基づき、全面的な大規模改修を行うことに決定しました。

 

 平面計画の条件として、西側住宅地への配慮(視線、日影等)、北側からの風害・塩害対策などがあげられました。そうした条件や今後の診療報酬も見越した考えから、保養館、病院ともにスタッフステーションを中心にロの字型(矩形)の平面となりました。複数案には、L型平面計画も含まれていましたが、計画概算を行った結果、矩形平面よりも割高(壁面増)となるとの報告を施工者よりいただき、矩形平面となりました。

基本設計から実施設計まで

 基本設計は、方針変更などの経緯から2015(平成27)年12月からスタートしました。設計の全体方針は、「友愛病院会の理念をより高いレベルで実現させる施設づくり」です。富山3施設に続くブランド化の継承とさらなる向上により、友愛病院会の統一的なイメージアップにつながることを目指しました。

 

 設計者としては、センターの基本計画に基づき、医療福祉施設の専門的な立場から友愛病院会のご要望をきめ細かく具体化することを使命と考えています。今回の計画は既存施設を一時期残しながら、改築・改修・解体を繰り返す計画となります。

法的な手続きが複雑になることが予想されたため、早い段階から行政確認を実施し、建替えに支障のない方法を検討しました。

 

 建替え計画においては、ステップ図を作成して諸問題を検討し、全体的な視点に立って竣工までのステップを検証しました(図1)。

 

 実施設計は、2016(平成28)年5月にスタートしました。平面図の確定を7 月初旬とし、中旬よりヒアリングを実施しました。実施設計におけるヒアリングは、設備機器のプロット図(スイッチ、コンセント位置)を決定する病院の重要なポイントの1つです。ヒアリングの結果、平面計画に影響を及ぼす変更も多々生じました。その都度、平面計画の見直しを行い、ヒアリングのフィードバックを繰り返して病院様が望む計画を具体化していきました。

 

 富山3病院をデザイン的に継承するという原則を守りつつ、計画地の冬季の北西側からの強風という敷地特性に対して2 つの対策を行っています。1つ目が塩害対策です。既存建物の金属部の塩害が顕著であることから、本計画建物の外部面には極力金属を使用しない計画としました。富山3施設のバルコニーには金属の手摺が設けられていましたが、本計画では有孔ブロック積みに変更しました。バルコニーは外観のイメージにも大きく影響することから、イメージを模型やイメージパースにて提案しました。

 

 2つ目が結露対策です。既存建物では北西側の結露が酷い状況でした。対策として、計画建物の北西側面に面したサッシには断熱サッシを採用しました。

 

 以上、富山3病院を継承しながらもさらなる向上を目指しながら実施設計は進められました。




工事監理段階

 工事監理は2017(平成29)年3月にスタートしました。地中障害による杭工事の遅れ、総合図によるヒアリングや詳細検討による変更など、様々な調整事項を一つひとつ解決しながら確実に進めています。

 

 大きな変更内容の中には、来年の診療報酬・介護報酬の同時改定の動向を想定し、具体的には、医療機能に応じた患者様の医療看護必要度の重度化に対応し、全病室に医療ガス設備の設置、新保養館はベッド間に仕切りを設けられる設えとしました。

 

 今後も患者さんの療養環境の確保と病院スタッフの使い勝手を高められるよう、現場段階においても可能なかぎり実現していきたいと考えています。新病院建設工事は現在(2017年10月時点)、4階床の打設工事を行っており、2018(平成30)年1月の引き渡しに向けて順調に工事が進んでおります。


「チーム友愛」再び! 3病院同時施工の経験を生かして!

清水建設株式会社北陸支店 富山営業所長 谷口  豊

工事長 影山 祐二

工事長 泉  雄三

はじめに

 2014(平成26)年10月11日、富山県内の友愛病院会3病院がグランドオープンを迎えた。構想に2年、工事に4年を費やしたその大事業の完成に、喜びと達成感を感じていた。しかし、その余韻に浸る間もなく次なるミッションが待ち受けていた。

 

 同年12月19日、医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)の号令により、富山市婦中町にある友愛病院会本部に「チーム友愛」のメンバーが再び集合し、川崎理事様のお話しを伺った。「3病院の整備が完了し、残る相模原と内灘も早く整備して良い環境を提供したい」との決断が伝えられた。これが、「チーム友愛」の新たなる結成とキックオフとなった。

「チーム友愛」でのシミズの役割

①コスト算出

 基本計画~基本設計~実施設計の各段階での算出

②合理化提案

  敷地条件に応じた施工手順の立案、品質とコストを意識した施工合理化の提案

③スケジュール調整

  医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)、佐藤総合計画様立案のスケジュールに合わせた設計段階での技術的な提案と調整

 

上記3つの役割に、当社のこれまでの富山県内3病院同時施工の経験を生かすとともに、合理的かつ新たな挑戦ができる環境を整えることも視野に入れた。

思い切った提案と決断(ターニングポイント)

 基本計画時に「保養館新築」「既存病院改修」の2つを大きな柱として、チームでの計画検討を実施しコスト算出をしたところ、コストパフォーマンスのバランスが悪く、計画を再考するターニングポイントを迎えていた(2015(平成27)年1月〜9月の基本計画検討時)。

 

 そのような状況下で、近代化センター様、佐藤総合様とコストの詰めをしている中、「今回の整備後30年先、50年先を考えた場合、建替えスペースがなくなる」ことに着目し、「病院新築案」の可能性を模索した。可能性とメリットを検証したうえで川崎理事様に打診したところ、「将来的な建替え用地確保」のメリットを評価いただき、「病院新築案」への計画変更をご決断いただいた。

 

 これを受け、医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)から2015(平成27)年11月までを期限に佐藤総合様と案の検討・コスト算出を指示され、スケジュール・コスト・スケールの目標が決まった。

 

 まさにこの事業のターニングポイントとなり、川崎理事様の眼力と胆力に再び驚くこととなった。こうして、「チーム友愛」の新たなゴールに向けた挑戦が始まった。

患者様と病院スタッフ優先の施工計画

 石川県内灘町の閑静な住宅街の中、北に大きく広がる日本海、南に悠然と広がる白山、その足元には趣のある河北潟をのぞむ立地にある内灘温泉病院。周囲の敷地より高低差がある地形に3棟が配置されており、既存建屋を運営しながらの工事計画となっている。2017(平成29)年3月に着工した今回の計画は大きく3期に分かれている。

 

• 1期工事:既存駐車場の移転後、新病院棟の建設(80床)。11カ月

• 2 期工事:既設第1 病棟解体後、新保養館A棟(100 床)、B棟(管理・事務)の建設。同時並行する第2病棟(デイケア棟)の改修工事。13カ月

• 3期工事:既設保養館解体後、新病院棟、新保養館棟をつなぐ渡り廊下の建設。病院敷地内整備の外構工事。6カ月

 合わせると30 カ月の長期工事計画となる(2017(平成29)年10月末現在、1 期の躯体工事が完了、仕上げ工事の全盛期となっている)。

 

 今回工事最大のポイントは、既設病院を運営しながらの施工計画であり、病院関係者の動線・工事動線・法的動線の計画、インフラ計画を確立し、病院運営への影響をできる限り少なくすること、また、前回3 病院の経験を生かし、前回同様5つのミッションをいかに進化させられるか、の3つにあった。

 

 第1に、開かれた環境づくりを旨とし、工事現場運営にあたっては、病院スタッフ・近隣の方への配慮とし、工事予定を明確にすること。そして仮設足場には当社コーポレートメッセージ『子どもたちに誇れるしごとを。』を掲げてアピール、周辺地域のイベント参加への対応等により、近隣と良好な関係を築いていく。施設出来上がり状況については、病院関係者・患者・ご家族・地域住民の方々がコミュニケーションを図れるよう、佐藤総合計画の指示の下、計画・整備していく。

 

 第2に、高齢者特性に配慮した計画については、前回3病院での納まりを踏襲するのはもちろんのこと、さらなる使い勝手の向上を目指し、病院側とのヒアリングを密に行って進めている。

 

 第3に、内灘の気候風土に適したものづくりとしては、海に近いこともあり塩害対策と季節的な北風への考慮だった。塩害対策として前回病院とは異なり、外部へのアルミ手摺から有孔ブロックへ仕様変更をするなど、風土にいっそう適した仕様に変化対応している。そして、これらが全体的建屋ラインとしてつながりを持ち、内灘のコンセプトであるしずやかな雰囲気を醸し出し落ち着いた環境づくりとなっている。

 

 第4に、省エネルギー、自然エネルギーの活用、維持管理しやすい計画として、現状インフラの把握を確実に行い、温泉・井水の継続的かつ必要とする範囲の確定にて維持管理についても明確になる配管計画で対応している。

 

 第5に、効率的な建替えとして、最初にポイントとして挙げた動線計画となる。佐藤総合の建替えステップ図を基に工事エリアを確立し、そこから病院関係者の運用状況を把握し、患者様・病院スタッフ第一の考えの下、建屋とともに設備機器ルートの現地調査を行い、影響がないよう動線計画を進めていくことが効率的であると判断し施工を進めている。現地調査を進めるにあたり、既設配管のルートが確認できない範囲もあったが、慎重に調査・施工することでインフラ事故防止につながっている。そのおかげで、既設病院を運営しながらとの条件を確実に守り、患者様への影響・負担なく順調に工事を進めることができている。

 

 最後に、3病院施工で得たノウハウとともに、新たな視点で今回工事を施工することは、より良い病院環境への提供ができるのではないかと考えている。

「三方良し」の継続

 重ねて申し上げるが、富山での3 病院施工というプロジェクトにおける経験が、今回工事への継続となった。その継続の中で、使い手(施主)である友愛病院会様、総合管理として医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)、作り手(設計・施工)として佐藤総合計画様そして清水建設が、「チーム友愛」として引き続き結成された。

 

 これからも地域に喜ばれる雰囲気づくりを旨に、工事期間において土台となるよう努め、より良い施設を築き上げることで、グランドオープンとなる2年後には「三方良し」を皆様で実感できるよう、品質確保、安全に努めていきたい。