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茨城県西部メディカルセンターの整備事業

 茨城県西部メディカルセンターの整備事業は、筑西市民病院、県西総合病院、民間の山王病院の3 病院を再統合する事業の一環だ。「新中核病院基本計画」に基づき、超高齢化・人口減少社会において、地域医療連携・機能分化の枠組みを活用しながら、国が進める地域包括ケアの考え方にも対応するとともに、これまで担ってきた急性期医療の強化など、新中核病院に求められている役割や機能の実現を目指して計画された。本稿では、計画から設計・施工までの流れを報告する。

基本設計2カ月という超短期間設計プロジェクト

株式会社山下設計 東京本社 第1 設計部副部長 柴田 浩

沿革

 筑西市民病院は1972 年に茨城県の下館市民病院として開院したのち、2005 年の市町村合併により、名称を筑西市民病院と改めました。一方、県西総合病院は1957 年6 月に岩瀬町国保病院として開院、その後、昭和1968 年12 月に隣接する大和村、真壁町、協和町、明野町を含めた4 町1 村による一部事務組合で運営する県西総合病院となりました。さらに2005 年の市町村合併により、桜川市、筑西市の2 市による一部事務組合で運営する病院として現在に至ります。

 

 この間、両病院は筑西・桜川地域の急性期医療を担ってきましたが、新医師臨床研修制度の影響等による医師・看護師不足による機能低下や、その後の東日本大震災による病院建物への直接被害により、医療機能の縮小を余儀なくされ、筑西・桜川地域の将来にわたる地域医療提供体制の確保が喫緊の課題となっています。その後、県で作成した地域医療再生計画に基づき、筑西市および桜川市は、地域の医療機関、医療機能の再編統合を行い、筑西・桜川地域において二次救急医療までを完結できる医療提供体制の構築を目指すこととなりました。関係者の協議の結果、2015 年8 月に「新中核病院・桜川市立病院再編整備基本構想」を策定し、同年12 月に「新中核病院基本計画」が取りまとめられました。

 

 本プロジェクトは、この「新中核病院基本計画」に基づき、超高齢化・人口減少社会において、地域医療連携・機能分化の枠組みを活用しながら、国が進める地域包括ケアの考え方にも対応するとともに、これまで担ってきた急性期医療の強化など、新中核病院に求められている役割や機能の実現を目指して設計しています。

設計者選定公募型プロポーザル

▶ 2015 年12 月22 日 公募型プロポーザル実施公告

 そろそろおせち料理と日本酒の絞り込みにかかろうとしていた12 月中旬、このプロポーザル情報が入ってきました。日程を確認すると年末年始を挟んでのプロポーザルとなることがわかり緊急会議を実施。いかにスタッフを確保し効率よく的確な提案を行えるかがキーポイントとなりました。

 

 同時にプロポーザルの公告と配布資料を受け、提案書作成の関係者が敷地確認を行いました。敷地は平坦で周囲には病院建設に支障となるものは見受けられない好条件の敷地であることがわかり(写真1)、敷地をゆっくり二廻りし周辺を観察すると、提案で配慮するべき課題が見えてきました。

  • 北側住宅地への建物日影の影響を最小限にする必要性

• 周辺田畑への建物日影の影響を最小限にする必要性

• 遠方の高圧送電線と屋上ヘリポートとの位置関係の検証

• 整備道路と幹線道路との関係、アプローチ方向の検証

• 隣接ゴルフ場を借景にした筑波山の眺望配慮(写真2)

 

 これら周辺への影響配慮やメリットを生かしながら、病院建物をいかに設計するかを頭に置きながらプロポーザル提案書の検討をスタートしました。

 

▶ 2015 年12 月28 日 参加表明書提出

 茨城県内に本社を有する根本英建築設計事務所と共同企業体を組み公募型プロポーザルへの参加表明書を提出しました。

 

▶ 2016 年1 月15 日 技術提案書提出締切

 技術提案書の要旨を『地域の人々や働くスタッフが「愛着と誇り」の持てる病院をローコストで実現』とし、地域医療連携の拠点としての役割を果たすために「急性期患者の治療」「地域の救急」「在宅医療」「地域住民との対話」「健康の増進」「地域医療の情報共有・分析」「人材確保」を実現する病院づくりとしました。

 

 担当設計者は、統合再編という類似プロジェクトであった「とちぎメディカルセンターしもつが」の設計経験者を主体に構成し、前例で蓄積した知識や経験を短期間で生かせるよう人選しました。

 

 プロポーザルの提案の特徴としては次の点が挙げられます。

• 鉄骨ロングスパン構造、マウンドアップや造成への建設残土利用などによるローコスト化

• 患者とスタッフのわかりやすさと居住性に配慮した室内環境づくり

• 免震構造などによる災害時対応、救急医療

• 将来増築に対応した配置や平面計画

• 近隣への日影影響を配慮した建物の敷地内中央配置と1フロア2 看護単位の低層化

• 平屋建ての情報プラザ棟と屋外スペースとの一体的運用

• 超短期基本設計に対応できる経験豊富な設計チームの組織化

 

▶ 2016 年2 月23 日 技術提案書公開プレゼンテーション、ヒアリング

 

 公開プレゼンテーションは20分のプレゼンテーション後、30 項目を超える質疑応答となりました。

 

 医療施設近代化センター・岩堀常務理事からの「短期間設計をどのように進めていくか」という、最も難題の質疑について、「諸条件確認、必要諸室、面積、諸元、ブロックプラン、平面プラン等を3 月中旬までにまとめ、必要に応じて地元設計事務所内を使用することで密接に効率よくプロジェクトを遂行する」と回答しましたが、ご満足いただける回答になったかは定かではありません。

 

 また、城西大学・伊関教授からの担当者の人柄を確認する質疑では、「コミュニケーション力、建築を志した理由、学生時代の部活動、趣味、病院スタッフとの接し方、仕事で記憶に残っていること」などに加え、特に印象に残る質問が「今までの仕事で困った発注者は?」という質問でした。この質問には遠慮なく「人の話や意見を聞こうとしない発注者、特にものごとを決められない発注者」と答えました。この回答には超短期設計の本プロジェクトがそうならないよう、設計者としての願いも含んでいました。

 

 さらに、筑西市、桜川市、病院関係者からは「コスト縮減、救急動線、院内保育、ランニングコスト、災害対策、井水利用、周辺影響、プライバシー配慮、平面計画、将来増築・改修、共同企業体体制」など運営や提案内容に関する質疑が数多くあり、本プロジェクトを実現するための真剣さと意気込みが伝わってきました。

 

▶同日、優先交渉者に選定

 当日の夕刻、参加6 社の中から私どもの共同企業体が優先交渉者に特定され、翌日の「建設通信新聞」には配置計画を含む具体的な提案の記事が掲載されており、公開プレゼンテーションの情報の早さとその正確さ、そしてその注目度を感じ、本プロジェクトを成功させねばならないと身が引き締まる思いとなりました。

 

 優先交渉者特定の知らせに喜ぶ間もなく、ここから地獄とまでは言いませんが、息継ぎのできないような日々が3 月末まで続きました。

基本設計

 基本設計を開始するための発注者とのキックオフ会議には、筑西・桜川地域公立病院等再編事務局(以下:事務局)、みずほ総合研究所(以下:みずほ)、医療施設近代化センター(以下:センター)、山下設計(以下:山下、または設計JV)、根本英建築設計事務所の5 者が集まり、初日から設計に向けた細かな打ち合わせが行われました。

 

 ・設計工程、マイルストーン、各種申請工程

 ・工事工程、開院工程

 ・基本設計検討会メンバー

 ・設計体制

 ・基本計画書保留事項

 ・基本設計完了時必要図書

 ・補助金申請必要図書

 ・造成、外構設計などの別途工事

 ・医療機器

 ・施工者選定方法

 ・会議体頻度など

 

 この会議で、補助金の関係で基本設計を3 月末にまとめる必要があること。それには何をいつまでに用意する必要があり、それにはどのような打合せを誰と行う必要があるかを明確にし、会議体の頻度を確定しました。事務局としては初めての経験でしたが、みずほ、センター、山下は「とちぎメディカルセンターしもつが」での協働経験を生かし、最初の難関を比較的順調に進めることができたと考えます。

 

 2 回目の事務局との会議から実際の設計内容に入り、設計者実績紹介に始まり、基本設計完了までの2カ月間、詳細設計工程表、設計与条件確認書、業務区分、工事区分、プロポーザル提案内容検証、6×6面積グラフによるセンター作成スペースプログラム内容の再確認、各室諸元、ブロックプラン、平面図など短期間に集中的な協議を行いました。3 回目からは設計検討会(以下:検討会)のメンバーも加わり、毎週の会議にて基本設計を進めて行きました(図2)。

 

 造成および外構設計を病院本体設計と切り離し、設計JV で作成した外構イメージ図を基に造成・外構設計を一体で行ったことも、設計期間のスピードアップにつながったと考えます。

 

 先の説明の中にある「6×6 面積グラフ」とは、設計初期段階で使用するツールで、各部門の必要諸室を4床病室の基本となる形状6m×6mのスパンに割り込み、部門別に面積を蓄積したグラフです(図3)。これは既存病院との比較や部屋の広さをイメージしやすく病院スタッフも理解しやすいため、所要各室の検討といった諸条件の確定期間も短縮できたと考えま

す。

 

 約2 カ月の事務局、約1 カ月半の検討会との毎週の協議により何とか3 月末の補助金申請に必要な基本設計内容を完成させることができました。基本設計概要

 

 設計理念として次の5 点を挙げました。

1.地域の人々・働くスタッフが「愛着と誇り」の持てる「新中核病院」を実現

 新中核病院は、筑西・桜川地区における「地域医療連携の拠点(コントロールタワー)としての役割を果たす」ことが基本方針として示されており、その中で「急性期患者の治療」「地域の救急」「在宅医療」「地域住民との対話」「健康の増進」「地域医療の情報共有・分析」「人材確保」が掲げられている。設計では、それらを実現し地域の人々・働くスタッフが「愛着と誇り」の持てる病院づくり行う。

 

2. 患者と医療スタッフの距離の近い、ポスピタリティあふれる医療環境の実現

  良質な人材の確保や患者の信頼・満足度の向上を目指し「質の高い病院施設づくり」を行う。このことにより、医師や看護師など医療スタッフの「やりがい」や「意欲」を向上するとともに、質の高い医療やケアの提供できる施設とする。

 

3. 将来にわたり地域医療を支え続け、将来の医療変化に対応できる「持続性の高い病院づくり」

 計画地は農地など緑豊かな閑静な地域で、療養環境としても優れている。また大地震や水害などの自然災害時といった非常事態でも地域に対する医療提供が求められている。そこで、以下の6 点に配慮した計画を行い、将来にわたって機能する持続性の高い病院を実現する。

①スムーズな流れと安全性に配慮した動線計画

②将来の医療変化に対応できる配置計画

③自然環境に配慮した施設計画と災害対策計画

④地域災害時の患者の受入れ体制の構築計画

⑤災害時にも機能し続ける施設計画

⑥安全で対応力の高い施設計画

 

4. わかりやすく連携しやすい部門構成と、効率的で働きやすい医療環境の実現

 新病院の担うべき高度急性期医療および完結型の二次救急医療の実現には、明確な施設・部門構成が重要である。以下の5 項目を重視し、各部門の連携を促進させる働きやすい医療環境とプライバシーの両立を実現する。

①効率的な移動・搬送計画:目的別エレベータ配置等

②機能性の高い部門構成:近接配置するべき部門等

③迅速性の高い室配置:救急医療を高める室連携等

④連携を強化する室構成:病棟スタッフステーション等

⑤動線の短縮化を図る移動空間:使用目的にあった廊下の構成等

 

5. コミュニティを生み出し、いつまでも地域に愛され信頼される病院の実現

 公立病院等再編整備は、急性期から回復・維持期まで一貫した体制づくりを整えたものである。そして、三大主要死亡者数が全国平均や茨城県平均を上回る現状を考えると「予防」という観点が特に重要と考える。そのために、新病院には誰もが集まりやすい場所に健康講座や情報・相談などをしやすいエリアを設け、健康・医療のための情報を発信できる仕組みづくりを行うことで、地域のコミュニティを生み出すことを目指す。

 

 基本設計段階の階層構成図(図4)、配置図、各階平面図は次のとおりです。

 

▶配置図(図5)

・新病院(病院棟/情報プラザ棟)を敷地中央に配置し、南側を一般用駐車場エリア、北側および西側を職員や業者用駐車場エリアと設定し、機能や用途に応じた敷地ゾーニングを行うことで、利用者の利便性や安全性を高める計画とする。

・新病院東側に「健康広場」と名付けたオープンスペースを確保し、病院利用者のみならず地域へ開かれたスペースとして活用する。

 

▶ 1 階平面図(図6)

・「外来中央廊下」を中心に、主に外来患者が利用する外来や検査部門(採血、採尿、生理検査)、放射線部門を配置し、わかりやすい明快な部門配置とする。

・エレベータ(一般用、医療用)は建物中央に配置し、各部門への動線の最短化を図る。

・1 階の救急部門- 2 階の手術部門-屋上ヘリポートを結ぶ救急専用エレベータを設置し医療の迅速性を強化する。

・救急部門は中央処置室に隣接配置し相互に連携可能な計画とする。また、救急部門と放射線部門を隣接して配置し迅速な救急医療へ対応する。

・「健康広場」に面する「情報プラザ棟」には透析部門のほか、屋外リハビリスペースとの一体利用を考慮しリハビリ部門を配置する。

 

▶ 2 階

・2 階は高度医療関連部門として手術部門とHCU を隣接して配置する。

・管理部門を2階に集約するとともに、職員用のラウンジなどを設置し、スタッフの日常的なコミュニケーションを促進する計画とする。

 

▶ 3 ~ 5階

・3 ~ 5階は病棟部門を配置し、基準フロアは1フロア2看護単位とする。

・基本的には一般病棟(急性期病棟)とし、一部4 階西側病棟を地域包括ケア病棟、5 階の東側病棟を小児病棟として運用する。

施工者選定

 設計委託契約は一般的な基本設計、実施設計を行う契約でしたが、基本設計と並行してECI 方式の採用についても検討が進みました。その目的としては、「工事施工者の優れた施工技術に基づいた病院建築の実績を実施設計に反映するとともに、建設資材手配、人手不足対策、建設単価の抑制など確実な工事施工に結びつける」ことでした。

 

 本来であれば4月から11 月末までの8カ月間に短期基本設計を補うべく充実した実施設計を行う予定でしたが、ECI 方式による技術提案でどのような内容が採用になるかわからない状況となりました。

 

 しかしながら、本プロジェクトでは通常基本設計の後半で行うプロット図の作成を実施設計段階にまわしていたため、この期間を利用し集中的にプロット図の作成、検討会との打ち合わせを行うことができました。

 

 2016年4月12日に公告された施工者選定「実施設計協力事業者(施工予定者)選考公募型プロポーザル」では設計者選定同様に公開プレゼンテーションおよびヒアリング(同5月29日)が行われ、前田建設工業株式会社茨城営業所(以下前田)が優先交渉者となりました。

 

 その後、技術提案内容の採否協議を6 者(先の5者に加え前田)で約1 カ月に渡り行い、7 月1 日付で基本協定書を締結することになりました。

実施設計

 施工者選定と並行して進めた各部門担当者へのプロットヒアリングでは、部門内の諸室配置、医療機器ほか備品レイアウト、コンセントやスイッチなどアウトレットの位置や数量の打合せを2 週間かけて現地泊まり込みで実施しました。

 

 検討会の方々には通常業務に加え、朝早くから夜遅くまで打合せに積極的に参加いただき、時には熱く、時には穏やかに協議を重ねることができました。ヒアリング時にはみずほ関係者、センター関係者も同席いただき、運用面や一般例などでのフォローをしていただき大変助かりました。

 

 プロットヒアリングは計2 回実施しましたが、最初の1 回で大筋の要件が出揃ったため、この時点のプロット図を施工者選定資料として使用することで、施工者の概算工事費算定の精度を高めることに役立たせることができました。

 

 前田との基本協定が締結した7月からは、隔週の頻度で設計定例打ち合わせを行い、実施設計内容が予算から乖離しないよう確認を行いながら進め、月に1回事務局への状況報告会を行い、現在に至っています。

工事に向けて

 実施設計終盤の10月上旬に構造大臣認定に向けた構造性能評価委員会の審査を開始し、11月末には性能評価書を、1月中旬から2月中旬には構造大臣認定を受理し、確認済証を3 月上旬までに受理する予定で順調に各申請を進めています。

ECI(2 段階発注)方式による施工業者選定について

前田建設工業株式会社関東支店 筑西中核病院作業所長 林 聖訓

はじめに

 本計画は、筑西市および隣接する桜川市の筑西市民病院、県西総合病院、民間の山王病院の3病院を再編統合し、筑西・桜川地域において二次救急医療までを完結できる医療提供体制の構築を目指す事業の一環として計画されました。既存筑西市民病院は東日本大震災の影響で機能を縮小しており、多数の救急患者が市外に搬送されるなど医療体制が不十分であることから、本計画により整備される病院は、筑西・桜川地域住民が待ち望んだ病院となります。

 

 本工事の入札方式は公共工事において近年増加傾向にあるECI 方式が採用されました。設計業務について、株式会社山下設計・柴田様が本誌44号で述べておられるので、弊社は基本設計完了後の施工予定者選定から着工した現在に至るまでの取り組みを、建設会社の立場から紹介させていただ

きます。

ECI(2段階発注)方式

 ECI 方式(Early Contractor Involvement:アーリー・コントラクター・インボルブメント)とは、2014年6月4日に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」において規定されている「多様な入札方式」の1 つであり、従来の公共工事で一般的な「工事の施工のみを発注する方式」と異なり、より早期の段階である実施設計段階から施工者が参画し、施工者が持つ専門的なノウハウ、工法等を設計に反映する方式です(図1)。

 

 本工事の施工予定者選定プロポーザルの公告にECI 方式のメリットが示されております。

①実施設計段階から実施設計協力事業者(施工予定者)が関与するため、工事費のコスト削減が可能になる。

②実施設計協力事業者は、実施設計期間中に配置技術者や下請業者等を先行して確保できるため、工期短縮が可能になる。

③施工予定者をあらかじめ選定するため、入札不調のリスク軽減を図ることが可能になる。

実施設計協力事業者(施工予定者)選考公募型プロポーザル

▲ 2 0 1 6 年4月1 2日 プロポーザル公告

 私が現場代理人として施工していた病院を2 月に発注者に無事引き渡し、ようやく一息つけると思ったところ、新聞記事に本工事がECI 方式で出件する情報が掲載され、同規模病院建設の工事実績を持ち、スケジュール的に対応できる私が本工事の担当となりました。大型工事であり、プロポーザルの内容が多岐にわたることが想定されるため、まずは全社的な社内体制の構築を行いました。

 

 4 月12 日の公告を受け、公募スケジュールを確認すると病院規模から考えてもかなり短い日程であることがわかり、関係者全員が頑張る意思を固めました。

 

▲ 2 0 1 6 年4月1 8日 参加表明書提出

 参加表明書提出時に施工に関する会社としての考え方の提出も併せて求められました。病院建築は建築工事の中でも特殊性が高く、病院を熟知し、経験のある技術者が施工管理をすることが重要になります。また、病院関係者のニーズを的確に反映する必要があります。

 

 本工事においては病院建築を熟知したスタッフを配置し、全社的にバックアップすること、病院関係者との対話と弊社の持つノウハウにより必要な性能・質を満たした上で、バランスのとれた価格での建設を行うことを記載し、提出しました。

 

▲ 2016 年4 月20 日 一次審査結果通知、図渡し

 一次審査通過の結果を受け、実施要項書及び基本設計図を受領し、4 月28 日に質疑回答における追加資料を受領し、いよいよ技術提案書の作成と見積りをスタートさせました。

 

▲ 2 0 1 6 年5 月2 3 日 技術提案書の提出

 技術提案書において施工実施方針として下記の6点を挙げました。

 

・「対話」のプロセスを通して満足度の高い施設の実現

・最適な品質の確保

・工期短縮・工期遵守による十分な開院準備期間の確保

・施工から一貫したフォローアップ、アフターケア体制の確保

・予算以内でご要望を実現するためのコストコントロール

・地元発注による市への貢献

 

 その他の提案として、「イニシャルコストの縮減提案(VE 提案)」、「ランニングコストの縮減提案」、「実施設計段階において設計事務所とのスムーズな連携を図るための具体策」等を提案しました。建設コストは弊社の見積金額と発注者の目標金額との間に乖離があり、提案の重要な課題となっていましたので、課題を解決するためのコストコントロール手法を提案しました。実施設計期間中に本技術提案書記載のVE 提案に加え、さらに追加のVE 提案を提出し、提案の中身を明確にして採否の打ち合わせを重ねることにより、実施設計協力業務期間完了時に目標金額以下に納めることを提案しました。

 

 工事の施工にあたっては、何度も現地確認した検討内容を折り込み、安全管理体制の確立と安全教育の徹底、周辺地域との良好な関係を構築するためのソフト面での対応、周辺地域への工事影響を抑えるためのソフト・ハード面での対応を基本計画として提案しました。

 

▲ 2 016 年5 月2 9 日 技術提案書公開プレゼン

テーション・ヒアリング

 プレゼンテーション、ヒアリングは市民公開型で筑西市内において、それぞれ30 分間行われました。市民を含む多くの方が傍聴に来られ、本件への市内における期待の高さを肌で感じました。

 

 プレゼンテーションの冒頭で、私のこれまでの病院工事経験として実施してきたことを3点お話ししました。

・実際に使われる皆様にとって使い勝手のよい病院とするために、対話を重視して関係各部署とヒアリングを重ねてきたこと

・病院は24 時間、数十年にわたって稼働し続けるため、維持・修繕のためのコストがかかるが、耐久性やメンテナンス性のよい材料や工法の選定によるLCC(Life Cycle Cost:ライフ・サイクル・コスト:建設費だけではなく、運用・保全・修繕・更新を含む建物の将来にわたるコスト)削減提案をしたこと

・地域医療を担う病院として地域住民の皆様に親しみを持っていただくため、交流イベントを開催したこと

 

 本案件においてもこれまでの工事経験の集大成とすべく、プロジェクト関係者との対話をベースとして技術と知識を総動員させていただきたい旨をお話ししました。技術提案書を説明した後のヒアリングでは、制限時間いっぱいまで計24 件の質問をいただきました。

 

 医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)吉村常務理事から、コストコントロール手法における考え方の違いをご指摘いただきました。弊社提案は実施設計協力業務期間中にコストコントロールを行い、実施設計完了時に目標金額以下とすることでしたが、施工予定者決定後、早急にVE 提案協議を行い、実施設計着手前に金額の目処を付ける必要があるとのことでした(図2)。

 

 城西大学・伊関教授からは、「建設会社に入ろうと思った動機、学生時代に一番打ち込んでいたこと、仕事をしていて一番感動した経験」など人柄に関する質問をいただきました。工事現場においては現場所長の人間性が非常に重要であり、それに足る人物かどうかを確認するとのことでした。建設業は30 年、40 年先にも残る建物を造る達成感を得られること、学生時代はクラブ活動に打ち込んだこと、建物を引き渡した後に発注者から非常に感謝されたことを挙げさせていただきました。その他、病院特有のやらなければならないこと、見積の内容、VE 提案内容、工事の施工方法等の様々な質問をいただき、関係者皆様の真剣さと熱意をあらためて感じました。

 

▲同日 施工予定者に選定

 プレゼンテーション、ヒアリング終了の当日、施工予定者に選定いただき、筑西・桜川地域公立病院等再編事務局(以下、事務局)、みずほ総合研究所(以下、みずほ)、近代化センター、弊社が集まり、今後の方針として、みずほ、近代化センター、山下・根本英設計共同体(以下、設計JV)、弊社の4社でVE 提案に対する採否の協議を行い、事務局の確認を受けて1カ月で工事費の目処をつけ、その後に実施設計に着手することとなりました。

VE提案内容の採否協議

 目標金額内に納めることを目的として、6 月中に弊社のVE 提案の採否を協議する見積調整会議を計4回行いました。

 

 VE(Value Engineering:バリュー・エンジニアリング)は「価値=機能÷ コスト」で表され、建設技術のアイデア等により、機能を落とさずにコスト縮減を図ることや、コストを維持したまま機能を上げることにより、製品の持つ価値を維持したまま、コスト縮減と高機能の両立を図る手法です。また、VE 提案に併せて建物の使用に対して特段の支障がない範囲で行う仕様変更等のCD(コストダウン)提案も実施しました。

 

 協議ではVE 提案、CD提案1 つひとつについて、コスト削減効果だけでなく、求められるメンテナンス性、品質、LCCを確認し、それぞれの妥当性を段階別に評価し、技術的に問題が無いかを判断の上、採否を検討しました。その検討結果を受け、2016日6月29日、筑西市新中核病院整備幹事会においてVE 提案の採否を決定いただき、目標金額以下に工事費が納まる目処が立ちました。

 

 2016 年7 月1 日、新中核病院建設工事に関する基本協定書を締結することとなりました。今回のプロジェクトでは柱スパンを変更するVE 提案をご採用いただきました。一般的な「工事の施工のみを発注する方式」では実施設計が完了しているため、柱スパン変更のような構造変更を行うことはスケジュール的に採用することは難しいのですが、ECI方式では実施設計段階から施工者が参画するため、手戻り無く、当初スケジュールどおりに採用することができます。柱スパンを飛ばすことにより、床振動が増加する懸念に対しては振動抑制間柱の設置などの技術的な対応により、VEメリットを出すことができるようになりました。

実施設計協力業務

 近代化センター(健康都市活動支援機構)の主導により施工予定者選定後、コストの目処が早期についたため、設計JV との実施設計協力業務期間中はより良い病院の技術的な作り込みに集中できました。設計JV と隔週の頻度で設計定例打合せを行い、実施設計内容が予算から乖離しないように、また事業スケジュールに遅れが生じないように確認を行いながら進め、事務局に月1回報告会を行いました。

 

 実施設計協力業務の前半では主に構造的なVE案の折り込みの協議を行いました。先述の柱スパン変更の他に、病院棟の杭を地盤改良杭から既製コンクリート杭への変更、一部梁に採用されている現場緊張PC(プレストレストコンクリート:コンクリート硬化後にあらかじめ設置した鋼線に引張り力を加える工法)梁から鉄骨梁への変更等により、地下工事中の工程の確保を図りました。

 

 仮設工事においても事前の設計段階で検討・協議を行ったことにより、別途発注の筑西幹線道路歩道部の仮設使用が可能となりました。搬出入のアクセスルートを2系統確保できるようにして、建設工事終盤に予想される別途外構工事との平行作業に備えることができました。

 

 また、設計JV と協働するためのツールとして設計図面、関連資料等をインターネット上の情報共有データベースを使用し、最新情報を一元化して共有することでスピーディーな検討、対話ができるようにしました。

工事の開始

 2016 年12 月1 日に工事契約を締結し、工事に着手しました。一般的な「工事の施工のみを発注する方式」と異なり、専門工事業者と実施設計期間中から協議を行うことが可能であるため、早期に労務・資材の確保を図ることができました。そのことにより、確認申請許可、開設許可が下り次第、速やかに本格着工することができました。現在、工事工程はマスター工程どおりに進捗しており、杭工事が終わり、地下躯体工事を施工しています。

 

 今後は現場敷地内に4人病室、個室病室、HWC(身障者用トイレ)および診察室の使い勝手を実物大で「見える化」するモデルルームを作成します。実際に使われる病院関係者様に可能な限り実物に近い感覚で仕上がり状態をご確認いただき、仕上げ・納まりの不具合等を事前に解消し、ご満足いただける病院建設を目指します。

おわりに

 ECI方式はコスト縮減の可能性が大きい初期段階である実施設計段階において、あらかじめ問題点や不具合リスクを前倒しで抽出し、設計に反映させ品質を高める手法であるフロントローディングの考えに基づく方式であり、多数のメリットがありますが、課題もあります。ECI 方式では設計者と施工者の提案が相反する場合に、発注者が双方の責任の範囲を明確にしながら、提案の内容と採否の最終的な判断をする必要があるため、発注者に高い調整能力が求められます。本案件では発注者と設計JV、弊社をつなぐCM(コンストラクション・マネジメント)として参画しているみずほ、近代化センター(健康都市活動支援機構)に公平かつ円滑に調整していただきました。

 

 また、実施設計の段階で建物仕様、コストや工程の合意ができない場合、スケジュールに遅れが生じるリスクがあります。本案件では筑西・桜川地域公立病院等再編事務局、みずほ総合研究所、医療施設近代化センター、山下・根本英設計共同体および病院関係者の皆様のご協力により、施工予定者選定後1カ月で金額の目処をつけ、基本協定を締結したことにより、その後の流れをスムーズに進めることができました。

 

 建設工事は始まったばかりですが、これからが正念場になります。2018 年10 月開院を目指し、筑西市様をはじめ、関係者の皆様と引き続き一丸となって、より良い病院の建設を進めていきたいと考えております。

統合に伴う新病院建設支援成功の要因となった3つの重要課題

みずほ総合研究所株式会社 コンサルティング部 事業・経営戦略チーム

上席主任コンサルタント 渡邊 裕一

はじめに

 2018 年10 月1 日、持続的経営基盤の下、刻々と変化する医療制度に対応し地域の中核医療を担う病院がまた一つ開院の日を迎えた。その新たな施設、筑西市にある茨城県西部メディカルセンターをご紹介したい。

 

 本件は筑西市にある筑西市民病院と、桜川市にある県西総合病院の経営統合と新病院建設の案件であった。本件を本格的に検討することになったのは、いよいよ厚生労働省より地域医療再生基金からの補助金支給の条件期限である2016 年3 月末の実施設計着手に向け1年を切った、2015 年4 月のことであった。それ以前にも、統合に伴う病院建設支援について意見交換の申し入れがあり数回行ってきたが、実際の支援には至っていない状況だった。

 

 5月の面談では、中核病院再編事務局からは、本来1 年半〜 2 年程度を要する、基本構想の見直しから基本計画の策定、基本設計の完了、実施設計の着手までを、約7 カ月で完了する必要があるとの説明があった。支援に関するコンサル委託が不調に終わることすら許されない状況にあり、各社の参加を促すべく、より丁寧な説明、意見交換が行われた。弊社では意見交換後、ただちにパートナーである医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)の吉村氏、岩堀氏に連絡を取り検討に入った。検討の結果、かなり困難ではあるものの実現不可能ではないとの結論に至り、7 月のプロポーザルに参加して支援を受諾することとなった。

支援の概要

 本案件については、最初の受諾から完成まで、経営の統合と施設整備の両面の支援を受諾した。2015年7 月から2018 年10 月までの主な支援テーマは、「基本構想の見直し」「基本計画の策定」「設計会社選定支援」「基本設計支援」「実施設計支援」「施工会社選定支援」「施工管理支援(コスト・工期)」「医療機器および備品の購入移設支援」「現病院の経営改善支援」「事業計画策定・見直し支援」「新人事制度の設計導入支援」「地方独立行政法人化支援」「開院前リハーサル支援」と多岐にわたった。

 

 今回の新病院立ち上げ支援において、特に重要な課題としては、「2016 年3 月までに実施設計の着手」「開業までの全体を通してのローコスト建築・設備備品等の初期費用の抑制」「2018 年10 月1 日開院期限の厳守」の3 つが挙げられる。

 

 本支援成功の要因となった、これら3 つの課題への対応を中心に説明していく。

超短期化プロジェクト

 まず、「2016 年3 月までに実施設計の着手」という課題は、本プロジェクト全体の中でも最も難易度が高くまた重要度の高いものであった。期限までに実施設計に着手できなかった場合には、25 億円の補助金受領ができなくなるという非常に責任の重いものであった。一方で、取り組み内容は、「基本構想の見直し支援」「基本計画の策定支援」「設計者の選定支援」「基本設計支援」など非常に多く、プロセスを超短期で実行する必要があるものであった。分野すべてで8人体制で臨み、4 人はほぼ常駐して対応した。

 

 まず「基本構想の見直し」だが、ポイントは地元医師会の了承を得ることと桜川市との合意であった。これは時間がないとは言え、簡単に時間を短縮し得るものではないので、医師会の主要メンバーに個別にヒアリングを行い、医師会の意向と基本構想の現行案との差異を論点として整理し、かつ医療環境に関する分析資料等の説明資料を提示しつつ何度も提示して少しずつ理解を得て調整していった。また、桜川市とは、東日本大震災前から交渉・調整する中で、建設地や統合の可否について何度も紆余曲折があり白紙再考を繰り返してきた。今回も時間がないとは言え、それぞれの市の立場があり綱引きのシーンもあった。そういった状況ではあったものの事務局の努力もあって医師会、桜川市から合意を得て、最終的な見直し案の作成に至った。

 

 一方で「基本計画の策定」は、あらゆる面でシステマティックに短時間で実行するように進めた。まず、準備作業を基本構想見直し開始と同じ時期に開始。さらに、本来2 週に1 回のペースで6~7 回程度実施する場合が多い業務方針と施設要件検討のワーキングを、毎週開催とした。加えて1 回のワーキングの検討時間を長くして、全体実施回数を5 回以内に抑えた。検討のベースとなる資料は、弊社側で用意し、選択と調整を組み合わせにより迅速に検討が進むような環境を提供した。例えば、業務方針については、各業務の流れを踏まえて複数の実施方針を設定した。施設要件についても、主要諸室の大きさ、数などについても弊社側で仮案(スペースプログラム)を設定して検討を行った。その結果、基本計画についても概ね予定どおりのスケジュールで策定が実現した。

 

 しかし、結果としてここまでの「基本構想」「基本計画」に予定よりも時間を要したため、続く「基本設計」の期間は1 カ月半短縮せざるを得なくなった。短縮された期限内で基本設計を完成させるため、設計会社に対する業務方針と施設要件の説明、設計会社が行うブロックプランの作成に、弊社が施主側(具体的に各部門スタッフ)のサポートとして同席し、基本設計の短期化を支援した。

 

 結果、何とか実施設計着手にこぎつけ、無事補助金を受領することができた。

ローコスト建築・ローコストの病院立ち上げ

 今回の新病院については、建築費だけでなく、設備・備品の整備費などもローコストを実現することが1つの課題であった。まず、建築においては、単価と広さの2 つのパラメータをどう設定するかにより大きく事業費がブレる。本案件においては、他事例や病院収支を踏まえ、1床当たりの大きさを74㎡に設定した。加えて、当時の単価を踏まえて、やや厳しめではあるが平米当たり単価を税抜36 万円と設定した。当時、同規模の自治体病院が平米57 万円で建築していることを考えると非常にチャレンジングにも見えるが、ローコスト高品質の方針を貫くという考えの下、この数値で進めることとなった(図1)。

 

 当然、この数値を実現するためには、基本構想から始まり基本計画でも徹底したコンパクト化や設備機能の要不要の精査が必要になる。今回は広さにポイントがあった。一番は外来エリアで、それから手術エリア、バックヤードエリアなどが挙げられる。

 

 外来エリアは、予約制の導入と外来診察ブース数は18 診に絞り込んだ。診察ブース数の絞り込みについてはやはり医師からは当初心配の声が聞かれた。しかし、今後の医療制度の方向性を踏まえれば地域の中核病院は紹介・逆紹介が求められ、外来が患者でごった返す状況というのはあるべき方向ではない、との水谷・梶井両医療監(現理事長、病院長)の考えもあり、弊社が提案した数で設定された。さらに外来エリアは、エントランス付近などもコンパクトなつくりとし、全般に面積が圧縮された形となった(図2)。

 

 手術エリア等も、術後の観察スペースやオートクレーブの大きさの見極めなどにより、エリアの圧縮を図っている。さらに、バックヤードでは、クックサーブからクックチルに変更することにより、必要面積の減少を図った。

 

 そのほかにも、少しずつ面積のコンパクト化を図って拡張することなく設計が行われた。面積は、実は経営と密に関連していると考えている。面積にかかる建設コストもそうだが、広ければ広いほど人が必要になる。病室等基準を満たすことは当然だが、そうでないエリアについては、まだまだ見直す余地があると考える。

 

 また単価については、施工者選定時のVE(ValueEngineering)会議の開催がポイントであった。施工者選定では、見積もりと同時にVE 提案を求めた。施工会社で応募は前田建設工業1 社。筑西市の求めた約70 億円での建設については、すべてのVE 提案を承認した場合にのみ達成というものであった。その提示内容について、施主である筑西市の再編事務局、弊社、パートナーの医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)、設計者の山下設計、そして施工者の前田建設工業の5 者で検討を実施。山下設計がチェックする形式で作成した資料をベースに検討を行った。

 

 最も効果があったのがS造の柱のスパンの変更である。6m スパンを一部12m スパンに変更した。当初、設計会社の構造設計担当者からは、平常時の振動に影響が出るということで変更は不可能ということであったが、医療施設近代化センターと弊社から、設計への検討の働きかけと、施工会社への根拠資料の準備の助言を重ねた結果、最終的には、設計担当者と施工側の担当の緻密な検討により、補強を行うことでスパンの変更が実現した。金額については、明言を避けるが億単位の低減が実現した。そのほかにも外装工事、電気設備等あらゆる工種でVE を積み重ねて、ほぼ予算どおりでの契約締結となった。さらに、施工者の前田建設工業の徹底したコスト管理の結果、最終金額も予算をはみ出すことなく工事を完了できた。これは、施主の筑西市および両病院のスタッフがコスト意識を強く持ち、CM(ConstructionManagement)のサポートの下で設計者、施工者が同じ目的意識で取り組んだ成果と考えている。病院建設チームが相互にチェック機能を適正に働かせ、時に協力して一丸となって知恵を出し合ったことで実現できた成果であると考える。昨今、ECI 方式での病院建設が増えていると思うが、コストの最適化の観点で大きな成果を生むためには、今回我々が行ったようなVE に対する取り組みは必須と考えている。

 

 コストでは、設備機器も重要な位置付けにあった。ポイントは、「徹底した透明化対応」「コスト重視方針の徹底」「移設に伴う購買額の抑制」の3 つであった。まず入札は、仕様等について現場の意見を吸い上げた上で筑西市が主体となり、すべてを実施した。これにより徹底した透明化、公正な入札が担保された。もう1 つは、現場側の協力により、特定メーカーへの拘りは基本的にはない状態で入札を行うことができた。これにより非常に多くの機器を、より低価格による購買が実現した。さらに、2 病院から移設することで購買額の抑制が図られた。


2018年10月1日開院期限の厳守

 最後に「開院スケジュールの厳守」である。やはり、もともとスケジュールが厳しいということがあったため、開院前にそのしわ寄せが来ている状態があった。引き渡しが開院の1 カ月半前。そこからの開院前リハーサル、設備機器・什器の納品、検査等が非常にタイトとなる状況が予想された。解決策は、「工期の短縮」および「検査日程の短縮」と「開院前リハーサルスケジュールの見直し」の3 つであった(図3)。

 

 まず、工期短縮について、躯体工事に関して医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)より、工程の見直し案を施工会社に提案し、施工会社でも検討し見直しに合意。これにより約半月に短縮が実現した。もちろん、施工会社の長期にわたる努力による部分も大きかった。

 

 検査についても段取りを筑西市、設計会社、施工会社が計画的に整え短時間で検査を実現していった。そうして、何とか引き渡しから開院まで2 カ月という期間を確保した。

 

 最後は開院前リハーサル。通常であれば、開院前の3 ~ 4 カ月の間に、プレリハーサル1 回、本リハーサル2 ~ 3 回を2 ~ 3 週間の間隔を置いて実施する。しかし今回はその間隔をとることはできない。そこで、説明会を引き渡し前に実施し、さらにリハーサル間の間隔を1 週間で実施することにした。一方でシナリオについて、開院後の対応も想定して各診療科・疾病ごとに相当数を作成。その中から基本対応となり得るシナリオを厳選して選びリハーサルで実施した。実施前には、「リハーサルの間隔が短い」「実施するシナリオが少ない」など様々な声が現場から聞かれたが、実際実施してみると、「忘れる前に再度実行できてよい」「基本的なシナリオを徹底して確認するほうが認識共有しやすい」など、高評価をいただいた。

開院を迎えて今思うこと

 2015 年から2018 年まで約3 年、長期にわたり支援してきた。開院を迎えて今思うことは、今回特にそうであったが、ハード視点からだけ見た改善ではコストの壁を乗り越えられない。ソフト視点から業務の改善などをしっかりと検討しながらハード面の検討に入るのが、ローコスト建築ではキーになるということである。また、やはり最初に立てた方針を最後までいかに貫くか、そしてあきらめずに解決に取り組むかに尽きると思われる。

 

 また、今回の取り組みテーマは、「基本構想の策定」「基本計画の策定」「ECI 方式の建設のサポート」「開院前リハーサル」など特別なものはない。それぞれのテーマは基本的なやり方を世の中で研修、セミナー、書籍などで知ることができ、できないことはない。ただ、すべてにおいて時間との闘いであった。その中で、いかに1 つひとつの取り組みについて、思い込みを排し、短期化や目指す効果実現のために解決策を模索し続けるかの積み重ねであった。知識だけでは太刀打ちできない、時代はすでにスピード対応の時代といえる。これまで常識とされていた期間設定は、ますます通用しなくなる可能性がある。より迅速対応と、その場その場での問題解決能力の重要性が高まっていくであろう。

地域医療再生のロールモデルとなる新病院が開院

株式会社山下設計 東京本社 第1 設計部副部長 柴田 浩

プロジェクトの沿革

 本プロジェクトは、茨城県西部、筑西・桜川地域の公設の筑西市民病院と県西総合病院、民間の山王病院の3 病院を再編統合する事業における急性期医療を担う病院「茨城県西部メディカルセンター」の新築計画です。2015 年8 月に策定した「新中核病院・桜川市立病院再編整備基本構想」と、同年12 月に取りまとめられた「新中核病院基本計画」に基づき、超高齢化・人口減少社会において、地域医療連携・機能分化の枠組みを活用して、二次救急医療の強化と地域内完結を目指し誕生した病院です。

急がれる災害拠点病院整備

 本院の前身となる病院の1 つ「筑西市民病院」は、2011 年3 月11 日の東日本大震災で大きく被災し、病棟部分が使用不可能となったことで3 階以上の除却を行っており、さらにもう1 つの「県西総合病院」も病院機能を一部損なっていました。このような災害拠点病院の整備・開院に急を要する状況から設計と工事が急がれ、併せて、設計開始時点はすでに建設費の高騰が顕著に表れていたことから、建設費と工期の確定(建設資材手配、人手不足対策)を主目的として基本設計段階でECI 発注方式(Early ContractorInvolvement)が採用されました。

 

 そのため設計期間は基本設計2 カ月、実施設計8カ月(確認申請期間含まず)と合計10 カ月余りの短工期で行うこととなりました。短工期の設計で最も避けねばならないのが手戻りです。その手戻りをいかに少なく(理想を言えば、なく)するかが設計段階でのポイントになりました。

 

 基本設計の早い段階からプロット図(平面図に医療機器や什器備品、コンセントやスイッチ等の設備を記載した図面)作成に着手し、関係者の潜在的なニーズを早い段階で抽出し、1 回当たりの打ち合わせの密度を高め、実施設計段階での手戻りを大幅に減らしました。また、ECI 発注方式の利点を生かし、施工者からのコスト削減提案も取り入れ、常に施工者のコストチェックを並行させることで、予算内の建設費実現と短期間設計の双方を実現しました。

 

 本院は、病院機能を集約した基礎免震構造の「病院棟」と、講堂・レストラン等の共用部門+リハビリテーション・透析の継続的な通院が必要となる部門を集約した耐震構造の「情報プラザ棟」で構成しています。病院棟はロングスパン架構を採用することで内部の平面計画の自由度を高めるとともに、免震装置数を削減することでコスト削減を可能とした設計です。情報プラザ棟は将来増築が考えられる透析部門とリハビリテーション部門を配置することで、地上面で必要に応じた拡張が可能な計画です。

敷地

 敷地は東に筑波山、北は日光連山を遠くに望む、筑西市街から南東に車で約10 分の風光明媚な場所にあり、初夏は麦、秋は稲穂と常陸秋そばに映え、隣接するゴルフ場の緑も借景として取り込むことができるなど、景観に恵まれた土地です。周囲に高い建物もなく、診療・療養環境としても優れている場所です。

設計主旨

 設計コンセプトとして、「1. 地域の人々・働くスタッフが愛着と誇りの持てる病院をローコストで実現」「2.患者と医療スタッフの距離の近い、ホスピタリティあふれる医療環境を実現」「3. 将来にわたって地域医療を支え続け、将来の医療変化に対応できる持続性の高い病院を実現」「4. わかりやすく連携しやすい部門構成と、効率的で働きやすい医療環境を実現」「5.コミュニティを生み出し、地域にいつまでも愛され、信頼される病院を実現」の5 つを挙げました。

 

 この設計コンセプトの下、本院で最も配慮したのは『ワンフロア外来』です。高齢者や身体の不自由な患者に配慮し、1 階に外来診療部門をすべて集約させ、上下階の移動なく診察や検査を受けることができる計画としました。また、2 階に手術・管理部門、3~5階に病棟を配置した明快な階構成とし、建物をシンプルな形状とすることで、患者のみならずスタッフにも、わかりやすく迷わない病院となるように配慮しました。

配置計画

 敷地は凧形で面積は約35000 ㎡、敷地中央部に病院を配置し、南側に一般用駐車場、北側に職員・サービス用駐車場と救急ヤードを配置することで動線の分離を図り、利用者の安全性を高める計画としています。また、建物東側に整備する健康広場と名付けたスペースは、リハビリテーション室と一体的に利用できる計画としており、リハビリ患者が気持ちの良い屋外で訓練ができ、さらに広場は筑波山と隣接ゴルフ場の豊かな緑を借景にした憩いの場としても利用できます。


工事状況

 実施設計が無事に完了し、2016年12月23日に起工式が執り行われ、翌2017 年2 月15 日に山留工事が開始され正式に工事を着手しました。工事開始後の主なイベントは、施工者への「設計主旨説明会」に始まり、両市・病院関係者への「病室等モデルルーム確認会」「総合プロット図確認会」「工事着工後の工事費削減協議」「外装計画説明会」「内装計画説明会」「案内サイン確認会」等、手戻りが生じないよう

多くの検討・確認を工事の進捗に合わせて行い、工事の要所では両市長や議員団の視察も実施していた

だきました。

 

 一般的に、工事の進捗で工事費増となる場合が多くありますが、本工事ではその可能性を見越し、着工当初から「工事着工後のVE・CD 協議会」を重ねて行うことで、コスト削減できる項目を事前にリストアップし、病院要望等による増額工事分とのやり繰りを行い、最終的には当初契約通りの金額で建物を完成させることができました。

 

 2017年11月28日に上棟式を行い、2018 年8 月に各種完成検査、8月15日に建物引渡し、9月16日に竣工記念式典を滞りなく行うことができました。