磐田市立総合病院腫瘍センターの施設整備では、デザインビルド方式を採用し工事費を当初見積もりの6.5億円から5.76億円(11%の圧縮) に、工期を10.5力月から8.5力月に短縮した。本稿では、事業の背景とともにそうした経緯についてレポートする。
ローコスト・ハイパフォーマンス、そして工期短縮
磐田市立総合病院副病院長 飛田 規
はじめに
静岡県磐田市は、人口17万4,000人、静岡県の西部に位置し、浜松市と天竜川をはさんで立地してい る。サッカーJ1のジュビロ磐田のホームタウンとしてご存じの方が多いかもしれないが、金属、自動車、楽器などの工業と茶などの農業がバランス良く 発展している街である。磐田市立総合病院は、5⑻床の磐田市唯一の総合病院である。平成10年5月に現在の場所に移転し、13年を経過している。平成19年に地域周産期母子医療センター、21年に救命救急センター、22年にはがん診療連携拠点病院の指定を受け、本年度は地域医療支援病院の指定が見込まれており、磐田市ならびに周辺地域の「静岡県中東遠2次医療圏」の中核病院として機能している。我が国の死因の第1位が、がんであり、地域のがん医療を支える拠点病院の責務は大きい。現在、増加する放射線治療や外来化学療法に対応することを目的として、腫瘍センターの建 設準備を進めている。ここでは、腫瘍センター建設までの道のりを振り返りたい。
腫瘍センター建設の背景
中東遠2次医療圏は、静岡県の中でも人口当たりの医師数が少なく、(10万人当たり107人;平成18年)医療の逼迫している地域である。周辺の2次医療機関の診療機能が、さまざまな診療科で縮小される状況が続き、当院への患者集中が起こっている。患者数の増加に伴い、多くの診療科で外来診療スペースが手狭になっており、外来診療スペースの確保が望まれていた。例えば産婦人科外来では、妊産婦とがん患者が待合で隣り合って座っている状況であり、患者さんへの配慮からも望ましくないだろうと いう議論がなされていた。
また、平成19年度に年間335例だった悪性腫瘍の 手術件数は、21年度には430例( + 28%)に、新規放射線治療患者も19年度は200例だったものが、21年 度は241例、22年度には307例(対19年度比+55%)に増加している。また、平成17年度より実施してい た外来化学療法も20年度は年間2,239人(平均9.3人/日)だったものが、21年度には2,740人、22年度には3,464人(同14.4人/日、対20年度比+ 55%)と増加し、8床の外来化学療法室では、治療枠の確保困難な状態が恒常的に続くようになっている。がん診療拠点病院として求められているのは、早期の診療スペース確保であった。
建設が決まるまで
平成18年度からの病院の中長期計画では、救急医療、周産期医療とともに、がん診療の充実が重点項目として位置づけられている。救急棟、周産期セン ターの進渉とともに、20年度に腫瘍センター建設プロジェクトが立ち上がったが、リーマンショックによる市財政の緊縮もあり、21年度に一時凍結された。しかし、平成22年度に、がん治療拠点病院に指定され、それに見合うだけの機能を確保するため、 新たな放射線治療機の導入および関係診療科外来の診察室拡充と再配置を行う必要に迫られていた。
一方、放射線治療機は移転当時からのもので老朽化が激しく、しばしば故障が発生し治療に支障が生じるようになってきていた。平成22年2〜3月には計画的に新規患者さんの受け入れを中止したうえでオーバーホールしたにもかかわらず、5月には突然の故障により、1力月あまり放射線治療ができない事態となった。治療中の患者さんを周辺病院に振り分けて治療を依頼することとなり、図らずも事の重大さは院内のみならず、市当局にも理解して頂けることとなった。早期に、機器の更新の必要に迫られていたが、次期導入治療機と目されている「ノバリスTX」は、現在のスペースに設置できない。地域医療の信頼を回復させるためにも、腫瘍センターの 新築は、待ったなしの状況となっていた。
このような状況の中で、国の地域医療再生基金の一部を活用することが実現し 平成22年度に設計費が予算化され腫瘍センター計画は復活した。とはいえ当院は、平成17年に救命救急センター、平成22年に母子周産期センターと、短期間に新棟建築を行っており、医業4又益の伸びを上回る支出により内部留保を取り崩している4犬況で、経済的余裕はない。一方、市財政においても多くの自治体がそうであるように、経済不況による税収減のため、厳しい運営を 強いられている。したがって、病院への出資金・負 担金の捻出に苦慮している状況にある。「可及的速やかに、しかもコストを杯ロえて」という2つの課題を抱えて、平成22年5月末に、腫瘍セン ター設置計画は動き始めた。
建設までの道のり
平成22年5月31日に、院内委員による「第1回腫瘍センター建築設計委員会」を開催した。20年度のプロジェクトチームの基本構想をもとに、2年間の状況の変化を考慮して、新棟に入る診療科•部門を検討したが、数回の議論の中で大きく修正されることとなった。当初はつかみ所のないような話し合いだったが、回を重ねる每に、機能や意味づけが共通の認識として育まれるようになっていった。建築設計委員会からの基本構想をもとに、地域の医療機関としての機能を果たし設計建築を適正かつ効率的に進めることを目的として、院外委員を交えた「第1回腫瘍センター建築設計協議会」を6月29日に開催した。委員長に山岡泰治浜松医大地域医療学特任教授、院外委員には磐田商工会議所前副会頭金原一平氏とともに、東京医科歯科大学非常勤講師で医療施設近代化センター常務理事の岩堀幸司先生にお願いして、専門の立場でご意見を頂いた。
岩堀先生からは工期縮減とコスト低減についてお話していただき、協議会として工事施工はデザインビルド方式を優先案としたが、公共工事ではあまり実績がない方式だったことから、市当局に容認されなかった場合 を勘案して2段階発注方式を次案とした。岩堀先生には、その後も建築に関する専門的立場から多くの助言をいただき、工期縮減とコストカットに大変、 貢献していただくこととなった。
9月28日には第1回審査委員会を開催し、医療施設建築設計で広く活躍されている岩堀先生に委員長をお願いすることとなった。今回の腫瘍センター建 設にあたっては、診療機能(放射線治療機の設置)の特殊性への対応とともに、完成までの期間の短縮、品質確保およびコスト削減が求められている。
発注方式には総合評価方式の高度技術提案方式と公募型プロポーザル設計施エー括発注方式が考えられるが、後者を採用した。その理由は、協定書が必要 となるものの設計業務委託と工事請負契約は年度をはさんで別々に契約できること、幅広い提案が求められ、手続きが短時間で済み、時間のロスなく設計業務を早期に進めることができること、設計から施工までの責任の明確化が図れることなどである。施工にあたっては厚い鉄板溶接技術やコンクリー卜養生技術など、特殊で高度な技術を要することから、一般的な入札方式ではなくデザインビルド方式とすることができた。プレゼンテーションとヒアリングは、建設設計協議会委員に市側から副市長と建 設部長が加わり、12名で審査にあたることとして、11月13日に実施し、戸田建設株式会社を選定した。
施設概要
基本設計をもとに実施設計を3月末まで行い、本館東側に隣接する病院敷地に鉄筋コンクリート2階 建て延べ床面積2,182㎡、1・2階で本館と渡り廊下で接続することとした。
1階部分は、北側に放射線治療装置「ノバリスTX照射機」2台のほか、前立腺がん小線源治療器など放射線治療ゾーンを置き、広くとった待合室は患者サロンとして活用され、憩いの場を提供する。ノバリスTXは強度変調放射線治療(IMRT :コンピュー夕を使って腫瘍部分のみに放射線を集中して照射できる放射線治療で、有効性の向上や合併症の軽減が期待できる)が可能であるが、通常の治療に比較して、長時間を要する。効率的に診療を実施するために、2機を同時に導入した。この積極的な試みは、自治体病院では初めてであり、成果が期待されてい る。南側に患者数の増加により手狭になった呼吸器内科•呼吸器外科外来の診療ゾーン(呼吸器病セン ター)を配置した。一階部分は、放射線治療領域を 含むことから、関係法令に従い、放射線の遮蔽のための鉄板やコンクリートの厚さなど、厳しい規制をクリアする必要がある。なお、1階の渡り廊下には、隣接している本館小児科の感染症小児用待合室を配 置している。
2階は、北側に婦人科(産科は含まれない)と乳腺外科の外来診療室を配置して、女性科診療ゾーン を、南側には25床の外来化学療法室を設置し、周囲に緩和医療科と精神神経科の外来診察室、相談支援室を配置して総合的がん診療支援ゾーンとした。
パ—トナーとしての近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)
私たち医療職や自治体の職員の多くは、病院施設 の建設知識を持ち合わせていない。今回のように時 間的、経済的制約の中で、機能的に満足できる施設 を建築するのは、甚だ困難なことと言わざるを得ない。したがって専門的な知識を持ってアドバイスして頂けるパートナーが不可欠だった。私たちは特定非営利活動法人医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)にお願いすることにした。すでに委託契約を行って建設された公立病院のお話を伺い、今回の 建築計画の力になっていただけるものと期待した。豊かな経験に基づくアドバイスをいただき、基本計画においてもこちらの都合で変更を繰り返したが、私たちの気持ちをくみ取っていただき、要望を最大 限生かしたものを親身になって考えてくださった。また、当初の計画では、建築費の総額を12.5〜13.5億円、基本設計から竣工までを17力月と見込んだが、近代化センターの助言と建築会社からのコスト削減提案によって6.05億円にまで減額でき、期間も 2.5〜3力月の短縮が見込まれている。
今後の展望
近代化センター(健康都市活動支援機構)にお願いした基本構想をもとに22年12月より実施設計に入り、23年4月13日に着工した。竣工は24年1月の予定である。諸手続き、トレーニングを経て6月までには、中東遠地域におけるがんの集学的治療の診療拠点として運用開始の予定である。22年5月末の検討開始から、着工まで1年経たずにこぎ着けることができた。ここまで短期間で着工できたことも、コストを大きく縮減できたのも、近代化センターの援助なしではあり得なかったと思う。建築コストを削減する方策を実現させると ともに、高性能の放射線照射装置を2台稼働させる試みは、医療の質の向上と経営の効率化を目指して挑戦を続ける磐田市立総合病院の象徴である。私たちの理想とする腫瘍センター計画が実現しつつあることを報告するとともに、近代化センター(健康都市活動支援機構)への感謝の気持ちを、誌面を借りて申し上げる次第である。
「デザインビルド方式」を提案
医療施設近代化センター常務理事 吉村 重樹
腫瘍センターの整備を急ぎたいとの要請
磐田市立総合病院病院長補佐の磯部健雄氏から、中期計画のうち腫瘍センターの整備事業を急ぐことになったとの相談があったのが、平成22年5月初旬でした。5月18日、さっそく当センターの岩堀常務理事と病院を訪問、北村病院長、磯部病院長補佐、酒井事務部長ほか2名の方と面談しました。北村病院長に腫瘍センターの整備を急ぐ理由についてうかがったところ、当初の計画では平成22年度は基本設計のみ進めようと考えていたが、放射線治療機器の度重なる故障から、今後放射線治療を推進するためにも計画を早めるほうがよいと結論したとのこと。整備内容についての考え方もうかがい、また計画促進のため、外部識者も加わった7名からなる「腫瘍センター建築設計協議会」(当センター岩堀常務理事もメンバー)と、院内関係者11名からなる「腫瘍センター建築設計委員会」を立ち上げたこと、その上で、あらためて全面的な協力をお願いしたいとの要請を受けました。そして今後について、下記、磯部病院長補佐から説明がありました。
① 事業費は、以前に近代化センターより示唆のあっ た6.5億円を予定。
② 補助金の地域医療再生基金2.2億円を確保。
③ 5月31日に第1回建築設計委員会を開催する。
「コスト」「スピード」を実現するために
5月31日、第1回建築設計委員会において、病院側が希望する「ローコストで高品質な病院づくり」、特に「コスト」と「スピード」の面から、発注方式として「デザインビルド方式」を提案しました。しかし 病院側から、そのメリットは理解できるがデザインビルド方式採用の前例がなく、市との協議が必要になること、議会対策が課題になるのではないかとの懸念が示されました。最終的に北村病院長から、課題はあるとしても全体工程短縮のメリットが大きいとして前向きに検討するよう指示がなされ、市との協議、議会対策等については、当センターが昨年来サポートしている岐阜県・下呂市立金山病院で採用した、類似の発注方式である「2段階発注方式の住民参加型のプロポーザル方式」について紹介、次回委員会で、同院理事に来院いただき経験談をお話しいただくこととしました。
課題の整理とスケジュール立案
6月24日の第2回委員会では、主に下記の内容が 協議されました。
(1) 病院の基本的考え方について
① 1日も早く完成させたい。
② 予算は建設費6.5億円、医療機器10.5億円、国の 補助金2.2憶円。
③ 設計予算は計上済み。
④ 発注方法、議会対策など今後の課題の整理(元下呂市立金山病院森事務局長より、自院で起きた問題と解決等についての経験を聴講)
(2) 計画平面図について
① 7月初旬に各部署の要望を出す。
② 現病院が手狭になっているので病院機能の一部を 腫瘍センターに移すことを決定。
(3) 発注方法について近代イ匕センターからの提案
①想定される特殊工事の遮蔽コンクリート、遮蔽鉄板工事に実績のある大手ゼネコンへの発注がよいとのこと。
②コスト、スピードおよび①の点から、あらためて設計施工での発注形態をとることがよいこと、その場合「ゼネコン単独」「ゼネコン+設計 事務所」の選択肢が考えられること。
(4) 今後のスケジュールについて
① 建設予算について議会の承認を得ること。
② 工事請負契約は実施設計完了後清算見積りを行い、金額を確定したエで締結すること。それまでは基本協定を結び設計に着手する方法が考えられ る。施工者にもその手続きでの了解を得ること。
③ 7、8月に計画内容を固めて発注基準書を作成。9月初めにプロポーザル公募。10月に業者決定後、 実施設計をスタートする。
④ 行政、議会対策についての役割分担。
(5) プロポーザルの資格要件について
① 経営事項審査結果1700点以工。
② 設計事務所との協働も可とする。
③ 施工業者の能力(技術者数、組織力)。
④ 病院の施工実績および特に放射線治療施設の施工 実績。
⑤ 瑕疵担保期間。
⑥ 概算工事費。
上記について、書式等必要書類はセンターで準備 する。
(6) 近代化センターがプロポーザル募集までに準 備する作業の確認
要項書、基本設計書:要求水準、仕様書、仕エげ表、一般図、矩計図、建具表の作成。
その後、数回の委員会を経て、発注方法についてはデザインビルド方式を採用することが決定、施設 の内容については次項で当センター清水が記すような基本計画が固まっていきました。なお基本計画策定に当たっては、病院ーセンター間で数十回に及ぶ細かな修正等のやり取りがメール等で行われたことも付け加えておきます。
工事費11%圧縮、工期2力月短縮
プロジェクトに参画したメンバーのさまざまな思いを込めて、10月1日付で「平成22年度磐田市立病院腫瘍センター建設工事設計施工者選定プロポーザル方式に係る手続開始の公告」がなされました。以後のスケジュールについては、前項の飛田副院長の表に示すとおりです。11月13日、技術提案書を提出していただいた大手ゼネコン2社によるプレゼンテーションが実施され、提案趣旨、建設に対する考え方等の説明を受けた後、各審査委員との質疑応答が行われ、慎重審議の結果特定者が決定。その後、平成23年4月12日にエ事請負契約締結、14日着工の運びと順調にスケジュ ールが推移しています。
なお、プロポーザル方式での発注について、当センターが関わった他の事例も踏まえながら、別途紹介する機会を設けたいと思います。最後に、本プロジェクトの大きなテーマであった
①工事費の圧縮、②工期の短縮については、下記のように初期の目的が達成されたことを報告しておき ます。
① 近代化センターの基本計画による工事費:6.5億円→5.76億円(11%の圧縮)
② 近代化センターの基本計画による工期:10.5力月→8.5力月(2力月の短縮)
がん診療の各機能を有機的に集約配置
医療施設近代化センター研究員 清水 厳雄
基本計画の目的
当腫瘍センターは、がん診療を専門的に行う施設として、院内に分散している放射線治療•化学療法・緩和ケア診療などを集約配置することにより、質の高いがん専門の診療を地域の患者に提供する施設として計画した。併せて本館の呼吸器内科・精神科・乳腺外科・婦人科を本館から分離して計画建物に再整備することになった。
配置計画(図1)
腫瘍センターの建設場所は、現在の本館東側外来 診療および南側エネルギーセンターに位置し、本館の1• 2階を渡り廊下で結ぶ計画とした。計画建物の 東側は隣地で住宅地に配慮した計画とした。
[計画のポイント]
① 本館からアクセスしやすく
② 設備供給しやすく
③ 設備拡張スペースを確保
④ 近隣の住宅に配慮
断面計画(図2)
建物の計画概要は、鉄筋コンクリート造の地上2階建て、延床面積は約2,177m とし、断面構成は、1階に放射線治療、呼吸器内科を配置し、2階は化学療法、緩和医療科、婦人科、乳腺外科、精神科、相談支援センターを配置した断面計画とした。
平面計画の特徴(図3)
最新の放射線治療機器2台設置する放 射線治療室2部屋は遮蔽コンクリートや遮蔽鉄板で遮蔽するため、壁は厚く、重量は重く、 階高が高く、構造上の制約が出てくるため、1階建 てとし、構造上切り離し、他の部分は2階建ての平面計画とした。計画のポイントは、コスト縮減および工事工程における工期短縮に配慮した。
設計・施工を前提とした基本計画図書
今回、発注方式は、設計•施工を前提として、各社の提案が公平•透明になるように全体面積•コス卜が公平に提案できるように、病院各部門担当者のヒアリングによって、各室の諸元と基本的な平面図を作成して、併せて、既存建物の建築図•設備図を提示した。提示の透明性のために次のような図書を用意した。
・一般平面図、立面図、断面図、工事区分表
・特記仕様書、仕上表、建具表
・プロット図(参考資料)、機器リスト(参考資料)