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新山手病院の本館建替え事業

 東京都東村山市にある結核予防会の新山手病院は、結核療養所「保生園」を引き継いで昭和14年にスタートした。医療需要の変化に応じて幾度か施設整備を重ねた後、地域に求められる医療機能を果たすため、老朽化した本館を今日的な医療ニーズに対応でき、新耐震基準を満たした堅牢な医療施設として生まれ変わった。本稿では、新山手病院建替えの経歴や背景、設計・施工についてレポートする。

新山手病院の本館建替え事業

公益財団法人結核予防会専務理事  橋本 壽

基本案の再検討

 東京都東村山市にある結核予防会の新山手病院 は、結核予防会が昭和14年の創設時に財団法人保生会(第一生命の創設)の結核療養所「保生園」を引き 継いでスタートしているが、現在では一般病床172床、結核病床8床、計180床の地域病院である。医療需要の変化に応じて幾度か施設整備を重ねてきており、いまでは第1次オイルショック直後に建てた本館建物が最も古く、数年前から本館の建替え事業が検討されてきた。そうした状況の中で一昨年2009 年12月に専務理事として着任することとなり、この 問題に取り組まざるを得ないこととなった。それまでも結核予防会の評議員の立場にあり、建替え事業への取り組みについては承知していたが、実際に責任ある立場で取り組むことになるとは想定もしておらず、すでに設計契約が取り交わされていたこともあって、やや距離を置いて眺めていた。しかし、実際に責任ある立場に立ち計画内容を見ると、基本計画案には病院全体の敷地状況への配慮や機能的な面からの検討が十分でないように感じられ た。また、財政的にも基本案で進めるだけのゆとりがないこともはっきりしていたので、建設場所の変 更による基本案の再検討をお願いした。

セカンドオピニオンとしての医療施設近代化センター(現在の健康都市活動支援機構)の登場

 年を越して2010年3月頃に示された新たな計画案は、仮設に10億円をかけるというもので、あたかも建設地の変更に応じられないことを意思表示しているようなものであった。そこで、“セカンドオピニオン”の意味でCM方式を基本とする医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)に、現在の本館部分に建て替えが可能かどうかを検討していただいた。当初は、やはり老人保健施設の前の駐車場に建設するしかないのではな いかということであったが、本館前の駐車場の浄化槽が事実上使われていないことが明らかになり、現在の本館前の駐車場の位置に基本部分を建設し、本館取り壊し後に付加的機能部分を建設するという基本骨格案をまとめるに至った。この骨格案と先の仮設設置案を病院の建設委員会で検討した結果、医療施設近代化センターの骨格案のほうがよいということになり、これまでの設計契約は解約させていただくこととなった。

医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)の支援による進展

 引き続いて医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)と事業支援のための契約を取り交わし、新山手病院本館建て替え事業に関して医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)が、施主(結核予防会)のアドバイザーの立場に立ち、業者選定に誤りないように指導いただくこととなった。前設計の契約が解約されたのち、医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)から新たな設計業者数社を推薦いただき、病院の建設委員会で病院の設計実績等を勘案して、株式会社佐藤総合計画に決定となった。 

 

工事は、3期に分かれることとなるが、第1期に現在の取り壊し予定の本館前の駐車場に基本機能部分を建設して完成と同時に本館の機能を移す ことで事業の継続を図り、第2期に本館建物を取り壊し、その跡に現在の新館部分とつなぐ建物を増築することとしている。第3期は第2期に連続する形で放射線治療部分を新本館に増築する形で建設して全体を完結させることとなっている。エ 事の段取りによって第2期と第3期は連続し、かつ工事期間も短縮する方向で進めることとしている。

付加機能への取り組み

 この建替え事業は、現在の本館建物が耐震構造上法令で許容されるまでの耐震化が補強工事ではできないほどの状況にあって、緊急に取り組まなければならない事業であるが、同時に新山手病院の診療機能の高度化を図るものでもある。これまでの呼吸器科、消化器科、循環器科の機能に加えて、がんの放射線治療や術後リハビリ機能を充実させ、サルコーマ•センターの機能を持つ高度な施設に変身することを意図している。したがって、病院における設計上の注文は多く、基本設計が2010年末ぎりぎりにようやく固まった。新年早々に独立行政法人福祉医 療機構へ借入申込みの手続きに入り、春先から実際工事の準備に入ることとなる。その後、およそ2年半の工事期間中は人材の確保、組織体制の再構築など取り組むべき課題は多いが、新たな目標に向かって一丸となって取り組む姿勢が醸成されるものと期待している。 

 

機能を重視して検討されて来ているが、佐藤総合計画の設計コンセプトは、① 明解な主軸の設定によるわかりやすい空間構成 ② スタッフ動線の短縮化による効率的運用の継続 ③ 既存施設との連携を重視した部門配置 ④ 自然環境を取り入れた明るい空間デザイン ⑤ 将来の成長と変化を考慮した部門計画であり、デザインのセンスもよく、完成後は病院の機能性とともに敷地内施設全体の総合性も高まると思われる。

新山手病院の施設整備計画に当たって

医療施設近代化センター監理技師 有村康孝

はじめに

 結核予防会新山手病院は1939 (昭和14)年、名称 どおり当時、長期の療養を要した結核の治療を行うためにつくられた専門療養施設でしたが、昭和50年代にはその役割を地域の一般医療に拡大し、今日に至っています。敷地内には本館(106床、1974年築)、新館(97床、1989年築)、新病棟(43床、2004年築)、老健施設「保生の森」(定員100人、1999年築)、メディカルマンション「グリューネスハイム」(37世帯、2004年築)の他、ェネルギーセンターとMRI棟を擁します。今回建替え計画を進めている本館は1973 (昭和48)年の第一次オイルショックをはさんで建築されたこともあり、資材の品不足などで必ずしも本格的なエ 事とはならなかったようです。加えて、81(昭和56)年以前に建てられた病院施設は近年、耐震補強工事が義務づけられ、概算で5億円を要すると試算されていました。さらに、結核病院時代の設計のため、外来患者の待合スペースが狭く、1日300人以上を集める地域病院の外来機能としては限界でした。また、新山手病院が位置する北多摩北部地区二次医療圏では、がん治療専門病院の不足が指摘されており、同院が本格的ながん治療センターとしての機能を果たすこと が期待されています。そのため同院では近い将来、最新の強度変調放射線治療(IMRT)機器の導入を検討中とのことでした。 

 

これらの諸要因から新山手病院は、地域に求められる医療機能を果たすため、老朽化した本館を今日的な医療ニーズに対応でき、新耐震基準を満たした堅牢な医療施設として早急に生まれ変わることが期待されていました。

建替え計画の見直しに着手

 結核予防会では、数年前から本館建替え計画を検討されていました。また、すでに契約していた設計会社から2010年3月に新築計画案が提出されていましたが、同会の建築委員会で検討したところ、計画案には同会が希望していた内容を満たしていない大きな問題点がいくつかあったとのことでした。 まず、本館建設場所が既存本館位置から大きく離れた敷地西側の駐車場に計画されていたことです。 これは病院職員の動線上、機能的に大きな制約となるとのことでした。 

 

さらに、同会の建替え予算20億円を大幅に上回る工費が必要になるとの見込みでした。計画案では仮設費用だけで10億円以上が見込まれており、同会の 将来に大きな負担となることが容易に想像できることも問題とのことでした。そのため4月に同会橋本専務理事から当センターに、建築計画上のセカンドオピニオンを求めたいとの連絡をいただき、計画案を具体的に検討する作業を開始しました。当センターで計画案を一見したところ、以下の4点が問題と感じられました。 

 

1.本館を敷地西側の駐車場に移転する案は敷地の形状(起伏があるうえ、既存病棟などとの連絡通路が長くなりすぎる)からも、病院機能(職員の動線など)面からも好ましくないこと。 

2.計画案にはレストランが配置されているが、その必要性が不明であり、全体計画にも支障が生じる恐れがあること(隣接するグリューネスハイムにレストランがすでに開業中)。 

3.各科とも面積が過剰に見積もられており、法定上必要な面積をクリアし、建築費を極力抑える 病院建築の常道から外れていること。建築費の増嵩が予防会の資金負担を過大にする恐れがあること。 

4.既存本館隣接地に新本館を建てられないか、地形の詳細な検討がなされた形跡がないこと。面積的には本館南側駐車場にスペースが確保できる可能性があること。

 

当センターはさっそくこれらを病院側に幸艮告したところ、「4」に関して現地を確認したうえで、計画案の変更が可能か検討をお願いしたい旨の依頼があり、5月に入って現地確認に赴きました。既存本館南側道路に隣接する駐車場脇に浄化槽があり、使用中であればやはりこの場所での建築は難 しいと思われましたが、確認したところ、現在は公共下水が設置済みであり、浄化槽は使用していないことが判明しました。そのため、面積的にも新本館 を旧本館南側駐車場に建てることは十分可能と判断されました。さっそく病院側の希望に沿った位置で の建替え計画図、予算書、工程表を作成することとなりました。

予算内での本館新築が可能と判断

 新本館南側の空き地を極力広く確保し、かつ樹木の伐採を減らすため、新本館建築位置をギリギリ北側に寄せるなど計画図の修正を何度か繰り返しながら、本工事を大きく 3期に分けた工程表を作成しました。

 

・1期工事(図1、2参照) 

 本館南側隣接地に新本館1期棟を建築。完成後、旧本館ほとんどの機能を移転、本館西側(東側は 仮通路として利用するため残す)を解体。 

• 2期工事(図3参照) 

 旧本館西側の跡地に新本館2期棟を建築。完成後、本館東側を解体。 

・3期工事(図4参照) 

 旧本館東側跡地に、同病院の新機能であるIMRT施設を新築。

 

旧本館跡地は駐車場とし、将来、建替工事が計画される際の建築スペースあるいはバッファスペース として活用されることになります。本館の建替え工事計画は予防会•長田理事長らから、概ね満足できる計画になったとの評価をいただきました。この計画案をもって6月の病院側建築委員会に諮っていただき、計画の正式な方向性として 確定することになりました。工事費も当初予算以内に収まり、計画変更は正式に予防会理事会で承認される運びとなりました。

設計契約を解約し、当センターのCM開始

 当面はセンターがまとめた基本設計に基づき、実施設計を行う設計会社の選定が必要になりますので、新たに設計会社を選定するため、病院建築の経験が豊富な4社を推薦、予防会は過去の実績などか ら株式会社佐藤総合計画に決定しました。施工会社の選定については、旧本館工事にいくつかの不具合があったとして当時担当したゼネコンを除外し、当センターが推薦した複数のゼネコンの中から、T社が選 ばれました。 

 

現在、本計画は実施設計に取りかかっており、7月には建築確認申請を行ぃ、9月には1期工事(〜12年11月)に着手、14年4月の3期エ事竣工まで延べ32力月 に及びます。予防会•橋本専務理事の原稿にもあるとおり、新本館には同会が目指す、がん診療拠点病院としての役割が期待されており、14年には我が国初のサルコーマ(肉腫)センターも開設される予定です。そのためにも、基本計画で求められた各科の機能的連携、職員動線の単純化による効率的運用は必須条件となります。その意味で、実施設計には緻密な作業が求められるため、秋ロまで病院側との調整が繰り返されることになります。

 

当センターは、新山手病院が名実ともに21世紀の多摩地域医療圏の中核施設となるまで、施主の立場に立ってお手伝いをしていく所存 です。

本館整備事業CM方式により無事竣工

公益財団法人結核予防会専務理事 橋本 壽

はじめに

 新山手病院の本館整備事業については、すでに基本設計が決まっていたところに外部から急に取り組む立場になった。すでに契約済みとのことで意見を挟むことに咎められる気持ちが強く働いたが、設置場所、病院としての設計思想などに納得が得られなかったので、専門的な第三者の意見を聞いたほうが良いと考え、CM 方式で病院建設をサポートしている特定非営利活動法人医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構)にセカンドオピニオンとして別途基本計画案を策定していただいた。両案を病院の建設委員会で協議していただいて医療施設近代化センター(健康都市活動支援機構に取りまとめ役をお願いすることとなった。このことについては前回報告させていただいた。

 

 今回は新山手病院の本館建替え事業に至る経緯を整理し、病院経営における施設整備の意味と今後の経営のあり方を検討して、今後の病院運営に資したい。

本館整備事業に至る経緯

 新山手病院の旧本館は診療部門を中心とする病院のかなめになる建物であったが、第一次石油危機の直後に建てられ、付帯設備を初め老朽化が早く、絶えず不具合な箇所が発生し、施設整備の必要性が認識されていた。しかし、平成6 年当時、法人の財政状態は厳しく、施設整備よりも病院の存続をかけた経営改善への取り組みが重視されていた。

 

 平成7年に同じ二次医療圏に存在することも考え、清瀬の複十字病院との統合が検討され、配置転換や希望退職まで取りかかったが、統合可能な状況には至らず、しばらく新山手病院の経営改善への取り組みを見ながら状況に応じて対応することとなった。

 

 一方、平成8年度いっぱいで本館病棟にスプリンクラーを設置しなければならないこととなっていたが、このことで本館の補足的な整備を行うことは適切でないとの判断からスプリンクラーの設置は行わず、病床40 床を削減し、複十字病院の新病棟整備のために40 床を許可移管した。この複十字病院の新病棟建設と並行して、新山手病院には当時国の政策として普及が望まれていた老人保健施設の併設が議論され、病院機能の複線化による経営改

善方策として平成9 年暮れに老人保健施設を併設することが決定された。

 

 この老人保健施設併設事業は東京都の平成10年度の補助対象となり、建設資金への補助金と併せて社会福祉医療事業団からの借入金に対する利子補給が得られ、介護保険法が成立する前の平成11年12 月に完成した。

 

 この老人保健施設(保生の森)は、新山手病院から施設長と事務長、それに指導的立場に立つ看護師を充てることによって、新山手病院の人件費の軽減につながり、新山手病院の経営健全化に働いた。老人保健施設建設に伴う借入金は利息が都から補給され、元本だけの返済で現在も約条どおり滞りなく返済されており、開設以来順調に運営されている。また、年間3 億円を超す赤字経営を余儀なくされていた新山手病院は平成13 年度から黒字経営となり、老人保健施設併設は病院経営における介護事業との複合化の重要性を実証することにもなった。

本館整備の遅延と環境変化への新たな対応

 新山手病院の経営が改善されたことで本館整備が検討されたが、当時、結核患者が増加したことで結核対応が話題となり、先に補助事業として新山手病院の結核病床の整備が進められることとなった。

 

 その後も新山手病院の安定的な経営状況が続く中でいよいよ本館整備の検討に入ったが、平成16年度以降、本部の財政事情が大きな設備投資を許容しない状況になり、結核研究所の土地処分の話も出て多額の資金の仕組債への投入が表面化した。

 

 平成22年7月に結核予防会が公益財団法人に移行することとなり、新山手病院の本館整備事業は、ようやく新体制のもとで取り組むこととなった。

 

 しかし、病院の設備資金は本会が保有する資金を活用することを建前としていたが、公益財団法人になった際に仕組債への投入とそれまでの財政上の基本方針が白紙にされたことで本部が保有していた資金が活用できなくなり、やむなく福祉医療機構(旧社会福祉医療事業団)からの借り入れによって進められることとなった。

 

 また、本館整備事業への着手が想定よりも数年遅れたこともあって取り巻く環境が大きく変化し、事業着手のときには想定していなかった医療提供体制の再編期に差し掛かり、施設運営のあり方を抜本的に立て直す必要に迫られていた。

東村山の敷地全体の整合性のある整備事業

 今回の施設整備事業は、第一に新山手病院の診療機能の高度化にある。すでにあるサルコーマ(肉腫)センターとしての機能に加えて、生活習慣病センターの機能、高度なリニアックによるがんの放射線治療機能、さらに循環器系の回復期リハビリテーション機能を持つ病院として地域医療に貢献していくことを使命としている。そのため、やや設備投資が大きくなり、当分経営的には厳しいものがある(p.10 図1、p.11 図2 )。

 

 一方、この八国山の敷地は結核予防会発祥の地であり、第一生命の保生会を引き継いでいることが記された石碑を玄関口の正面に移設し、昭和14 年に当時の財界の支援で結核予防に国を挙げて取り組まれたことを顕彰することとした。(写真1)

 

 また、本会の創設当時から昭和35 年ごろまでの結核蔓延状況が続く中で、前身の結核療養所時代に療養された患者さん方々の憩いの場であり、東村山市の所管になっていた池をこの機会に譲り受け、これからも患者さんやその家族の方々にとっても憩いの場になるよう整備した(写真2 )。

 

 施設整備に至る経緯で述べたように、新山手病院の運営に大きな支えとなっている老人保健施設「保生の森」は、併設する居宅介護支援センターや訪問看護事業とともに地域の医療・保健・介護の繋ぎ役として、今後さらに積極的な活動が期待されている。

 

 さらに、時代を先取りするように、健康に不安はあるが自立して生活できる方々のための賃貸住宅として始めた「グリューネスハイム」も、10 年近くが経過し、時代の要請に沿う形で入居者からの要望に沿う高齢者介護サービス付住宅へと発展させることとした。

結びにかえて

 この整備事業は病床規模や外来機能を維持しながら平成22年9月の着手からⅢ期に分けて取り組まれることとなった。平成25年10月の竣工まで3年経過している。その間、病院を取り巻く環境は大きく変化し、平成26 年度以降、社会保障制度改革国民会議報告書の線に沿って医療提供体制も大改革が進められようとしている。

 

 180 床の小規模病院ではあるが、サルコーマ(肉腫)センター、がん放射線治療、生活習慣病センターなど専門性の高い機能を中心に、地域医療連携機能を働かせて東村山市を中心とする地域医療に貢献していくために、全力を尽くしていきたいと考えている。

新山手病院施設整備計画の施工に当たって

戸田建設株式会社東京支店作業所長 田中 秀行

はじめに

 今回の新山手病院の建て替えは、Ⅰ期工事では使用している旧本館をL型に隣接(外壁間1.4m)して新築し、Ⅱ期工事では使用している旧本館を半分解体し、その部分に使用しているⅠ期工事に接続し新築して、最終的には残りの旧本館を解体し、Ⅲ期工事にてリニアック棟をさらに接続する計画で、全工期で36 カ月という長期にわたり、隣接する病院関係者に気を使いながらの慎重な工事が求められました。今回、施工に当たり実施してきた内容をご報告いたします。

工程短縮への取り組み

 一日でも早い新本館の開業に向けて取り組むため、工程の短縮を図りました。当初の工程(図-1 上)では全体の竣工が平成26 年7月末(延36 カ月)であったのに対し、平成26 年1月末(延30カ月)で竣工いたしました。

 

 変更箇所は、

 ① 旧本館に残る施設を北東部分に集中し、1 回目の旧本館解体時にリニアック棟部分の旧本館を解体。

 ② ①に伴い新本館(Ⅰ期部分)と使用中の新館とを連絡する仮設通路の位置を変更。1回目の解体と干渉しないように敷地東側に仮設通路を設置。既存新館まで遠回りになるため、解体工事(重機を使用する掘削工事)まで東側通路を使用し、その後、東側にゲートを設置し当初の中央に仮設通路を切り替えた。

 

 当初はリニアック棟部分を2 回目の解体が完了してから新築する計画に対し、Ⅱ期工事新築と同時にリニアック棟を施工することができ、図-1 下のような工程になり、全体工期の6カ月短縮を実現することができました。さらに、リニアック室の内装工事を急ピッチで進め、今回の整備計画のメインとなるリニアックでの治療開始時期を半年以上短縮することができました。

総合図作成について

 総合図を作成するに当たり関係部署のヒアリングを開催し、平面プランと備品配置を確認するためお客様との調整に入りました。

 

 南館1階では、外来トイレのプラン変更と当直室のユニットシャワーがトイレに変更、自販機、電話コーナーと相談室が入れ替わりました。

 

 2階では、検体検査室が限られたスペースの中、備品配置を十分検討のうえ決定していただき、設備関係がきちんと対応できているかを検討し、対応いたしました。

 

 同階、人間ドックでは、測定・眼圧・眼底・聴力が原設計では個室となっていましたが、スタッフ動線の短縮のために間仕切りを中止しました。その他、副院長室の間仕切り変更等を行っています。

 

 3階の病床は、結核病床8 床、一般病床32床の計40床です。スタッフの方々から特浴室の形状、位置の変更要望がありました。配置については、設計監理者、床の設計荷重は構造監理者と検討のうえ対応いたしました。他に、食堂・デイルームと4床室との入れ替え、集合トイレの設置、スタッフステーションと診察・処置室との入れ替えがありました。スタッフの方々の声を反映し、使いやすい配置に変更いたしました。

 

 北側1階では、生理検査室は脳波検査室と筋電室があり、原設計では個室となっていましたが、脳波検査室(防音シールド)1部屋にまとめることでスタッフが動きやすい配置となりました。

 同階、放射線科(リニアック治療室)は多目的トイレを個室トイレ2カ所に、待合いスペースには更衣室を2 カ所追加設置しています。

 

 2階リハビリテーション室は、機器配置を検討していただき、プラン、設備機器の対応をしました。

また、水治療室と言語療法室を入れ替えました。

 

 同階、内視鏡室は受付と処置室周りの間仕切りを中止し、スタッフが動きやすく効率良いスペースとしています。

 

 3 階は一般病床と重症(回復)4床室を含め原設計では20 床です。お客様から回復期リハビリ病床への変更を申し受け、関係部署の方々との打ち合わせを繰り返し行い、近代化センター様と設計監理者のご指導のもと、20床から16床になり、患者さんの動線を考え、さらにスタッフの方々が働きやすいプランに変更しました。

 

 プラン決定については、関係部署の皆様には貴重な時間を割いていただきありがとうございました。

品質について

1. 杭工事

 PHC 杭(設計基準強度80 N / 以上の高強度コンクリートを遠心締固めによって製造したコンクリート杭)600Φ、L=18 mを既存本館の残置杭を除けて施工する計画でした。既存杭がずれていると新築の杭をずらさなければならないので懸念されましたが、既存杭はほぼ所定の位置に打設されており、ほとんど影響を受けずに新築杭を打設することができました。

 

2. 躯体工事

 型枠にデッキ工法を採用して工期短縮と省力化を図り、マスター工程どおりに完了することができました。また、冬場は日中にコンクリート打設を完了させないと夜は氷点下となりコンクリートが凍ってしまう恐れがあったので、綿密に工区分けを計画しました。鉄筋工事では本数・鉄筋径・ピッチの全数のチェックを行い、監理者に確認をいただき繰り返し打設しました。

 

3. リニアック工事

 リニアック室(横9m×縦14mH = 6.5m)は、基礎部分で鉄筋が40t、コンクリートが280㎥、地上でそれぞれ60t、550 ㎥、壁、スラブ共にコンクリートの厚みが1,500mm あり、内部には遮蔽鋼板(厚450 ㎜)を埋め込む仕様でした。特殊工事なので事前にワーキンググループを発足させ、設計者の佐藤総合計画様と以下の点について検討・確認を行いました。

① リニアック装置の計算条件

② リニアックの工事区

③ 遮蔽体の工法

④ マスコンクリートの打設方法

⑤ 設備関連の防護方法

 

 ③の遮蔽鋼板工事(今回別途)は全部で270 枚、

 

270tもの鉄板を施工するに当たって、既存本館と新本館に挟まれ、揚重機(16t ラフター)の旋回がやっとの非常に狭い施工条件の中で計画どおり無事に完了しました。

 

 ④のマスコンクリート(断面の最小寸法が80cm以上の大塊状に施工されるコンクリートのことで、コンクリート内部最高温度と外気温の差が25℃以上になると施工後ひび割れが生じやすい)検討については、大断面躯体コンクリートのひび割れ発生の抑制を図るため、打設時期に合わせて温度応力解析を行い、打継回数も基礎は2 回、地上は3 回に分けて打設を行いました。またコンクリートの打継部には型枠段差(H=40 )を設けて遮蔽体防護対策をしました。

イメージのギャップ軽減を図る見学会を実施

 病院の皆様が持っているイメージと図面とのギャップの軽減を図るため、内装工事期間中に病院の皆様による見学会を実施しました。各フロアを週に一度、1時間程度ですが、壁の軽鉄・ボード施工中の状態で見学をしていただきました。例えば、コンセント・スイッチの位置や数量が、図面では確認していても実際の空間にいるとイメージと違うことが多々あります。施工中の対応が可能であれば、引き渡し後の「こんなはずではなかった」という思いが払拭され、お客様の持つイメージにより一層近づけることができます。また、完成後の手直しによる作業の削減やお客様への負担軽減にもなりました。

 

 工事完了直前の見学会では、壁・天井が完了し一部床施工中という状態での見学となりました。病院の各部署の方たちが、各々が使用する部屋の仕上がりや家具の位置等を確認し、引越し後の備品の配置の相談や、カーテン用の採寸をしていただきました。

 

 見学会を行うことで、新しい建物へ移るイメージをより具体的に感じていただけたと思います。

近隣対応について

 近隣対応としましては、現場近くに小学校があるということで、約束として登下校時間帯の工事車両の搬出入時間の制限をしました。朝7:30 ~と夕方16:15 ~(冬季)、17:15 ~(夏季)のそれぞれ1時間ずつを搬出入禁止に設定し、月に1 回小学校の土曜講座が開催される日については基本的に工事を全休にするといった処置を取り、第三者災害防止対策を実施しました。また、メインの通りである府中街道から現場までの道が狭いため、生コン車やラフタークレーンなど大型車の通行の際は、各所に警備員を3 ~ 4 名配置し、安全に誘導させることで車両による災害防止対策を実施しました。