登米市立米谷病院の整備事業は、地域包括ケア体制の充実を目的とした、宮城県登米市内5 病院2 診療所を3 病院4 診療所体制に再編する「登米市立病院改革プラン」の一環として実施された。3 病院における機能分担の明確化により、米谷病院の役割は「1 次救急及び入院から在宅まで一貫した医療提供を行う」こととなり、一般病床に療養病床を付加した適正規模の療養型病院として整備する方向性が示された。本稿では、計画から設計・施工までの流れを報告する。
登米市立米谷病院設計にあたって
株式会社佐藤総合計画東北事務所 プロジェクトリーダー 西村 裕之
同上席主任担当 小林 洋樹
事業概要
今回の事業は、地域包括ケア体制の充実を目的とした、宮城県登米市内5 病院2 診療所を3 病院4 診療所体制に再編する「登米市立病院改革プラン」の一環として実施されております。3 病院における機能分担の明確化により、米谷病院の役割は「1 次救急及び入院から在宅まで一貫した医療提供を行う」こととなり、一般病床に療養病床を付加した適正規模の療養型病院として整備する方向性が示されました。
その後、2015(平成27)年7 月に公告された設計者選定プロポーザルにおいて、私ども佐藤総合計画東北事務所を選定いただきました。設計をスタートした時期は、東日本大震災の復興事業により上昇した建設工事価格が高止まりし、東京オリンピックまで下がる気配がないといわれており、予算との乖離が生じる不安を感じながらも「“地域の健康コミュニティコア”となる病院を実現する」ことを目指し業務に着手いたしました。
短期設計スケジュールへの対応
設計者選定プロポーザル公告にも記載がありましたが、2015(平成27)年9 月1 日設計契約、2016(平成28)年3 月末日実施設計完了、約6,800 ㎡の総合病院を半年で設計するという、非常にタイトなスケジュールで進んでおります。さらに、設計業務の中間にも医療法開設許可申請の提出、河川法の許可申請など、実施設計完了に至るまでには様々なチェックポイントが設定されております。
すべては2018(平成30)年1 月開院、2019(平成31)年度末グランドオープンという目標に向け、逆算による、一分の隙もない事業スケジュールに沿って進行しております。
今回の事業における最大のリスクは、入札不調に伴う事業スケジュールの遅延にあります。これをどう回避するかが肝要であり、施工発注方式がポイントになることが見えてきました。
最適な施工発注方式の選定
私どももいろいろな発注方式を経験してきました。最も一般的な「設計施工分離方式」はもちろん、PFIやデザインビルド(DB)についても、発注者側・事業者側それぞれの立場で参加してきました。その経験から簡単に私見を述べさせていただきます。
「設計施工分離方式」は設計から監理まで一貫して同じ設計者が関わることで発注者の要望が確実に反映できる利点がありますが、予算を超過した場合の調整が困難であり、事業スケジュールが遅延する欠点があります。
一方、PFI・DB は「設計施工一括発注方式」といわれており、特許工法等も含めた施工上のノウハウを設計に反映することで、発注者の要望や設計の品質を落とさずにコストを下げられる利点がありますが、コスト優先となった場合は発注者の要望や設計意図に反したものになる欠点があります。
両方式の欠点を解決できるのが医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)による「センター2 段階発注方式」(センター方式)ではないかと考えます。このセンター方式は基本設計を基に、基本設計段階で施工者を決定し、その施工者の施工上のノウハウを実施設計に反映することで発注者の要望や基本設計の品質を落とさずにコストを下げることができる手法と考えます。
センター方式は、今回の事業において懸念される入札不調に伴う事業スケジュールの遅延を回避しつつ、設計の質を確保できる、今回の事業に最適な施工発注方式であると考えます。
基本設計図書の作成
私どもが設計業務に本格的に着手したのは、2013(平成25)年9 月半ばからです。最初のチェックポイントとして、10 月下旬までに医療法開設許可申請の事前協議申出書を完成させることが設定されました。
病院の皆様との打合せは9 月末から開始しました。この時点で、平面プラン確定まで1カ月を切っていました。病院の皆様にはプロポーザルで提案した計画案を評価いただけたことも幸いし、プロポーザル案をベースとして基本設計を進めることができました。
第1 段階として、大きなゾーニングであるブロックプランのまとめを行いました。ヒアリングを進めていくと、全体面積に対して要望諸室が非常に多いことが分かりました。また、現地建替、変形した敷地形状、限られた敷地面積など敷地制約条件が多い一方で、1階へ配置すべき部門の面積が大きいというバランスの悪い状況となっておりました。この状況を解消するため、電気関連諸室を上階に移動する決断をしました。これは浸水対策としても有効であったと考えます。
第2 段階として、より詳細な平面プランの協議を行いました。スケールを上げたA1 図面での打合せにより、寸法をより体感的に感じられるようになったこともあり、各部門の必要諸室面積の調整に多くの時間を要しました。諸室の共用や、必要寸法を提示しながら効率化を進めましたが、オープンエンドの廊下を諦めざるを得ない箇所も出てきました。平面プランが見えてきた段階で、電気・設備も含めた要望事項や担
当者の思いを「各室条件書」にまとめ、平面プランの確定に入りました。
本来であれば、最終段階として各部屋の家具什器・医療機器レイアウトへと進むのですが、この段階で医療法開設許可申請の事前協議申出書の提出に至りました。
設計を進める上での発想の転換
次のチェックポイントとして12 月初旬までにセンター方式の発注図をまとめることが設定されました。各部屋の家具什器・医療機器レイアウトというインプットの作業は引き続き進めながら、私どもはアウトプットの作業に入りました。
従来の「設計施工分離方式」であれば、ヒアリング等によるインプットの結果を「基本設計説明書」としてアウトプットし実施設計へと進めば良いのですが、センター方式の場合は発注図としてアウトプットする必要があります。
今回の事業は特にスケジュールが厳しいこともあり、私どもは医療施設近代化センター様のアドバイスを受け、仕様発注としての設計図書と性能発注としての説明書を組み合わせた、必要最小限のアウトプットを作成することとしました。全体については漏れなく仕様または性能を大まかに設定し、積算上のブレが大きいと想定される部分については詳細を追記することとしております。
まずは、建築・電気設備・機械設備の要望事項を記載した「各室条件書」を、PFI やDB の要求水準書として提示される諸室リストに準じて作成しました。さらに、ヒアリングを通じて得た病院の皆様方の要望も併せて記載しています。
建築については、実施設計相当の一般図を作成しました。特に、求めるグレードを明確に設定するため、特記仕様書・一般共通事項・仕上表については詳細に記載しております。また、積算上のブレが大きいと想定される建具・壁種別・EV の仕様も記載しました。
構造については、特記仕様書と仮定断面を作成し、求めるグレードと数量を明確にしています。
電気設備・機械設備については、基本設計説明書により設計の基本的な考え方を説明した上で、諸元表・プロット図・システム概念図により、どのような品質と機能を要求しているかを明確にしています。
計画内容について
□米谷病院の施設整備方針
①利用者の視点に立った病院
②環境にやさしい病院
③将来変化に柔軟に対応できる病院
④災害に強い病院
⑤機能的で働きやすい病院
⑥医療提供情報等の共有化に向けた環境整備
□提案の骨子
• 登米市の地域包括医療をシームレスに結ぶ「地域のコミュニティコア」となる病院づくり
• 地域性を考慮した「米谷モデル」となる建築
• 地域の豊かな環境が自然に感じられ、周辺にも患者さんにも優しい「見守る療養環境」づくり
• 患者さんやスタッフに親しまれ、利用者ニーズに最適に応える「わかりやすい」病院
• 「より良い病院へ」の提案
□建物配置計画
• 近隣住宅地との「調和」「適切な距離感」「日照の確保」に配慮し、3 階建のコンパクトな建物形状としました。
• 建物ボリュームを抑え、バルコニーと外部ルーバーの設置により、周辺住宅地への圧迫感を和らげます。
• 近隣住宅の少ない南側・西側に面して病室を計画します。外部ルーバー(目隠し)による視線交錯への配慮や、周辺住宅との緩衝帯として「健康の庭」を計画します。
• 日影となるエリアをできるだけ小さくする計画とし、周辺住宅地の日照に配慮します。
□建替計画
• 新病院の機能を1 回の工事で完成させる計画とします。既存病院の部分解体、仮設建物の設置を行わない計画です。
□動線計画
• 南側から患者、北側から物品、東側からスタッフのアプローチを基本とし、患者とスタッフの動線分離を図ります。また、建物の重心にEV を設置し、動線の効率化を図ります。
• 車いす駐車場もカバーする車寄せの庇を設置し、雨雪に濡れずにアプローチ可能とします。
□平面計画
○1階
• 外来から検査への流れはコンパクトな1 フロア完結型のわかりやすい計画とし、患者とスタッフの移動負担を軽減します。
• 総合受付等の各窓口は一筆書きのルート上に配置し、行先を見つけやすい計画とします。
• 救急外来と放射線CT 室を隣接させ、救急患者を迅速に診察可能とします。
• 守衛室を救急外来に近接させ、時間外利用者の出入管理が可能な計画とします。
• 主出入口からの視認性が良く、EV の近くにリハビリを配置し、外来患者・入院患者双方に利便性の高い計画とします。四季を感じられる「リハビリ庭園」との一体利用を可能にします。
• 事務室、訪問看護ステーションの近くに相談室を設け、健康相談や介護相談をしやすい環境を整備します。
○ 2 階
• 急性期病棟と手術部門・医局を同フロアに集約し、連携強化とスタッフ移動の負担軽減を図ります。
• 中央材料室を手術部門と隣接させ、EV 近くに配置、外来・病棟における器材の洗浄・滅菌・供給の中央化に対応可能な計画とします。
• 手術部門においては、火災の初期遮断を徹底する籠城区画により安全な避難ができるようにします。
• 手術室は天井高3 mとし、機械室隣接により階高を抑えます。
○ 2・3 階(病棟)
• スタッフステーションを病棟中央に配置し、すべての病室入口が見渡せる計画とします。看護動線の短縮によりベッドサイドケアの時間を拡大します。
• EV 出入口に面してカウンターを設け、出入管理を容易にします。
• 病室の空調は天井輻射空調と温水パネルヒーターとし、不快な気流を発生させない患者に優しい室内空間を作ります。
• ベッドに横になったままでも周囲の自然環境が眺められる、窓台高さに配慮した病室とします。
• 自力移動困難な患者を、同じフロア内での水平方向避難を可能とする防火区画を設定します。
□環境計画
• ライフサイクルコストの低減を目標に、イニシャルコスト・ランニングコストそれぞれのバランスを図ります。
• 米谷の豊富な地下水を利用した「地中熱利用」の環境手法を中心に、自然エネルギーを生かした環境建築「米谷モデル」を提案します。
• 夏冷たく・冬温かい井水の熱を利用し、病院内の空調や、エントランスや救急入口の無散水融雪を行います。熱利用後の井水は、植栽への灌水やトイレ洗浄にも利用します。様々な手法により余すことなく利用する、井水のカスケード利用を行います。
• 「断熱性能の強化」と「日射のコントロール」により、温度変化の少ない安定した室内環境を作ります。この手法により、冷房や暖房が不要な期間が増え、光熱水費の低減につながります。
施工者選定プロポーザル
施工者選定プロポーザルは、2014(平成26)年1 月5 日に公告され、1次審査を通過した8 社・4JV に技術提案を求めることとなりました。課題は以下の7 項目です。
A)本工事の施工実施方針
B)イニシャルコストの縮減について具体的な提案
C)ランニングコストの縮減について具体的な提案
D) 実施設計段階で施工者として設計者とのスムーズな連携を図るための具体的策について
E) 工事中の安全性の確保と近隣対策に関する提案、考え方
F) 工事中における各種変更工事及び追加工事への対応に関する考え方
G) 工事発注などにおける具体的な地元貢献策とその検証について
2段階発注(ECI)方式により成果を挙げた2つの事例 ~東八幡平病院/登米市立米谷病院~
東八幡平病院担当 盛岡営業所長 篠原 真爾
登米市立米谷病院担当 主任 金子 順一
戸田建設株式会社 東北支店 支店次長 鈴木 博之
同社医療福祉営業担当 課長 手代木 一彦
建設市場で起きていること
昨今の建設市場は、震災復興、首都圏での大規模開発、オリンピック・パラリンピックによる建設景気の牽引で、大変忙しく多忙の日々を送っている業界となっています。特に震災による復興需要が急激に始まり、労務者不足に陥り、需要と供給のバランスが崩れ、労務単価の高騰により建設単価がバブル期を超えております。労務者不足の背景には労働者はすぐに育たないということ、多く抱えることにためらいがある、というところにあります。バブルの時期には日本全体が高揚感に包まれ、投資に疑問を持つことがありませんでした。その結果、バブルが弾け、過剰に人材を抱え、規模を拡大した建設会社は瞬く間に倒産の憂き目にあってきました。それを横目に生き残ってきた建設会社は、また同じようなことになりかねないと、規模拡大にかなり慎重になってきているのです。
病院建設単価の推移
特に東北地域においては過去最高の労務単価を更新しており、下がる兆候が見当たりません(図1)。そんな中で建設が始まった病院の単価はみるみる上昇しています(表1)。
これは病院の種類、規模、発注条件が違うので一概に比較をするのが難しいので、参考程度にしていただきたいのですが、例えば大崎市民病院、磐城共立病院はデザインビルド方式の発注で、エネルギーセンターの金額を含んでいないため、さらに20 ~30 億程度を要します。従来方式で発注された、仙台市立病院の2012 年10 月から石巻市立病院の2014年8 月の2 年の間に1.6 倍にもなっています。
ちょうど、図1 の労務単価の経年変化から見る15,000 円から25,000 円と同じ上昇率となっています。また、この上昇が及ぼす影響は病院が組む予算に現れてきます。病院建設において基本計画から新病院開院まではおおよそ4 ~ 5 年を要します。当初100億と想定していても、計画→設計→入札→工事の期間の間にも単価が上がるということは、設計時に予算を想定しても、着工するまでの期間の間にも工事費が膨らみ、100 億+ α ということです。なおかつ、入札不調に伴い予算の増額を議会承認される間にもさらに上がるということです。東北の中枢にあたる国立医療センターは、最初の入札が不調に終わってから、再入札で建設会社が決まるまで2 年も費やしています。その間に上がったコストは計り知れません。このような状況の中で、いかに病院を予算の範囲内で建設するかが現状の課題となります。
診療報酬も限界
平成28 年度改定において微増となった診療報酬ですが、過去3 番目に厳しい改定率で、実質的に頭打ちとなる中で、このような投資額の上昇は採算分岐点をはるかに超える状況です。そうした中、弊社の役割としてはいかに建設投資を抑制できるかにあると考えています。要求された水準を落とすのではなく、維持しつつも無駄のない計画を立て、効率のいい病院を提供していくところにあります
発注方式について
工事の発注については、従来、公的病院で主に進められてきた、設計と施工を分離した入札方式(一般的に従来方式と呼ばれるもの)、民間病院を中心とした建設会社の設計施工方式の2 つに分類されてきました。特に最近では後者を「デザインビルド」と表現するようになり、これを中心に様々な方式で施工されてきています(図2)。
デザインビルド方式について
それぞれにメリット・デメリットがありますが、デザインビルド方式を採用する一番の目的は、①コストを早めに抑える、②スケジュールを確定できる、ことだと考えられます(図3)。有名なところでは、国立競技場が設計事務所と建設会社を組み合わせたデザインビルド方式が採用されました。一概にこれがベストな方式というのは難しいのですが、いかにメリットを取り込むかによって違ってきます。
どの方式を選択するかは、病院をどのように作り込もうとしているかによりますが、今回、弊社が受注した「東八幡平病院」様、「登米市立米谷病院」様においては、医療施設近代化センター様が推すECI(Early Contract Involvement)方式が採用されました。これは設計事務所との共同設計に近い方式ですが、基本設計から実施設計、工事監理まで一貫して同じ設計事務所が行い、設計趣旨が変わることがありません。建設会社は基本設計図書を基に工事費およびコストを抑制する提案をします。
選定された建設会社は、要求水準を変えることのない提案を設計に反映していく作業を共同して行います。これは建設会社の経験上のノウハウや施工上の独自の工法によるもので、特に設計作業中に提案できる点が大きなメリットです。従来方式では設計図が完成し、役所の審査機関を通していますので、大きな変更をする場合には工事を止めなくてはできないことが多く、コストを大きく低減させるような変更はあり得ませんでした。特に、病院建築については施工者が病院を理解していないとできない提案が多く、弊社は数多くの実績から得たノウハウを今回も提案させていただきました。
病院建築の特性
病院建築の一番の特性は、同じものが2 つないということです。例えば、オフィスビルは基準階のオフィスフロアは同じ構成、マンションはモデルルームと同じ仕様、要するに一つ決めれば同じものの繰り返しです。しかし病院は、各フロア、各エリア、用途に応じた構成、病棟階は診療科目や病棟構成に応じるため、同じものがないという意味です。
そのため、設計時にはすべての部門のヒアリングにかなりの時間を要します。また、施工時には医療制度による変更や、医療機器選定による変更、担当スタッフの異動などによる使い勝手の変更など数多くの変更があり、これがすべてのフロアで行われます。
ここで特に大事になってくるのは、設計者と施工者の連携です。スケジュールが決められている中で、それらの変更のリミットをどれだけ周知でき、受け入れられるかが病院建築のポイントになります。先に触れた、デザインビルド方式やECI 方式では施工者が早期に計画に携わっていくために、設計趣旨を理解し、病院様とのコミュニケーションが形成されていますので、最も適した方式と言えます。
次に、病院建築の特性で多いのが、ほぼ必ず追加工事が発生するということです。マンション建設ではモデルルームを決めてから施工するので、発注者側の意図でよほど変更をしない限り追加工事は発生しません。しかし病院では、先ほど述べたとおり、設計時に未確定であったものが、施工時に決定するため変更が起きます。当然、変更によって追加費用が発生しますので、コストを低減する項目において、設計時に取り込んでおかなくてはならないものと、施工時に検討しても間に合うものを選別・提案し、対応可能なコスト低減項目は追加費用が発生した時に、相殺項目として準備しておきます。
このように設計者と施工者が一体となって将来の変更に備え対応していくことは、病院建築にとって非常に大切なところです。
登米市立米谷病院の取り組みについて
登米市立米谷病院様は宮城県登米市東和町に位置し、診療圏としては石巻・登米・気仙沼医療圏にあります。医療圏内には急性期を扱う石巻赤十字病院、登米市民病院があり、高速道路が整備され、時間的な距離が短縮されたとはいえ、入院施設を伴う病院があることは住民が安心感を持って生活を送ることができます。特に高齢化が進む中で、一般診療の他、在宅医療、訪問看護、訪問リハビリによる“かかりつけ病院”としての役割を担い、地域の医療の充実を図ることができます
今回、登米市はECI 方式により、プロポーザル方式で建設会社を選定する総合評価方式を採用しました。これは公共工事で多く採用される方式で、見識のある審査員が、行政、議会、住民を代表して、コストだけではなく、設計提案、工事計画、近隣住民への配慮などを総合的に評価し、建設会社を選定します(図4)。
登米谷病院では単純にコストを下げる提案だけではなく、病院としての機能を維持する提案、さらに、病院が完成してからランニングコストを削減できる提案を行いました(図5、6)。病院は24 時間稼働し、30 ~ 50 年間使い続けますので、少しの低減効果でも大きな効果を上げることが可能となります。
工事計画においては現在の病院の敷地内での建て替えとなり、既存の病院との基礎が干渉したり、隣地住民への騒音や振動など、かなりの部分で配慮した工法を選定することが必要となってきます。実施設計時に工事計画に合わせ、余裕のある提案をすることができ、このことも無理な施工を排除しています。
ECI 方式が採用されたことで、事前に登米市医療局様、病院様、医療施設近代化センター様、佐藤総合計画様と十分に打ち合わせを重ねることができ、着工に至っています。2018(平成30)年には地域住民の待望の病院を完成することをお約束します。
おわりに
病院建築にとって、「コストを守る」、「期限を守る」ということはとても重要な項目です。ECI 方式を採用していただいたことで、「東八幡平病院」、「登米市立米谷病院」でその2 つの項目を実行することができました。新病院はスタッフのモチベーションを上げ、働きやすい環境が整うことで、今まで以上により良い医療を提供することができます。地域住民待望の病院はより多くの成果を上げることができます。弊社は多くの病院でその実例を見てきました。
ECI 方式のメリットだけを述べているようですが、決してそうではなく、デメリットもあります。①基本設計時には判明していない仕様や要求が実施設計の精算で明らかになり、追加費用が発生する、②追加費用の交渉相手が1 社なので、費用の比較ができないなど、場合によっては事業の見直しを迫られることもあり得ます。 ECI 方式では建設会社の技術力を使い、発注者の予算に合わせるのが目的です。発注者、設計者と同じ方向を見ることができる建設会社を選定することが事業を成功に導く道です。
登米市立米谷病院新築工事を振り返って
戸田建設株式会社東北支店 建築工事部技術課課長 宅間 真
同社登米市立米谷病院建設工事 作業所長 甲谷 恭輔
はじめに
登米市立米谷病院は、宮城県登米市東和町に位置し、地域の「かかりつけ病院」として古くから当該地域の中心となっていた病院です。今回、古くなった病院施設を一新するべく、同じ場所に新病院を建設するプロジェクトがスタートし、当社JVがECI 方式にて本工事を受注いたしました。そして先日、新築工事は竣工引渡しを迎え、現在開院に向けた準備が行われているところです。
本工事は、準備段階において敷地内に汚染土壌の存在が発覚し、その対応のために最終的に工期が約1 年遅れて竣工しました。汚染土壌対応は大変でしたが、それに屈することなく延長した工期を有効に活用するとともに、施工中は弊社の総合力を結集して数々の課題解決を行いました。今後、既存病棟の解体工事および外構工事がありますが、新築工事が竣工したこの機会に、施工者として新築工事における様々な課題を解決してきた道のりについて振り返ってみたいと思います。本稿が類似の工事への参考となれば幸いです。
着工前の対応:汚染土壌の発覚
新築建物の敷地について工事前の調査を行ったところ、汚染土壌(ヒ素)が含まれることが発覚しました。汚染土壌があると無害化処理を行わない限り、掘削土を場外に搬出することができず掘削や杭といった基礎に関する工事が進められません。また、これは受注後に発覚したものですので、発注者側としても予測できるものではなく、非常に戸惑っておられましたが、関係者が一体となってこの問題解決に当たることにしました。
汚染土壌の範囲を特定するために、敷地を10m角のグリッドに分割し、それぞれのグリッドについて詳細調査を行ったところ、全部で15 区画に汚染土壌があることが分かりました。これらについては、別途予算を確保していただき、その結果、この件で概ね半年間工期が延びることとなってしまいました。
施工者側としては、先行して杭を打設する、汚染土壌のない部分を先行して施工する、といったことも検討しました。しかし、杭打設では汚染土壌を混入してしまうおそれがあり、また先行施工については工程上メリットがないことから、汚染土壌対策の結論を待ち続ける状況となりました。ただし、一部汚染深さが浅い部分については杭工事に先行して汚染土壌を搬出した後に、健全土による埋戻しを行い、杭打設時の汚染土壌(汚泥)発生量を低減しました。
汚染土壌対応期間の活用
① BIM の活用
汚染土壌への対応期間を有効活用するため、施工者としては、着工前に建物の施工について考える時間が得られたと捉え、検討を開始しました。
具体的には、検討ツールとしてBIM(BuildingInformation Modeling)を活用しました。一般的に設計図書は2 次元であるため、3 次元の建物に置き換えるとどうしても納まりが悪い部分や、図面と現地が整合していない部分が発生してしまいます。それに対してBIM を使用すると、建物を3 次元的に検討し、納まりの悪い部分を事前に解決することができます。また、画面の中で誰もが同じ3 次元化した建物を見ることができ、関係者一同の共通認識を得ることが非常に簡単になります。
弊社では現在、ほぼすべての案件について、大なり小なりBIM モデルを活用したフロントローディング(初期段階から設計と施工が協働して設計図書を検討すること)を行っています。検討に費やす時間が多ければ多いほど、BIM による深い検討が可能となり、施工時の納まり不良や間違いを少なくする効果があることから、今回は得られた貴重な時間の中でBIM を活用し成果を上げました。
BIM モデルの作成にあたっては、弊社BIM 専門チームの助力を得るとともに、敷地について3Dスキャンを行って3 次元データを作成し、検討することとしました。敷地は見た目にはほぼ平坦ではありましたが、3D スキャンを行うことで微妙な高低差を視覚化するとともに、敷地周辺の建物や電柱などの障害物もデータ化することができました。また敷地をデータ化した後、それに対して基礎躯体や埋設配管を配置することで、地中での納まりや外構工事も視覚化して検討することができるようになりました(図1)。
BIM はただ単に3 次元の絵ではなく建物そのものですので、隠蔽部の検討も可能です。建物を好きな位置で切断し、その部分の断面を検討することも得意です。その結果、外部以外にも内部設備配管の納まりや、室内を通る雨樋のルートを事前に検証することができ(図2)、施工時の課題を大幅に低減することができたと考えています。
②モデルルームの活用
BIM がデータの活用による検討であるのに対し、それでは分かりにくい部分もあることから、実物での検討として、モデルルームを早期に完成させて関係者一同の認識を一致させることとしました。
一般的に病院建設時には、発注者側の担当者として施設管理者が打合せ窓口となることが多いですが、病院の使用者は管理者ではなく、医師や看護師などの医療スタッフです。使用する方は打合せには参加しないことが多いので、その意見を聞かずに工事を進めていくと、使用する方のイメージと異なるものができてしまうことがあります。そこで今回はそれを避けるべく早期にモデルルームを建設して病院関係者に確認していただき、室内の各種仕様について早期に合意を得て、ご満足いただけたと考えています。
BIM およびモデルルームを早期に立ち上げ、活用したことによって、総合図の作成および検証に役立て、関係者の早期合意にこぎ着けることができました。特にBIM に関しては、事前に施工状況を確認できるツールであり、今後幅広く利用されることになると考えています。弊社におきましても、フロントローディングには欠かせないものとして、現在特に注力している分野です。
施工上の課題とその対策
①隣地の活用
本新築工事の敷地は変則的な形状であり、また建物が敷地いっぱいに建つことから、難しい施工計画を迫られていました。そこで受注と同時に東西にある空地を借りる交渉を開始し、粘り強い交渉の結果、借地できることになりました。それによって東側に揚重機として移動式のクローラークレーン* 1 を設置することができ、施工効率を大幅に向上させることができました。また、西側の借地部分は大型車輌の搬入ヤードとして利用し、こちらもコンクリート打設などの台数制限を大きく緩和することができました。これらの計画的な借地によって、施工計画の余裕度が向上し、工期内の竣工に非常に役立ったと考えています。
② BIM の施工計画への活用
BIM によって作られたモデルは建物そのものですので、施工計画に活用することも可能です。本建物の道路側には電柱および架空電線が近接しており、建設時に足場と干渉することが予想されました。そこでこれらをBIM データとして、足場と電柱および電線の納まりを検証しました(図3)。これにより、施工時に戸惑うことなく計画したとおりの足場を架設することができました。
また、前述したクローラークレーンの解体計画においてもBIM を活用し、敷地の中で安全に解体できるかどうかの検証を行いました(図4)。
③耐火間仕切り壁への対応
本建物の躯体工事において、床スラブには鋼製デッキ* 2 型枠を使用しました。鋼製デッキの使用は、生産性向上、工期短縮効果がありますが、課題として耐火間仕切り壁施工時には鋼製デッキの下部にある補強リブを切断する必要があります。
リブ切断は非常に手間が掛かり、高所での危険な作業です。そこで、この作業を軽減するべく、事前に耐火間仕切り壁の位置を躯体図に落とし込み、その位置にある型枠には鋼製デッキを使用しない方針としました。その結果、デッキ切断工程を省略して耐火間仕切り壁を施工でき、作業手順の安全性向上も図ることができました。