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下呂市立金山病院の施設整備事業

 下呂市立金山病は、医療施設近代化センタ一(現在の健康都市活動支援機構)と城西大学経営学部伊関友伸教授のアドバイスの下、病院建設費を当初の見積額30億円から20億円に収める等「ローコスト、ハイクオリティ」の目標を達成した。本稿では、その経緯についてレポートする。

「ローコスト•ハイクオリティ」な病院づくりを目指して

下呂市立金山病院理事 森 千尋

市町村合併の余波を受けて

 岐阜県下呂市は、県中央部に位置し、北は日本三大祭で有名な高山市、また、霊峰御岳山を臨み、西には、三日三晩踊り明かす盆踊りで知られている郡上市に隣接し、市の北から南にかけて縦断する飛驊川が流れ、飛驊木曽川国定公園や県立自然公園など 自然豊かな地域です。平成16年3月に下呂町、萩原町、金山町、小坂町、馬瀬村の4町1村が合併して新生下呂市が誕生しました。総面積は851k㎡で、山林が全体の約9割を占め、河川に沿った平坦地とゆるやかな斜面を利用して農業地、商業地、住宅地が混在しています。合併当初は人口4万人を数えましたが、現在は3万8千人と高齢化と過疎化が進んでいます。天下の三名泉の一つとして全国的にも名高い「下呂温泉」を擁し、主に観光を目玉にして地域振興を展開している街でもあります。

 

医療機関は、合併時の条件により現在町村に存在する公立病院および診療所は、整備を新市が引き継ぐとの約束事がなされておりました。当院、下呂市立金山病院は改築の繰り返しで、一番新しい建物でも築30年余を経過し、未耐震であると同時に老朽化と狭隘化に伴う機能低下が著しく、市合併前から新築移転計画がありました。しかし合併後、この整備計画がなかなか思うように進まなくなりました。その大きな要因が、当院と約30km離れた市の中心部に県下3病院の一つ、県立下呂温泉病院が存在することです。そしてこの病院の移転新築計画が同時期に重なったことが、後に当院の整備を遅らせることとなりました。 

 

合併の趣旨を踏まえた市の責任下での病院整備計画を実行することに、議会および診療圏域である旧金山町以外の市民から、市の厳しい財政況からみても市に2つの病院は必要なく、「県立病院があれば市立病院はいらない」「診療所で十分」などの声、反発が多く挙がったのです。また、「市立病院の早期整備は、医師不足などから厳しい経営環境下にある県立下呂温泉病院の市への移管を招くのでは」との噂も流れ、心配されていた合併の弊害が表面化し、一筋縄ではいかない大変な困難が広がり始めました。 

 

当院の経営環境も厳しさを増していました。診療報酬のマイナス改定、新医師臨床研修制度に伴う医師不足などの政策的な影響によるものと、施設の老朽に伴う患者さん離れなどから、年々欠損金が増大していくと同時に運営資金である現金が減少化傾向 にありました。 

 

設立以来の長い歴史が物語るように診療圏域の市民の皆さんの生命と健康を守り、医療を支え続けてきた病院ですが、このままの状態が続けば病院の行く末が危ぶまれる状況で、一刻も早く、医師、患者さんからも必要存続を要求されている病院整備を進めることが解決策と考え奮起しました。 

 

そこで、この病院整備を議会および一般市民の理解を得てスムーズに前進させるためには、2つの懸念材料の払拭が肝要であると考えました。1つが、市立•県立2つの病院の必要性に対する疑念の払拭です。そしてもう1つが、病院整備が市の財政に与える影響に対する不安の解消にいかに努めるかです。

 

2つの病院の必要性については、県立、市立両病院が各々に担う医療の役割分担確立との観点から、県立下呂温泉病院移転新築検討委員会の組織を立ち上げ、県立、市立両病院の関係職員で病院の機能分担など医療体制について協議を重ねることになりました。また並行して、議会、市民に対して、出前講座、市民フォーラムなどを開催し、病病、病診連携の必要性、財政状況についての説明に努めました。県立病院存続の不安解消策として、同院の早期整備促進を県知事に陳情したり、県医療整備課の幹部へ の要望提出も繰り返し行いました。 

 

そうした努力の甲斐あって平成21年11月、ようやく県立下呂温泉病院の整備計画のタイムスケジュールが示されるに至り、懸案事項の1つの解消の目 処が立ったのです。

医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)との出会い

 一方の、整備によって病院経営ひいては市の財政がひっ迫するのではないかという不安の払拭については、何よりも、病院は建てたが経営が立ち行かなくなったのでは本末転倒であり、そうした事態だけは絶対に避けなければなりません。そこで、「身の丈に合った、機能の良い病院を、いかにコスト抑制を図り実現するか。将来的に病院経営に極力影響を与えない病院づくりを行わなければいけない」が最 大の課題であると認識しました。当時、ある機関に依頼した基本計画策定で、一般•療養病棟を合わせて100床で、建物に係る建築費は30億円との試算が提示されていました。しかし総務省から平成19年に、「公立病院改革ガイドライン」が示され、病院事業の赤字が自治体財政を圧迫する要因の一っが病院建築費の起債に対する建築単価であるとして、I㎡当たり30万円とする上限枠が 設定され、民間並みの病院建築費を求める指針が示されました。それもあり予想どおり下呂市議会から、市の厳しい財政状況もあり事業費圧縮のため、コスト削減を図るよう見直しが求められました。 

 

病院建築費のさらなる削減が課題となり、暗中模索していたところ、目に飛び込んできたのが、ある自治体病院建築の事例でした。その中にあったのが、特定非営利活動法人医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)とアドバイザリーの委託契約を行ったという記述でした。 

 

渡りに船の思いでさっそく、その自治体の担当者に問い合わせたところ、親切かつ財政に見合った病院づくりを的確に支援•指導いただけたと、大変評判のよい答えが返ってきました。また、同様に近代化センター(健康都市活動支援機構)が関わられた民間の理事長さんにも問い合わせたところ、かなりのコスト削減を図ることができ大変助かったとの話を伺うことができました。

 

我々市の職員は病院建築に対してはまさに素人です。ある自治体で整備された病院の事務局長さんから、知識がないまま建築に携わり、市議会の立場優先で工事が進んだ結果、整備規模が膨大化し、その分事業費が跳ね上がり、今ではその起債の償還に大変苦慮しているとの話も伺いました。未経験の者が携われば当然の結果として表れる事態を痛切に感じ、そのお話を他山の石とし、実績もあり病院側の立場から設計•発注•施工管理の各般において適切なアドバイスを行っていただけることを期待し、近代化センター(健康都市活動支援機構)にアドバイザリーの手助けを委ねる決断をしたのです。 

30億円が20億円に ~公開プロポーザル方式の発注を採用~

 こうして近代化センターの指導の下、整備計画が始まりました。まず当院の決算書を見てもらいました。すると、現状の年間収益、経営状況から病院建築費の最高限度額は20億円が上限だと言われたことには驚かされましたが、建築費の枠が定められたことで、事業費の見直しを、医師を含め病院職員と協議し進めることとしました。病院の良し悪しは、設計業者で決まると言われています。その意味で、20億円以内で、いかに機能的な病院建築ができる設計業者を選ぶかが大きな課題です。 

 

そこで、近代化センター(健康都市活動支援機構)および同センター専門委員の伊関友伸•城西大学経営学部准教授のアドバイスの下、基本設計業者の選定は、単なる安さのみを求める指名競争入札をやめて、一般市民や病院職員などに公開して行うプロポーザル方式での選定を採用することとしました。この方法は、会社の内容、実績、取り組みなどの提案、また実際に病院設計者の人間性、情熱、考え方についてヒアリングにより確認するという審査過程を経て、最もふさわしい設 計業者を選定するものです。 

 

平成21年4月、市立病院建設設計プロポーザル審査要綱を設置、審査委員会に学識経験者、委員長として伊関准教授ほか、医師会、歯科医師会、薬剤師会、自治会連合会、行政各代表者、病院長の11名のメンバーを選定、5月19日に委員会を開催しました。伊関委員長の下、プロポーザルへの参加募集に向けた技術提案内容について審議するとともに今後のスケジュールの確認を行いました。 

 

その後、病院ホームページ、建設業界紙で参加募集の公告を行った結果、5社の特定事業者の参加表 明があり(後に1社辞退)、近代化センター(健康都市活動支援機構)同席の下、参加表明書の内容等について審査を行いました。 8月、第2回プロポーザル審査委員会を開催し、二次審査のための技術提案内容の審議と公開プレゼンテーシヨンおよびヒアリングの進め方について協 議しました。 

 

その結果、参加業者には、メインタイトルを「『日本一、ローコスト・ハイクオリティ』な病院づくり」とすること、移転新築・4階建(一部5階建)、延べ 床面積7,00O㎡以内、病床数99床(一般病棟50床・療養病棟49床)、本体事業費は20億円以内の条件提示をしました。また、技術提案として、①コストコン トロールの手法、②ランニングコストの縮減、③患者に優しい療養環境と効率的で働きやすい環境、④自然環境や土地の形状を生かした建物の配置計画および敷地利用、⑤病院各部門の連携と、人・物・情報の関連付け、⑥災害に強く将来的な医療環境の変化に対応可能な設計、⑦その他特別に強調したいこと、を提示するように求めました。 

公開プレゼンテーション・ヒアリング当日

 平成21年10月25日(日)、下原公民館ホール(金山振興事務所併設)で開催した公開プレゼンテーションには、自治会代表者、一般市民、議会議員、関係 職員約100名の参加傍聴者がありました。参加業者の発表順序は予め抽選で決めてあり、予備審査を受けた4業者が7項目の技術提案についてパワーポイントを使用して発表を行いました。 

 

1社当たりの持ち時間は、説明40分、質疑応答40分との配分でした。近代化センターに作成いただいた評価表に基づき各社の評価を11名の審査委員が集計、採点結果の高い上位2社を選ぶ方法で、最適格業者は、(株)東畑建築事務所(大阪市中央区)、次点業者に、(株)佐藤総合計画(東京都墨田区)が決定 しました。 

 

先述した県立病院の計画が決定したのがこの頃で、それを市議会に報告するとともに、ここまで進めてきた当院の計画の見直しと、公開プロポーザルで選定した設計業者の議会了承も得て平成21年12月、基本設計の契約が完了、ようやく市立金山病院 整備が動き出す運びとなりました。 

二段階発注方式

 コスト削減には、今までの自治体の発注方式を180度転換できなければ実現不可能です。一般的に建築工事の発注は、基本設計完了時点で実施設計を行い、計画図および仕様書により数量• 金額を積みエげて設計金額を算定し、予定価格を設 定して入札という手順を踏みます。また、建物•電気•設備とそれぞれを分離して発注するのが通常です。しかし、これらの方法では、それぞれに経費が発生し、また設計と施工との段階で手戻りが生じて変更契約に伴う工事費の増加が生じることがあり、建築コストの抑制を図ることは難しいと言われてい ます。 

 

そこで、伊関委員長提案の一括発注の手法と、基本設計完了時に実施設計と併せて請負業者を選定することでコスト削減を図るという新たな試みに挑戦することにしました。まだ自治体では例が極々少ない方法ですが、実施設計時に施工業者が予め選定しておくことで、設計および施工業者が連携し、お互いに知恵を出し合い手戻りなく、また効果的に詳細設計を進められるというメリットがあります。施工業者とは、できるだけ経費の発生を抑えるため、実施設計完了時に一定額の精算を行い随意契約しながら進めます。 

 

こうしたコスト意識を前面に出すことで、施工業者選定に必然的に大手業者参入という、地元業者との関わり方が大変難しい面が生じました。下呂市の厳しい経済状況の中、また地元企業の活性化との観点から、何とか地元業者が参入できないかと議会および関係方面から設計業者決定後、日々かなりの働きかけがありました。しかしここまでローコスト•ハイクオリティの病院づくりのために、基本設計業者の選定の段階から一貫して取り組んできたことが、そうした声に屈してしまえば、すべてが水の泡と化してしまいます。それだけは避けなければと、議会の説得にはかなりの汗と労力を裂くことになりました。施工業者の募集要項の中に、地元企業に対する貢献策を盛り込み、それを公開ヒアリングの場 において審査の判断材料にするということで一応の理解を得たものと解釈し、何とか病院建設事業請負業者選定プロポーザル募集要項をまとめるに至りました。 

 

平成22年4月下旬の審査委員会後、ホームページ、業界紙にて公告と参加の呼びかけを実施。6月上旬に公開ヒアリングを行い、本冊子が発刊される頃には施工請負業者と基本協定書の締結がなされることと思います。 

おわりに

 平成の大合併に伴い、病院整備事業を進めるに当たり、想像した以エに議会・一般市民からの強い風当たりと、県立下呂温泉病院の移転新築もあり大変な時間と労力を費やすこととなりました。しかし何とか、関係者皆様のご理解とご協力、近代化センタ一(健康都市活動支援機構)の心強いアドバイスの下、「日本一、ローコスト、ハイクオリティ」という大きな目標達成に向かって 前進できていることを大変感謝しています。平成24年の開院を目指し、立派な病院が完成することを心から祈念しています。また病院完成の折には、皆様方へ誌エをお借りして報告する機会があれ ばと願っています。

新病院建設への苦悩と熱い思いに応えて難題解決をいかにサポートしたか

医療施設近代化センター常務理事 吉村重樹

年明けの1本の電話から

 平成21年1月6日、突然の「下呂市立金山病院の事 務局長、森と申します」という一本の電話から始まっ た。病院の老朽化に伴い建て替えを計画しているが、 いろいろと悩んでいる問題があるので一度訪問したいとのこと。それではと、①過去3年の病院の決算書、②現病院の施設内容•写真、③移転地の敷地図 (平面プランを落とし込めるもの)をご持参いただき たいと申しエげ、1月16日に当方の事務所でお会いすることとした。 

 

1月16日当日、センターからは筆者と有村、橋本 の3名が同席し、森事務局長(現•理事)と最初の面談を行う。まずは森事務局長に、医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)の位置付けと役割を理解してもらうため、センターの設立趣旨と役割について説明した。その要点は、 

① 他の業界の建設コストに比べ、医療界の建設コス卜は割高である。 

② 一方、医療界を取り巻く経営環境は非常に厳しくなってきた。 

③ その状況下でも、良質な医療を継続的に提供していくには施設の近代化は必須である。 

④ しかし、そのための初期投資が経営を圧迫し、経営の健全性が維持できなくなっている現実がある。 

 

センターはそれら病院が抱える問題を解決するこ とを目的に設立されたNPO法人で、今回もおそらく、これまでセンターが関わってきた案件と同様の相談内容であると思われること、今お話したセンタ一の考え方をご理解いただいたうえでお話を伺いた いこと、あくまでセンターは病院側の立場で計画を進めていく姿勢を基本としている旨を申し上げた。 

 

森事務局長の「わかりました」との言葉を受けて本題に入った。話の要点はおおむね次のようなものだった。

① 老朽化した市立病院の建て替えを計画している。 

② 某協会に平成19年、マスタープランの作成を依頼 (冊子を持参)。 

③ 20年度基本計画を策定、21年度基本設計ということで今日に至る。 

 

しかし現在の病院の経営状況、市の財政を考え 時、担当者としてこのまま計画を進めることはあまりにも無責任であると感じていること、もとより議会・住民の理解を到底得られるものではないと日々苦悩している。その最中にセンターの存在を知り、 滋賀県の公立甲賀病院、飛驊高山の須田病院にセンターのことを伺い、一度相談してみようという気になって電話をした、とのことだった。

苦悩の全容

 「センターにお願いしたい最大の目的は、建築費の低減です」。縷々と説明する森事務局長の様子はまさに必死であった。ロにこそ出されはしなかったが、 この計画を無難に進めるつもりなら、議会対策などを要する困難な道を選ばずともよいはずである。しかし病院の現状と将来を憂える気持ちが今回の行動に駆り立てたということが、ひしひしと感じられた。 拝見した某協会の計画案は次のようなものだった。 

 

① 規模99床で延床面積8,255 m 

② 建築費30億円(坪単価約36.3万円) 

③ 平成21年度基本設計着手(予算市長査定4,500万円) 

④ 4月以降設計入札の予定 

 

一瞥して99床の病院に30億もかけるなんてセンタ一の常識では理解できないと思ったものだが、病院としてはこれを、①安く機能的な病院、②効率的で財政的に負担にならない計画としたい、要は安くて、よい病院をつくりたく、ぜひセンターの力を借りたいというわけである。森事務局長の熱い思いを我々3人ともが感じ、これはなんとしても熱意に応えなくてはとの思いを強くした次第であった。 

 

ここで一つだけ確認をとったことがある。それはこの計画を進めるに当たりとても大切で、そしてとても困難を伴う問題であった。「この計画を成功させるためには政治家を介入させないこと、あくまで病院と真摯に計画を進めること、これができなければセンターの力は発揮できません」 

 

これに対し森事務局長はきっぱりと「わかりました。そのことは責任を持ちます」と即答された。その言葉を受け、正式にセンターで基本計画を検討することとし、下言己について確認した。 

 

①診療科目は眼科を含め11科目診センターの設置(既存建物の利用) 

③ 人工透析10床 

④ その他(実地調査による) 

⑤ 基本計画策定の予算:基本設計予算は市長査定済 (4,500万円)。3月議会で承認、4月以降に入札予定 

 

以上を踏まえ当面の作業として、①実地調査(2月 3日)、②基本計画策定、③センターとの業務委託契約の締結、を進めることで合意に至った。 

1月27日、電話で森事務局長と今後の進め方について、①病院の考えている安価・機能的・効率的・ 財政面で負担にならない施設整備計画をセンターでつくること、②基本計画をセンターと病院で合意形 成し作り上げることはもとより、基本設計・実施設 計・施工までセンターが関わりながら進めていく体 制が大切であることを確認。そして2月中に、③プロポーザル方式の発注について(公平・公正・透明性が大切)、④下呂市と病院の役割分担、を両者で詰め ていくことを確認した。④については責任者である 市長も、センターに知恵を借りることを了解済みで、 森事務局長としてはセンターに大いに期待しており、うまく合意し進めていきたいとのことだった。

2月3日実地調査、3月13日基本計画提示

 2月3日に建設予定地を視察。敷地の形状、広さ、関 連施設との関係等からも病院建設予定地としては申し分ないと判断された。その後病院にて関係者で、 「施設整備上の確認事項」を打ち合わせた。 

 

① 人工透析について:現在通院者は10人程度、5床で 十分。 

② 手術室について:病床規模•現状から考えて1室で 十分。 

③ ICUについて:救急対応ということだがICUに準 じた音屋があればよい。 

④ 感染病室について:一般病床の中に陰圧化された1床を用意すればよい。 

⑤ 診療科について:眼科の増設、歯科ユニット3台 (一般用2台、障害者用1台)、外科の乳腺外来を検討する。 

⑥ リハビリテーションについて:脳血管疾患、運動 

療法等の施設基準を満たすもの(病棟6割、外来3 割)。 

⑦ 医療機器について:MRI • CTは現在のものを移 設する。 

⑧ 電子カルテについて:装備する。ただし新たに構築するタイプのものではなく、汎用性のあるものを廉価(1億円以下)での導入を検討する。 

⑨ その他:センター業務委託契約について。 

 

以上を踏まえ計画に着手。3月13日、病院にて基本計画案を提示•説明した。 

① 規模:約7,000㎡

② 工事費:20億円 

③ スケジュールについて 

④ 敷地測量の実施について 

⑤ 概算工事費に含まれない事業費について 

 

当方の計画案に森事務局長は、「これでできるんですか」と大変驚いた表情をされたが、「詳細の検討はこれからですが大丈夫です。これでできます」とお答えすると、我が意を得たりといった感じでニッコリと微笑まれ安堵の表情を浮かべたのが印象的だった。そして早速、3月中に病院の管理会議(16名)で検討するので、できれば模型もつくってほしいとの要 望が出た。 

 

さらにもう一つ、城西大学経営学部准教授の伊関友伸先生に、「プロポーザル検討委員会の委員を、できれば委員長をお願いしたいのだが」との相談を受けた。2008年10月に、全国市議会議長会主催の医療講演会を下呂市議会が開いた時、講演をされたのが伊関先生で、下呂市議らが先生の話に共感していたの 、委員長を引き受けていただけると非常にありがたいという。 

 

伊関先生は当センターの専門委員で、自治体病院の現状と今後について非常に危機感をもっていらっしゃる。しかし大学の授業、執筆活動、講演と大変お忙しい方で、果たしてお引き受けいただけるかどうかわからないと返答し持ち帰る。東京へ戻り早速、伊関先生に打診をしたところ、「わかりました。お引 き受けします」と快諾いただけた。 

4月、施設整備計画スタート

 4月、伊関先生と下呂市幹部の方との面談をセッ 卜し、下呂市金山副市長、森事務局長が上京され伊 関先生に正式に委員長就任を依頼。ここに下呂市立 金山病院整備計画が、新たなスタートを切った。 我々も(森事務局長も同じ気持ちだったと思うが)、「よし、絶対に期待に沿うよい病院をつくるぞ」との 決意を新たにした次第である。 

 

5月19日、伊関先生と下呂市を訪問。野村市長と お会いした後、病院関係者と「ローコスト・ハイクオリティな病院建築」のコンセプトについて協議をし、①設計者選定をプロポーザルで実施すること、

 

②病院づくりに市民も参加してもらい自分たちの病院をつくるとの意識を持ってもらうため公開プロポーザルとすることを決定した。席上、伊関先生は 「今回の下呂市立病院の設計者選定は、全国の自治体病院建設のモデルとする」と話され、先生も大変な力の入れようであることが伺えた。 

 

その後、伊関先生、センター、森事務局長とで細 部の詰めを行いながら準備を進め、10月25日日曜日、 旧金山町役場で市民、議員、病院職員、建設関係者 ら約100名が傍聴者として参加する中、4社の設計事 務所による、公開プロポーザルが実施された。 

 

これはセンターとしても初めての試みであった。 審査の結果、(株)東畑建築事務所が最適業者に選出されたが、他の3社も素晴らしく、どこが選ばれても不思議ではなかったと思う。各社とも多大な時間と費用がかかったと思われるが、結果についての不満もなく、今回のプレゼンについて一定の評価をいただいたことが大変ありがたかった。 

 

その後、東畑建築事務所が病院へのヒアリングを重ねながら、鋭意基本設計を進めているところである。一方で、ゼネコンの発注について2段階発注方式で業者選定を行うプレゼンテーションの準備も、 現在、着々と進んでいるところである。

新築竣工に寄せて

下呂市長 野村 誠

待望の新・市立金山病院が完成

 このたび、待望の新・市立金山病院が完成し開院の運びとなりました。

 

 下呂市が目指す「安心・安全なまちづくり」を進める上でも、医療体制の確立が最重要課題となっており、医師・看護師不足や高齢化時代を迎え、療養環境の充実が求められる中、新金山病院の完成は、これら課題を解決する一策として大きく期待しています。

 

 より良い医療環境が整うこととなりますが、将来にわたって地域医療の拠点とするために、「下呂市医療ビジョン」を基に医療従事者の確保や包括的な体制の整備、市民協働体制づくり等にさらに取り組んでまいります。

 

 建設に当たり、病院づくりワークショップにご参加いただいた市民の皆様をはじめ、関係各位の皆様方のご協力ご尽力に改めて敬意と感謝を申し上げるとともに、今後一層の医療体制が確保され地域住民が安心して健康な生活を送ることができることを祈念いたします。

 

下呂市立金山病院長 吉田 智彦

 

 地域の皆さん、職員の皆さん、皆さんとともに作り上げてきた新病院がやっと完成しました。

 財政難の折、ローコスト、ハイクオリティを合言葉に、既存の病院に、必要であってもなかった機能だけを加え、吹き抜けを備えた玄関ホールなどはなくし、身の丈に合った病院を考えこの新病院となりました。

 

 言うまでもなく、病院は受診料で成り立っています。地域の皆さんには、病院を上手に利用していただくことが病院を支えることになること、職員の皆さんには、いかに受診したい病院にするかを考え行動することが今後、この病院の維持発展につながります。

 

 病院の最も大きな使命は、地域社会の維持を医療の面で支えることにあります。今までの病院は、水回りや空調設備など老朽化によりその維持が困難となり、皆さんには不自由をおかけしていました。

 

 新病院では、十分とは言えませんが療養環境は格段に向上すると考えています。新病院の完成を機に、皆さんにはさらに一層のご支援をよろしくお願いいたします。

下呂市立金山病院移転新築工事の経過

基本計画

①経緯

 平成21年3月中旬ごろから平成19年度に策定した基本計画(マスタープラン的なもの)の見直しや設計業務の取り組み方など、情報収集をする中、県内の民間医療機関が、(特定非営利活動法人)医療施設近代化センターからアドバイスを受け、建設ストを数億削減されたことを知り、当院から当該センターに相談をしたところ、協力していただけることとなった。内容は、基本計画を見直し、プロポーザルによる設計・施工業者の選定などであった。

 

②基本計画の見直し

 当院の決算規模等から事業費は20 億以内、面積は7千㎡以内を目標に平面計画の作成を行った。

・基本計画:建物事業費27億92百万円

 →19億34百万円(本体・外構・解体)

・設計:事業費1億86百万円

 →97百万円(基本・実施・監理)

 

③設計業者の選定

 設計業者については、公募型のプロポーザル方式で行うことになり、業者選定までのアドバイスや資料の提供等を受け、平成21年10月25日に設計業者を選定した。

 最適な設計業者の選定:東畑建築事務所

・伊関教授による講演および市民参加型ワークショップ 平成22年1月 約70名

基本設計

・設計、工事監理までの費用は約1億円(基本25,200、実施50,190、監理25,200)

実施設計

・免震構造性能認可申請、建築確認申請業務を進め平成23年2月中旬に認可を受ける。

・県補助金においては、平成23年1月交付決定を受けた。

施工業者

・施工業者については、 実施設計に施工業者の技術、経験を反映することで精度の高い設計となるよう公募型のプロポーザル方式で行い、6月6日施工業者を選定した。

 

 最適な施工業者の選定:戸田建設

技術提案事項

・ライフサイクルコスト(将来における維持管理費)の縮減および建設コストの縮減に関する提案事項について協議調整を進める。

・全体工事費の35%以上を地元建設業者に発注対応する。

移転新築工事

 金山町金山、かなやまサニーランド横に鉄筋コンクリート造5階建てを建築した。

プロジェクトを振り返って

株式会社東畑建築事務所 名古屋事務所主幹 犬飼 直樹

規格外のはじまり

 「学生時代のエピソードを聞かせてください」。

 幾多のプロポーザルやコンペに参加し様々なヒアリングを受けたが、このような質問は初めてだった。唐突な問いかけに少し戸惑ったが「これは面白いぞ」と思い、高校時代はクラブ活動、大学時代はアルバイトに明け暮れ、勉学を少し疎かにしていたことなどを話したことを、今は懐かしく思う。

 

 最初、審査委員長の伊関教授より、今回のプロポーザルは「人を選ぶのが目的です」と明言され始まった下呂市立金山病院新築工事の設計者選定ヒアリング。市民公開での説明と受け答え。市民の皆さんの好奇心一杯の眼が我々の案に向けられた。我が街の病院の行く末を真剣に考えている皆さんの熱意がひしひしと伝わってきた。

 

 説明40分、質疑40分。ほんの数十分で終わってしまうヒアリングが多い中で、とても贅沢な時間配分。その中で、我々が考えたこの病院改築への熱い思いを存分に説明できた。私のエピソードには、審査員席の後ろで控えておられた一際目立つ大柄の方が笑っておられたのが印象深かった。後々、その方が副院長先生と判明。ヒアリングには病院改築コアスタッフの皆さんも多数参加されていた。

 

 プロポーザルの設問は、大きくコスト抑制の考え方、建物配置や建物の考え方、災害に対する考え方、患者に優しく働きやすい環境についてなど。それらをまとめたテーマの副題には「日本一、ローコスト・高価値の病院建築の創造」がうたわれていた。

 

 言葉は悪いが、建設コストをローコストにするだけならば、設計施工で施工会社に依頼すれば良いと想像がつく。実際、ローコスト病院を問うて施工会社のみで行われるプロジェクトも増えてきた。

 

 設計事務所が参画する意義、それを示す意義がある。我々は「高価値の病院建築はどうあるべきか」に想いを馳せた。ただ、今回の病院は超急性期の高機能病院でない。またゴージャスな私立病院でもない。我々は「信頼関係の循環が生まれる病院」プロジェクトの根底テーマに置き、患者が心地良い環境で医療が行われ、医師・スタッフの働きがいにつながり、この循環により地域に愛され、信頼される病院。このつながりの環を作り、それぞれの満足に繋がる高価値を生みだそうと考えた。この一見、簡単そうだが、難しいテーマが今回のプロジェクトのコアだった。

地方病院の存在意義

 昨今の医療情勢は主に医師不足による診療科の縮減などで、医療崩壊が社会問題化している。それらの問題を打破すべく、都市中核病院では病院の合併・統合などにより、マンパワーや医療機器などの医療資源を集約化・高機能化し、規模を拡大しつつ建替えを進めている。集約化・統合が成せない地方都市の中小病院では、建替えどころか医療存続すら危ぶまれている病院も少なくない。総務省より「公立病院改革プラン」の提示を求められ、経営が改善しない病院は福祉施設への用途変更や廃止が検討されている。地域医療を守ってきた医療機関がなくなることは、地域住民にとっても切実なことで、各地で地域住民を巻き込み、盛んに議論されている。

 

 この金山病院も、その同じ流れの中で翻弄されていた。施設は老朽化・狭隘化し、耐震化しても狭隘化した病院機能もままならない。しかし病院の建替えには、多大なコストがかかる。そして病院自体を存続すべきか否か。重い課題が課せられていた。敷地は下呂市中心市街地より、南に30km ほど離れた金山町に位置する。病院の前身は、町立の金山町国民健康保険病院。平成の大合併により下呂市立病院となった。下呂市には中心市街地に2次救急を受け持つ岐阜県立下呂温泉病院がある。金山病院は1次の救急を受け持つ一般病床50床、療養病床49床の99床の病院。市域に2病院。この条件からすれば、合併が1つの選択肢ともなるのは仕方ない。

 

 当初、下呂市は他自治体のように通常発注方式にて建替えを模索し、あるコンサルタントに建設費概算総額抽出を依頼した。結果、35億円という高額見積もりが提示され、建替えに躊躇していた。豪華病院に建替え後、その借金返済が自治体財政を圧迫している実態に不安視されていた。

 

 「このままでは私たちの病院がなくなってしまう」。そこで病院の森理事が危機感の下、藁をもすがる思いで門戸を叩かれたのが、NPO 法人・医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)だったと伺う。

 

 そこから始まったのが今回のプロジェクト。近代化センター(健康都市活動支援機構)の「ローコストで高機能な病院づくり」という信念と、著書『まちの病院がなくなる!?』にて地域医療崩壊に警鐘を鳴らされていた城西大学・伊関教授のコラボレーションであった。そのような背景があっての「人を選ぶプロポーザル」だった。

波乱の幕開け

 プロポーザルにて我々が選択され、第1回の顔見せ会議。皆さん、私の顔を見て笑顔だった。公開ヒアリングでの私の劣等生ぶりを皆さん聞き及んでいて、親近感を持っていただけていた様子だった。

 

 ところが、我々の提案した案を説明し意見を伺う段になったところで、皆さんの顔色が芳しくなくなった。思い描く病院像がある様子で、議論は上滑りとなり、最後には「この案を安くつくってくれれば良い」との話が出た。概算抽出の叩き台となった計画図を示しての話だった。プロポーザルのヒアリングで印象的だった大柄の副院長先生の、声を大にしての訴えだった。

 

 「わかりました。その案もつくりますが、病院の建替えは、病院建物が新しくなる機会であると共に、組織も変わるチャンスです」「まっさらな中から、皆さんの話を聞かせてください」と、真っ向より対峙する形となった。森理事より、「大丈夫か。この方法で本当に進むのか?」と心配された顔で聞かれたことが強く印象に残っている。

 

 そうして建設コア委員の方々の要望書を受け、1つひとつの問題や意見を丁寧に紐解いていった。病院の意識も変わらなければ今後の病院の存続はない、というかけ声の下、皆の意識の再構築から始まった。会議室・倉庫類は隣の既存施設を利用。部長室や応接室もいらない。ただ患者さんのアメニティや利便性は最大限に考えるべきなど、節約と患者サービスの視点で計画を進めた。「ローコストで高機能な病院」のテーマに合致した要望取捨選択で叶えられるものは形にこだわらず、些細な点も取り入れていった。その中で副院長先生の願いが、「当院は少ないスタッフで救急も外来もしなくてはならない。その平面はこうあるべきだ」という強い主張が浮かんで来た。

 

 真意がわかれば、こちらのもの。それならばと副院長先生の要望を適えたプランを提示した。副院長先生も納得され、前進し始めた。そこから活発に他のスタッフの方々の意見も出るようになったと思う。「副院長先生に真っ向から議論する変な奴」が受け入れられた瞬間だった。院長先生からは「我々は医療のプロ。君たちは建築のプロだ。任せている」が基本の方で、様々な医療についての教えを頂いたり、我々の病院建築の哲学を問われたりと、身の引き締まる思いで基本設計を遂行した。

コンパクトで安全・安心の病院

 スタッフの皆さんとの真摯な打ち合せで、基本設計がまとまった。敷地には市の保健センター、福祉センター、温浴施設。隣接地には特別養護老人ホームや体育館、プールがある。この敷地に病院が建設されることで、これら既存施設と連携し「予防-医療-保健-福祉-介護」のシームレスな連携が取れる施設群となった。配置については、既存施設の顔を隠すことなく、前よりそこにあるような配置や連携を心がけ施設一群の調和を図っている。

 

 コストを鑑みシンプルでコンパクトな病院。面積削減は最大のイニシャルコスト削減につながる。コンパクトでも機能は満たせる。

 

 安全性に配慮し「免震構造」を採用。この規模の病院では、最大のヴァリュー(価値)であろう。

 

 外観については、隣接施設の意匠や下呂市の景観条例に配慮し、勾配屋根とした。外壁については周辺の緑に調和するアースカラーを採用し、正面ファサードに純白のポイントウォールを設けるなど「病院らしくない病院」の意匠に配慮した。

 

 玄関大庇の軒天井やエントランスホールには、地場産の杉材を用い「地産地消」を行い、地場の病院

をアピールしている。

 

 1階には外来部門を集約し、1階のみで診療が完結するよう利便性を高めている。また、少ない職員で運営可能なよう、部門の連携や構成に配慮した。

 

 例えば外来-中央処置-救急と、医師・看護師が3点を行き来可能なよう直結した。救急車による救急患者は外来患者の前を通らずに救急処置に入り、最短距離で2階の手術部門につながるエレベーターに乗車可能な配置としている。さらに、健診センターは別入口を設け、病気の方と健常者の動線交差を極力減らしつつ、放射線撮影装置等の医療機器を共用可能な配置とした。

 

 静寂な環境が見込める2階には、透析部門とリハビリ部門を配置、リハビリ部門は屋上庭園に隣接させ、面積を2倍に使える空間的余裕を創出している。北側に手術ゾーンと給食部門、職員ゾーンを配置し、職員動線と患者動線を分離した。小さいながらも職員食堂を設け、職員アメニティにも配慮した。調理システムについては、新調理システム(真空調理方法+クックチル)を採用し、適温適時給食と職員労働力の軽減を可能としている。

 

 3階には一般病床、4階には療養病床をシンプルな構成でまとめ、一般病床では、トイレ洗面付きの病室とし、患者さんのアメニティ向上と離床率を高める配慮を行った。病室窓は極力腰高さを低くし、ベッドに寝た状態でも景色を眺められる配慮を行い、野球場が望める東端には見晴らしが良い病棟食堂を設け、療養中の方々が、日常生活への回帰や在宅療養への願望を喚起すればと考えた。

地元の期待を形に

 利用者の要望を盛り込むため、地域住民によるワークショップも行われた。ここでは住民が一方的に要望するのではなく、地域住民が「そのために私たちができること」というテーマにおいても議論された。昨今、問題となっているコンビニ受診など、地域住民も医療機関の運営や継続を考えることで、病院に愛着を持っていただこうとの目的からである。これらの内容は、基本設計および実施設計、さらに病院運営にも活かされている。

ゼネコンプロポ-ザル方式(二段階発注方式)

 基本設計にて面積を絞ったコンパクトな計画が完成した。今回もコーディネーターとなった近代化センターより、この時期にて施工者選定を行う提案が成された。さらなるコストダウンと高機能化を目指しての2 段階発注である。

 

 通常の建設プロセスでは、基本設計-実施設計-積算-予定価格作成-入札-施工者選定の流れとなる。今回は、基本設計-概算算出後、すぐに施工者選定が行われた。

 

 施工者に問う内容は、施工にかける意気込みと共に、工事概算、基本設計に対するVE 案、LCC 削減項目について提案を求めた。

 

・VE(Value Engineering):「価値」や「機能」を同一にコストを下げる手法提案

・LCC(Life Cycle Cost):建設してから解体するまでかかるコスト

 

 この方式によるメリットは、早い段階に設計に対するコストチェックが可能な点にある。また実施設計において仕様が具現化する前に、VE 案を検討することにより、実施設計に対するやみくもなVE コストダウンではなく、設計においてこだわりたい点を残しつつ項目を選ぶことが可能な点に加え、差額により建物維持のための、一階級上の仕様を追求することが可能となった。

 

 当初、吹付け仕上げ外壁を、建物寿命延長のためタイル張り仕様に変更したのがその一例である。そのほか構造に関わる面では、確認申請に間に合う段階で、施工方法の簡易化を含めた構造方式の変更が可能となった。時期が早いので設計変更の選択肢が格段に拡がる。この方式で1つ懸念される点があるとすれば、設計者が施工者に依存してしまうとこの方式は活かされない。

 

 プロジェクトの当初より設計と施工者がチームとなる設計・施工一括発注方式(デザインビルド)とは、設計者の独立性が担保される点で一線を画した形態だと付記したい。

 

 また建設プロジェクトは、地域産業活性化の一環との視点より、請負者は地元企業への発注比率の30%以上確保が絶対条件とされた。

 

 これらの条件設定にて、プロジェクトは進行した。この際にも伊関教授の、「この新しい概念の方式を遂行するためには人が大切」との信念の下、現場代理人(現場監督)説明による市民公開ヒアリングとなった。

 

 選ばれたのは、戸田建設株式会社、現場代理人森氏、40代の若い現場監督だった。概算工事費では他案が安価であった。ただ我々も基本設計にて概算を算出していたため、コスト縮減方法は想像がつく。

 

 ローコスト・ハイヴァリューはここでも担保したいが、単なる安価に飛びつきたくない。そこで「安さの目利き」を務めさせていただいた。各社提案の中、コスト削減方法が極端すぎる面で、突き進めれば病院の要望する案が変貌してしまう予測や、地元還元もままならない側面は設計者として示させて頂いた。なお、審査は設計者を含まない審査員のみで行われている。

 

 提示されたVE・LCC 提案項目を、行政(下呂市)、近代化センター、設計者、施工者の四者が集い、設計内容に盛り込む内容を幾度も協議し決定した。実施設計は、そのアドバンテージを踏襲しつつ、病院の皆さんが要望した小さな部分までもディテールに盛り込みつつ、設計事務所が行った。病院の皆さんの要望がダイレクトに形に繋がる面でも良かったと思う。限られたコストの中で最大限のヴァリューが確保できた。実施設計終了後、最終金額抽出において工事契約が締結された。これにより、20 億円を切った金額で進められることとなる。

 

 建設資金に関しては、幸運なことにプロジェクト途中に急遽、岐阜県より医療施設耐震化臨時特例交付金(5億円)の給付が決定され、スケジュールもそれに合わせ短縮化した。建設費、ひいては運営後の返済負担の軽減化に寄与していることはいうまでもない。

まちの病院の実現

 工事は、施工の新しい仲間を加えて始まった。期待どおり、若い現場所長はフットワークも軽く、病院スタッフとの最終確認もタイトなスケジュールの中、順調に進んだ。設計監理も施工者に対してきちんと対等に議論した。設計施工でないため、当然のことである。

 

 施工時、東日本大震災後にて市場に品薄でコスト高騰する部材もあったが、ゼネコンプロポ-ザル方式のため、基本設計時に大まかな工種把握や発注計画はできており、発注もスムーズに行われた。副次的なメリットである。

 

 地元企業への還元は近代化センターのモニタリングの下、30%を超す発注を完遂した。何よりも、起工当初、懐疑的であった地元作業員も施工会社の融和的な方針に納得し、双方の交流や地元作業員の技術の向上が図られたと聞く。

 

 なお、外来診察室と病室については現場にて先行施工のモデルルームを作成し、スタッフの方々の意見を聴取、スイッチ類の位置の調整等、使い勝手の確認を行った。また、それらは地域住民へも内覧され、現場の段階より、地域の方々が新病院に興味や意識を持って頂くきっかけとした。

 

 このように様々な人々の関わりにより新病院が竣工した。スタッフの皆さんが働き始めると、看護師の方より「職場が明るくなった」との話を伺えた。

 

 新しい病院により、働く人々の意識も変わる。皆が納得して作ったプラン。豪奢ではないが、希望を形にする地に足の着いた建替え計画。古田院長先生の信念は、「病院の最も大きな使命は、地域社会の維持を医療の面で支えること」である。新病院が地域医療と共に、地域社会の維持に貢献することを願いたい。