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鹿児島県厚生連病院の施設整備

 鹿児島厚生連病院では2014 年頃より病院の老朽化、狭隘化が目立ち、耐震化の問題が検討された。2015 年に厚生連機能・施設整備にかかる基本構想の決定がされ、2018 年5月に鹿児島厚生連病院と健康管理センターが一体となった8階建ての新施設が完成した。本稿では、経緯から設計・施工に至る一連の流れを報告する。

施設整備への取り組みについて

鹿児島県厚生連代表理事理事長  有村 悦郎

鹿児島県厚生連の施設概要

 鹿児島県厚生連は肝臓がん・肺がん治療で多くの症例を有し、低侵襲の高度専門的手術・治療を行う「急性期病院」(184 床)とJA 組合員・地域住民の疾病防止・疾病の早期発見・生活習慣の改善指導を行う「健康管理センター」の2 つの施設を持っています(写真1)。

 

 両施設は近隣にあるものの、荒田川と天保山公園を挟んで別々の敷地にあり、このため、医師をはじめスタッフは敷地間の移動を余儀なくされ、人間ドック等受診者の検体(血液等)を病院側検査室に日々運搬しているほか、医療・検査機器を両施設で重複して保有するなど、非効率で安全管理上の課題を抱えています。

施設整備の必要性

 両施設はともに築35 年以上経過し、老朽化(壁等のひび、配管腐食、水漏れ等)、狭隘化、プライバシー確等の問題が顕在化しています(写真2、3)。加えて、(改正)耐震改修促進法施行に基づき耐震診断を行った結果、施設のほとんどの階層で耐震基準に適合しないことが判明。現状の施設では安心・安全の観点から適切と言い難く、施設整備に向けた検討をすすめることが必要となりました。なお、補強工事については、耐震補強ブレスでは現状でも狭隘化している室内がさらに狭くなるとともに、外観を損なうことや室内の採光(明るさ)・眺望にも影響が想定されるほか、工事期間中の騒音・振動・悪臭等により、入院患者の療養環境の維持が困難になること、休床による入院収入の減少、改修工事費用が少なくないこと、建物寿命の大幅な延長が見込めないことなど勘案して、耐震補強工事や大規模な設備改修工事は現実的な選択でないと判断しました。


施設整備に向けた検討の開始

(1)建て替えに向けて一から勉強

 私どもの厚生連病院(1980(昭和55)年建築)は、1985(昭和60)年に、民間が運営していた病院を取得したもので、すでにあった施設を買い取ったことから、厚生連の役職員の誰も施設建設に関する知識・経験・ノウハウを持ち合わせておりません。施設整備を担当する部署を2012(平成24)年4 月に設置しましたが、建設用語を知らず、設計(基本構想―基本計画―基本設計―実施設計)、施行、施工監理等の流れもわからず、まさに一から建て替えに向けて勉強しながら、検討をスタートしました。

 

( 2 )2012 年に専門委員会を発足

 施設整備にかかる専門委員会を2012(平成24)年8 月、厚生連経営管理委員会内に発足。JA 組合長等の審議委員メンバーと、本県厚生連の設立の経緯や病院・健康管理センターがこれまで担ってきた役割および成果、予防から治療に至る一貫体制の維持の必要性(健診と診療の両輪関係)、立地候補地の防災対策の考え方、新施設での診療・健診機能のあり方、建設等事業資金の調達の骨子等を勉強しながら、施設整備に向けた具体的な検討に入ることになりました。なお、私どもの厚生連は財務体力が弱く、本県JA グループからの支援・協力が必要なことから、会員からの財政的支援の理解・合意を得るべく、時間をかけて協議がなされることになりました。

 

( 3 )いったんは建設構想を構築

 一方、医療・保健・福祉を取り巻く現状・将来予測等について調査・分析し、診療科のあり方、医師の確保等、取り組むべき課題を整理しました。そのかたわらゼネコン数社に協力をいただき、施工方法や工期・工事費用などの聞き取りを行い、知識を習得しながら、新施設のコンセプトも詰めてきました。

 

 その結果、病院と健康管理センターの一体型施設建設構想(新施設の立地候補地、施設規模、診療・健診機能、医療・検査機器の更新整備内容、医師・スタッフの人的体制、患者・健診受診者数の見通し、概算事業費用、資金調達、財務収支シミュレーション等のスキーム)をいったん構築しました。  

 

( 4 )建設費用高騰で計画の仕切り直し余儀なく

 このような中、東日本大震災後の復旧復興は安倍政権の下、急ピッチで進められ、また、2020 年東京でのオリンピック招致が決定となり、ゼネコン各社も受注工事が増加するとともに、資材費、労務費が上がり、建設事業費用の見込額が高騰するなど、取り巻く環境が変わりました。従前から聞き取り等に基づき算出していた事業費用額では建設が難しい状況となり、計画の仕切り直しを余儀なくされました。

施設建設に向けた本格的な取り組み

 鹿児島市内の主要医療機関が2015(平成27)年までに施設建替えを完了する状況にあり、他の医療機関に劣後することのないよう、また、耐震法の趣旨を踏まえ、本県厚生連の施設整備に向けた組織合意を2015(平成27)年末までに完了するスケジュールとしました。

 

 本格的に施設建設を進める上で、医療・建設・経営面で専門的知識を持つコンサルタントの必要を感じていました。そのような中、私どもの上部組織である全国厚生連が傘下の各県厚生連の経営改善指導面で連携している「東日本税理士法人」より、医療機関の施設整備のコンサルタントとして、医療施設近代化センター(後の健康都市活動支援機構)を紹介されました。

 

 実は近代化センター様にはそれまでも、施設整備にかかる第一次段階の財務収支シミュレーション等について見解を求め、施設に対する意見交換をする中で、岩堀常務、吉村常務、成瀬専門員から、「身の丈に合った施設建設が将来の事業運営を考える上で大事です」との指導をいただいておりまして、私どもも県下のJA グループの皆さんが理解・納得できる、身の丈に合った施設を作りたいという考えと一致しており、正式に近代化センター様に建設コンサルタントをお願いしました。

 

 施設の立地先については、10 数件の候補地のメリット・デメリットを検討した結果、現在、健康管理センターの敷地と隣接地の一団の土地(合計約17,362 ㎡)が妥当だということになりました。眼前には錦江湾、桜島が望め、北西側には1863 年の薩英戦争当時、英国艦隊に砲撃した砲台跡がある松林に包まれた天保山公園があります。そのような絶好のロケーションを生かし、どのような施設配置(立体駐車場、本館、平地駐車場の位置等)とするのか。施設内の外来診療・内視鏡検査・入院病棟・化学療法室・リハビリ室・病理検査室・健診センター等のレイアウトはどうすればいいのか。患者やスタッフの動線は良いのか。託児所、厨房、医局、事務室、更衣室、食堂等はどう配置するか――。施設内外のイメージがつかめないことから、本来なら設計事務所の仕事なのかもしれませんが、近代化センター様に何度も図面を描いていただき、レイアウトの概要をイメージすることができました。

 

 設計・施工会社をどう選定するかについても、いろいろな選定方式があり、メリット・デメリットがあります。わかりやすい図表を作成していただき、施設建設特別委員会にて答弁をしていただきました。また、設計・施工業者一括発注方式での決定手続き、共同企業体募集要綱の作成、プロポーザル方式での共同企業体選定のための評価表作成、丸一日要したプロポーザル審査会の運営等、多方面にわたりご指導いただきました。

変化に対応しながら

 本稿が冊子になる頃には、立体駐車場建設がすでにスタート(2016(平成28)年5 月)し、新館施設(病院と健康管理センター一体型施設)については実施設計に入っていると思います。近代化センター様には、新館竣工および既存施設(病院・管理棟)の解体撤去まで指導をいただくこととしております。まだまだ、お世話になるものと考えています。

 

 社会保障を取り巻く環境は厳しく、診療報酬改定、地域医療構想など、医療機関にとっては経営を大きく左右する問題がこれからも続くと思いますが、変化に対応しながら、利用者に安心・信頼される厚生連となるために、多くの皆様の指導・協力をいただき、事業運営に努めてまいりたいと考えています。

鹿児島厚生連病院・健康管理センターの設計について

株式会社大建設計 執行役員 医療事業部長  福島 祐二

はじめに

 鹿児島県厚生連は1977(昭和52)年に設立され、その後1979(昭和54)年健康管理センターを開設、組合員および地域住民の疾病予防・早期発見、生活習慣病改善に取り組んできました。また「安心できる私たちの病院で治療を受けたい」との組合員の声を受けて、1985(昭和60)年に既存の民間病院(1980(昭和55 年)築)を取得し、肝臓がんや肺がん等のがん治療に強みを持つ病院として症例実績を含め高い評価を受けています。

 

 しかしながら現在の病院と健康管理センターはともに建築から30 年余を経過し、老朽化や狭隘化、耐震問題、患者や受診者のプライバシー確保等の課題を抱えています。健康長寿社会の実現に向けて、鹿児島県厚生連事業の核として疾病の予防と早期発見、低侵襲の高度専門的治療を提供する役割は、いっそう重要となっています。さらに急激な少子高齢化が進む中、今後の疾病動向など将来を見据えた施設づくりが必要になっています。


建て替えの基本方針

 将来にわたって事業を継続するために病院と健康管理センターを一体化し、患者や受診者の利便性を考慮し効率的に医療や健診を提供できるようにすることを第一の目標としています。そのために5 つのテーマを掲げています。

 

① 桜島への素晴らしい眺望をはじめ豊かな環境を生かした周辺環境との調和

②職員と患者にやさしい施設環境の充実

③医療の安全を確保する明快な部門構成と動線

④災害時に効果的に機能する施設

⑤イニシャルコスト・ランニングコストの縮減■効率的な配置計画とアプローチ計画

 新施設は敷地の南北方向で一番広い位置に機能的に配置し、立体駐車場は新施設の東側に設けます。

・ 一般のアプローチは南側道路から新施設西側のロータリーにアクセスします。

・ 立体駐車場・救急入口へは南側道路の天保山シーサイドブリッジへのスロープの手前からアプローチします。

・ 駐車場は、西側の平置き駐車場と自走式立体駐車場および管理用駐車場を含め600 台以上の駐車台数を確保しています。


わかりやすく連携しやすい全体構成

 全体構成は、各部門を連携しやすくするとともに、病院と健康管理センターの動線分離に配慮します。

 また、効率的に運用できるように各部門を有機的につなぎ、すべての施設利用者にわかりやすく、物品の

移動をしやすくします。

 1 階は病院と健康管理センターのエントランスと2つの施設の共用部門を中心に配置するとともに、病院1階には受付部門、薬局、大会議室、救急、更衣室および共用部門であるミニコンビニ・調理実習室などを配置します。2 階に病院外来、および病院と健康管理センターの共用の検査部門を配置し効率的な運用ができるようにします。3 階は健康管理センターの専用フロア、4 階は病院専用の手術・化学療法などの治療と検体および病理検査フロア、5 階は共用の管理部門と病棟、6・7 階は一般病棟を2 病棟、8 階は共

用の展望レストランと職員食堂を配置します。


明快に構成された各階平面

 各階は関連する部門が平面的・立体的に効率よく連携できるように部門構成することと、わかりやすい動線計画やエレベータ・小荷物昇降機での搬送などによりスムーズに連携できるようにします。

 

▶すべての利用者にわかりやすい1 階

・病院は西側入り口から東側端部までホスピタルモールに沿って受付・利便施設・薬局・大会議室・救急を配置しわかりやすい構成とします。

・ 健康管理センターへは、1 階の専用エントランスホールからエレベータにより3 階の健康管理センター受付へアプローチします。

・ コンビニなどの利便施設は病院および健康管理センター側からも利用しやすくします。

・ 救急は感染にも対応するとともに2 階の救急部門へ患者をスムーズに搬送できるようにします。

 

▶病院と健康管理センターが連携運用する2 階

・ 1 階ホスピタルモールから2 階ホスピタルストリートへ続くわかりやすい患者動線とします。

・ 放射線検査・内視鏡検査は病院および健康管理センターのどちらからもアクセスしやすくします。

・ 各待合は外接し明るく開放的にし、利用者にとって快適な空間とします。

 

▶健診部門を効率よく配置した3階

・ 人間ドック・レディース健診・職場健診を明確に分離するとともに連携しやすく配置します。

・ プライバシーに配慮したレディース健診とします。

・ 各ラウンジは外接し明るく開放的な空間とします。

・ 人間ドック・職場健診の両方から検体を4 階の検体検査室に搬送しやすくするために、小荷物昇降機を設けます。

 

▶病院の治療部門を集約した4 階

・ 手術部門を中心にIVR-CT・中央材料・ME・病理検査・検体検査が連携しやすい構成とします。

・ リハビリ室をリハビリ庭園と一体的に設け、内外での各種のリハビリを可能とします。

・ 外来とは分離した落ち着いた場所に化学療法室および透析室を配置します。

 

▶管理部門と病棟の一部を配置した5 階

・ 事務室を中心に幹部諸室・医局が連携しやすい部門配置とします。

・ 会議室、研修室および図書室を設け、職員の医療技術の向上のためのスペースを確保します。

・ 他の治療部門と分離した落ち着いた環境に病棟の一部として無呼吸症候群等の病室を設けます。

 

▶ 2 病棟が連携しやすく見守りやすい6・7 階

・ スタッフステーションを中心に病室を配置し、患者を見守りやすくするとともに、2 病棟のスタッフステーションを近接させ連携しやすくします。

・ 食堂・談話室や病室は桜島への眺望に配慮します。

・ 重症個室やHC 病室は、スタッフコーナーと一体となるように配置し看護しやすくします。

▶すばらしい桜島への眺望を生かした8 階

・ 展望レストランは外来患者や健診者、お見舞いの方などが利用できます。

・ 眺望がよく気分転換できる職員食堂を設けます。

鹿児島県厚生連施設整備事業のスタートにあたって

医療施設近代化センター常務理事  吉村 重樹

2段階発注方式以外は大変な労力を要する

 厳しい建設環境の中で、当センターが鹿児島厚生連様に御提案した発注方式は、ECI と呼ばれる2段階発注方式でした。最近、自治体病院での採用が増えていますが、当センターでは2009 年の下呂市立金山病院から、この方式を取り入れています。ECI は、センターでまとめた基本計画を基に病院建築に実績のある設計者を選定。次に基本設計(所謂基本設計に見積に必要な前提条件を加味した内容)完了時点で建設会社を選び、品質の向上、コストの削減に向けた技術提案を求め、設計者との協業により“身の丈に合った病院づくり”を目指すものです。

 

 今回の事業でも、センターとしてはこの手法の採用を提案しましたが、最終的に当初からの設計事務所と建設会社のJV(ジョイントベンチャー)による、設計施工一括発注方式に決定しました。2015 年6 月に、設計施工一括発注公募型プロポーザルを公告。10 月に5 つのJV による技術提案およびヒアリングを実施。同日、第1 優先交渉権者の決定に至りました。

 

 この間の詳細は省きますが、センターにとって、これほどの規模での病院建設で、2 段階発注方式以外の取り組みは初めてで、発注における問題点、発注者と(センター含めて)応募するJV 側双方にとって、大変な労力を要するということがわかりました。

設計・施工者選定のために

算に加え室温度の外各室条件を決めなければならなかったからです。諸元表、各階の仕上げ、外部仕上げに加え医療ガス、アウトレットの数など、積算根拠を“想定”で提示しなければなりません。また、設備計画等積算をするための十分な資料がないため、公告後の質疑が200 項目を超え、追加質疑を加えると相当の数の質疑でした。それは積算をするには当然必要な事項です。公募に参加した各JVに、より正確な積算をしていただくために、センターとしてもできる限りの情報を提供する必要を感じ、これまでにない資料を揃え、さらに途中で各社に対し追加の説明会を開催しました。

 

 幸い、参加各JV の御協力で、プレゼンテーションの実施・審査は無事終了。ひとえに関係各位の御努力の賜であり感謝申し上げます。

 

 最後に、センターとしては、今回の発注方法の経験を踏まえ、応募してもらう設計事務所、そして建設会社に、より大きな力を発揮していただくためにも、あらためて2 段階発注をお勧めしていきたいとの思いを強くしました。

 

 なお、本プロジェクトはこれからが正念場です。JV の関係者のいっそうの御努力を願い、センターとしても厚生連の代理人としての責任を果たしていくことをお約束申し上げます。


ECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)

 「アーリー(早期)」に「コントラクター(請負者・施工者)」が「インボルブメント(関与)」するという意味。

 

 最近わが国では、基本設計が終了した段階で施工者を特定し技術協力を行う方式を指してECI とするケースが多く見られる。しかし本来の意味は、施工者が工事契約とは別途契約する「設計業務への技術協力」を実施し、その期間中に施工の数量・仕様を確定した上で工事契約をするというもの。災害対応など詳細な仕様の確定が難しい工事に適しており、施工上の課題を改善しながらコストを低減、工期短縮にもつなげる。施工者の選定は技術評価のみで行うため、優れた提案を行う企業を選べるほか、設計が終わった段階からすぐに施工に移れる利点もあるとされる。当初目標価格から縮減したコストの一部は、施工者に還元することで意欲的な取り組みに導く発注手法である。


地域とともに、新たなステップへ

鹿児島厚生連病院 院長 前之原 茂穂

鹿児島の医療環境

 2018 年、NHK大河ドラマで「西郷どん」が始まり、明治維新150 年も重なり、鹿児島は今、熱く燃えています。西郷隆盛をはじめ大久保利通、小松帯刀らが生まれ育った地域は、私たちの鹿児島厚生連病院の周辺にも面影を残しています。薩英戦争の砲台跡、坂本龍馬とお龍さんの新婚旅行の碑も近くにあります。目の前の桜島を見ながらこの原稿を書いています。

 

 鹿児島県は農水産資源が豊かであり、南北約600km にわたる広大な県土を有し、種子島、屋久島、奄美群島をはじめとする多くの離島は、総面積の28%で大きな比重を占めています。本県の総人口は2015 年の約165 万人から2025 年には約152 万人、2040 年には約131 万人に減少することが見込まれています。年代別にみると、65 歳以上の人口は2025 年まで増加する見込みで、75 歳以上の人口は2035 年まで増加する見込みです。高齢化率は29.4% で、特に大隅半島の南部、県北の出水・伊佐地区で高齢化が進んでいます。

 

 2014 年現在、鹿児島県の医療状況は一般病院数217、一般病院病床数2 万6553 床、医師数4134人で、ここ10 年近くで病院数は24、病床数も約1340 床減少しています。当院のある鹿児島市の人口は約68 万人、病院数は110、病床数1 万4138床で大都市・中核都市のなかで10 万人当たりの病院数、病床数がともに全国第2位です。診療圏の国公立病院は鹿児島大学病院716 床、鹿児島市立病院574 床、鹿児島医療センターが410 床ある中で、当院は184 床と中規模です。

健康管理センターの歩み

 鹿児島県厚生連は、農家・組合員はもとより地域住民まで包含した農村地域の健康問題に対処するための専門連合会として1977(昭和52)年に設立されました。翌1978 年、それまで農協共済連が行っていた、鹿児島県の巡回健診を厚生連が引き継ぎ実施しています。1979 年には人間ドックも開始し、健康管理センターとしての運営が始まりました。北は出水郡長島町から、南は与論島まで県内34 市町村と契約しています。離島では検診車をフェリーで輸送していますので健診の日程が台風など天候に左右されます。

 

 2010 年には鹿児島県で初めて肺がんCT 検診車を導入しました。地域とともに、住民とともに40年、大学や行政、JA などの協力をいただきながら健診を続けてきました。2016 年度は巡回健診3 万8000 人でした。

 

 人間ドック、施設健診はともに2 年連続1 万2000 人を超えました。最近、女性受診者の要望も高くなり、レディースデー(女性専用日)を月2回実施し、女性がすすめる健康づくり活動の一環として「JA 女性部ピンクリボン検診」を促進しています。新病院では健診部門に女性専用フロアを作って快適な受診環境を提供しています。胃カメラ希望の方も多く内視鏡の枠を増やしています。

 

 さらに大腸コース、脳オプション、婦人科検診などを2 日間で実施する「人間ドック2 日コース」を新設し検診の充実を図っています。日本人間ドック学会による「人間ドック健診施設機能評価(Ver.3.0)」を受審し認定され、健診も質的に向上しています。厚生連の人間ドック受診者のうち約60%は鹿児島市以外の方です。農山村地域からの利用が多く、種子島を初めとした離島受診者も多いようです。これからさらに質の高い健診の提供を目指し、受診者ニーズに対応した健診サービスの提供、鹿児島大学と連携して健診データの分析、フィードバックが必要だと思います。また、一次予防へのさらなる取り組みとして栄養、運動、メンタルヘルス対策も行いたいと思います。

鹿児島厚生連病院の概要

 一方、鹿児島厚生連病院は鹿児島市天保山町にあった、消化器科を専門とした民間病院を1980年にJA が取得し、1996 年9 月に正式に鹿児島厚生連病院と改め、公的病院として現在に至っています。全国の厚生連病院の中では比較的新しい病院になります。

 

 鹿児島厚生連病院は健康管理センター以外に生活習慣病センターを併設し、肝臓病、糖尿病など生活習慣病の専門施設でもあります。2016 年度の診療概要は外来患者数1 日当たり187 人、入院患者数は134 人、平均在院日数13.9 日、病床稼働率73.1%、紹介率39.6%、外来診療延べ単価3 万4200 円、入院診療延単価5 万200 円でした。病床稼働率と平均在院日数の推移をみると2012 年度75.8%であった稼働率は2014 年度に72.5%まで低下し、現在も横ばいです。これには平均在院日数が15.5 日から14.0 日へ短縮したことが起因していると思われます。医療機関からの紹介率は2012年度の31.9%から2016 年度は39.6%まで上昇しています。

 

 地域における取り組みですが、当院は鹿児島市内にあり、鹿児島大学医学部との連携のもと、患者さんの病態に応じた最新の医療を提供しています。特に肝臓・肺の癌治療は九州でも有数の実績があり、肝臓がんの治療では、手術はもちろん肝血管造影を用いた塞栓療法、ラジオ波焼灼療法などの専門的治療を行っています。鹿児島県内での劇症肝炎や重症の肝不全患者を受けていますが、保存的な治療が限界となっている例では九州大学総合外科と連携し、肝臓移植の窓口として相談できる外来を2014 年に設置しました。地域の医療機関からの肝疾患に対するホットラインの活用や肝移植への相談にも対応しています。

 

 当院の疾病シェアは「がん」が約40%であり、肝がん、肺がん、胃がん、大腸がん等を中心に院内がん登録の実施、外来がん化学療法室や薬剤調整室も充実し、緩和ケア外来や、がん相談支援体制を整え、2011 年11 月に鹿児島県がん診療指定病院に認定されました。

 

 地域の医療機関との意見交換の場として疾患別のセミナーも積極的に実施しています。2016 年度は消化器がんセミナーや肝疾患連携セミナー、肺がん治療セミナーなどを開催して症例を提示し、医師のみならず、コ・メディカルの研修にもつながっています。

 

 また、地域医療連携室を中心に地域の診療所、病院、療養施設などと連携しています。ソーシャルワーカーや在宅支援の看護師とも意見交換をしながら患者さんの受け入れもスムーズになっています。2006 年からは栄養サポートチーム(NST)教育認定施設としてNST 専門療法士研修講座を開催しています。管理栄養士をはじめ、歯科医師、看護師、理学療法士など地域の医療機関から200人を超える医療スタッフが受講しており、チーム医療の要として活動を行っています。糖尿病関係では専門医師を中心に、認定看護師、栄養士が予防も含めて取り組み、糖尿病患者の会もあり、患者さんを食事、運動、治療面で支援しています。

 

 2016 年9 月から地域包括ケア病棟を設置しました。目的は急性期治療後のリハビリ、在宅復帰に向けた生活機能回復まで一定期間の対応を行い、地域医療機関の補完的な役割を担うことです。また、高齢者が増加し生活習慣病などの慢性疾患に専門的な加療、退院支援、リハビリも行っています。

 

 地域住民を対象としたイベントでは健康ふれあい祭りがあります。小学生による吹奏楽演奏、チャリティーバザーなど地域住民との交流や地域における健康づくりに貢献することを目的に毎年春に開催しています。また「健康塾」では当院の医師やスタッフ、認定看護師が講師として、地域住民を

対象に健康教育や医療情報の提供を目的に年に4回開催しています。

新病院のご紹介

 2014 年頃より病院の老朽化、狭隘化が目立ち、耐震化の問題が検討されました。そして2015 年に厚生連機能・施設整備にかかる基本構想の決定がされ、2018 年5月に鹿児島厚生連病院と健康管理センターが一体となった8階建ての新施設が完成しました。

 

 それぞれのフロアについて、少し触れたいと思います。

 

【1 階】総合受付、薬局、地域医療連携室、入院サポートセンター、コンビエンスストア、託児所、多目的ホールがあります。エントランスからホスピタルモールまで病院利用者にわかりやすい配置になっています。

 

  病院用、健康管理センター用2 つのエントランスを設けています。現在、裏口側にある立体駐車場を利用していただいておりますが、10 月以降、正面入口側駐車場が整備され、正面玄関側からの利用者が増えると思います。受付には患者さんの待ち時間短縮のため自動再来受付機を導入しました。また、受付横に入院サポートセンタを設置し、入院患者さんに案内・説明を行い、安心して入院できる体制をとっています。

 

  コンビニエンスストアは品揃えも豊富で、パン工房も併設し、焼き立てのパンが好評です。イートインコーナーでコーヒーを飲みながら投薬、会計を待つことができます。託児所もあり、女性医師、看護師、保健師など働くお母さん方に好評で、現在12 人の乳幼児を預かっています。多目的ホールは各種講演会、研修会、説明会、院内のスタッフ会議、週礼等に使用し、災害時の避難場所としても使用できるホールになっています。

 

【2 階】外来診察室、中央処置室、内視鏡センター、検査室(放射線・生理検査)が設置されています。新病院の開院に伴い外来患者さんの待ち時間短縮やスムーズな外来診療ができるようになりました。開院後2 カ月が過ぎ、職員もバックヤードの使い方、患者さんの誘導等も次第にスムーズになっています。

 

【3 階】健康管理センター(健診・人間ドックフロア)です。フロア内は健診フロア、人間ドック男性フロア、人間ドック女性フロアの3 つのフロアに分かれており、女性の方も安心して受診できます。女性専用フロアには桜島を見ながら足を伸ばせる和室風の休憩室も用意してあります。人間ドックフロアは全体が木目調の色使いのため落ち着いた雰囲気で、屋久杉や大島紬の着物の柄をイメージしてあります。人間ドック専用ラウンジは待ち時間に自由に利用できるスペースで、コーヒーやドリンク類が無料でお飲みいただけるため好評です。

 

【4 階】手術室が3 室あり、うち1 室は将来、ロボット支援手術への対応が可能です。また血管造影室を併設したIVR-CT 室、抗がん剤治療を行う化学療法室(16 床)、新たに腎臓内科医を招聘し人工透析室(4 床)を設け、当院の特徴を生かした肝腎症候群や術前術後など急性期の腎不全に対応できるようになりました。また、リハビリ室では地域包括ケア病棟の入院患者さんが併設のリハビリ庭園を散策するなど、桜島と錦江湾を眺めながらリハビリができます。

 

【5 階】医局、事務室、会議室とともに、サテライト病棟を配置し、睡眠外来では睡眠時無呼吸症候群の確定に必要なPSG 検査を実施しています。

 

【6、7 階】病棟で、各階に2 病棟、合計4 病棟(6 階南・6 階北・7 階南・7 階北)を配置しています。個室は36 室(うち2 人部屋4 室)あり、患者さんが安心して療養できる環境となっています。なんといっても各階のラウンジが素晴らしく、桜島ビューを堪能できる癒しの空間になっています。患者さんの言葉を借りると「風景に動きがあり時間を忘れる。様々な船が目の前を往来し、波の動き、風の向き、桜島の灰、すべて変化があって飽きない。思わずカメラを向けてしまう人もいる」くらいです。

 

【8 階】展望レストランがあり、人間ドック・健診受診者が桜島と錦江湾のオーシャンビューを愛でながら自分へのごほうびとして、ゆっくり食事を楽しめます。サラダバーも楽しいと思います。同じフロアで外来患者さんもご家族と食事を楽しめます。職員も利用可能です。今後、栄養士と相談しながら、地域住民のみなさんと交流しながら「食」の展開を図りたいと思います。

地域社会の発展に寄与していきたい

 新病院の基本コンセプトは「予防から治療に至る一貫体制を堅持し、地域住民の健康増進と良質で高度な医療の提供を通じて地域に貢献する」ことです。健診後の再検査、精密検査を地域医療機関とともにサポート体制を整え、当院の強みである「消化器と呼吸器」を中心とした診療機能の充実を図っていきます。今後とも鹿児島厚生連病院は地域住民の健康の維持、増進に努め、地域社会の発展に寄与していきたいと思います。

設計・施工特定建設工事共同企業体としての取り組み

五洋建設・大建設計・下舞設計 特定建設工事共同企業体

五洋建設株式会社 九州支店 統括部長 若松 徳久

はじめに

 本事業は、設計・施工一括発注公募型プロポーザル方式により、設計・施工特定建設工事共同企業体を選定する募集要項で手続きが開始されました。募集の主な要求事項は次の3点でした。

 

• 別々に存在する病院と健康管理センターを同一敷地内に集約して一体型施設とする(予防から治療に至る一貫体制)。

• 病床数は184床、駐車台数600台以上を確保する。

• 建設工事費(基本設計・実施設計・建設工事・既存施設解体を含む)、および工期は指定条件以内とする。

 

 参加表明から始まり参加資格決定通知を受けて、技術提案(工事内訳見積書共)を行い優先交渉権者として基本協定の締結後、基本設計・実施設計業務を経て、工事請負契約締結後、着工という流れで事業が進んでいきました。

 

 設計・施工特定建設工事共同企業体としての取り組みを以下に記します。

設計上の配慮事項

〇敷地利用計画・配置計画における配慮について

 東側には湾岸道路が通り錦江湾と桜島の良好な眺望が得られます。北西側には天保山公園、南側には商業施設が整備されているので、眺望がよく利便性も高い立地を生かす計画としました。また、一般車とサービス車のアプローチ計画を綿密に行うことにより、商業施設との係わりを含め人と車の動線分離を図り、安全かつ効率的な計画となるように努めました。駐車場については、将来の病院拡張スペースを考慮した配置と、来院者と職員用の駐車場を明確に分離する計画にしました。

 

〇利用者および職員の環境の向上を目指して

 病室は壮大な桜島、錦江湾の眺望を取り込める向きとし、明るく開放的で入院生活のストレスを緩和できる、居心地の良いインテリアデザインを心がけました。また、交流スペースとなる食堂・談話室を設けるとともに、プライバシーの高い個室的4床室を配置するなど、患者のアメニティ向上にも努めました。

 

 研修スペースの確保や福利厚生施設の充実など職場環境の向上にも配慮しました。

 

〇機能性に優れた施設を目指して

 病院と健康管理センターへのアプローチや利用者と職員動線の分離など、動線の明確化、単純化により利用者に分かりやすい施設構成を目指しました。また、病院の各検査部門と健康管理センター、救急と外来など密接な関係のある部門を隣接させるなど職員が連携しやすい部門配置として、医療業務の効率化と省力化を目指しました。

 

〇医療の安全を確保する施設計画について

 病院感染対策ガイドラインに沿った感染防止対策を講じて、院内感染を未然に防ぐ計画とし、ユニバーサルデザインの推進とバリアフリー化により誰にでも優しく使いやすい施設としました。また、職員エリアの区画、病棟への入室制限などセキュリティ対策にも考慮しました。

 

〇重症患者への対応について

 スタッフステーションに近接した、見守りやすい重症患者個室エリアを設けることにより職員動線の短縮化を目指しました。また、せん妄症状や認知症患者対策としては、スタッフステーションに隣接したハイケア病室、および遮音性が高い個室にて対応できるよう配慮しました。

 

〇病院機能の成長と変化への対策について

 放射線検査室、手術室、外来診察室などは将来の増室が容易な平面計画としました。

 

 用途変更が予想される範囲は、荷重条件の設定、床スラブを下げるなど先を見越した計画とし、容易に改修できるようにしました。また将来、パイプシャフト内の配管を改修できるようにスペース確保・ルートの設定、大梁への予備スリーブ設置を行うとともに、階高においても余裕のある計画としました。病室においては個室要望が増えた場合を想定して、4床室の水廻り部分の床を二重床としました。

 

〇医療を継続できる災害に強い施設計画を目指して

 地震・津波・高潮などの自然災害による被害を軽減するため地盤の嵩上げを行いました。液状化対策は砂杭静的締固め工法を採用し、潮風、台風時の強風に対しての塩害対策なども考慮しました。後に詳述しますが、桜島は降灰量が多いため、屋根勾配、樋の構造、空気取入口などに工夫を行いました。病院の災害時における事業継続に配慮し、電源・給排水・医療ガス等を確保しました。また、災害時の拠点となり得るトリアージスペース、治療空間、収容スペースを確保するなど、災害時でも医療を提供できる事業継続計画(BCP:businesscontinuity plan)対応施設としました。

コストコントロール

 設計・施工実績に基づいたコストコントロールを行いました。イニシャルコスト・ランニングコストにも配慮したライフサイクルコストの視点に立ち、施設の機能性と利用する人々の快適性の確保を前提に、病院・健康管理センター機能の更新・拡張が可能である総合的な施設計画を行っています。

 

〇イニシャルコストの削減/ コスト管理について

 設計の各段階において、プロジェクトチーム内でコストについてレビューを行いコスト管理しながら、標準化・プレファブ化を図り部材の汎用性を高め、工期短縮、コスト削減を設計段階から行いました。

 

〇環境配慮とランニングコストの縮減

 ライフサイクルコストの削減目標を設定し、地球環境に配慮した施設づくりを目指して、屋根・外壁・開口部の断熱性能を向上させるとともに、方位・用途などによる適切なゾーニングを行い、省エネ機器の採用と地熱・自然光・外気・雨水などの自然エネルギー利用について費用対効果を考慮した計画を行いました。

 

〇維持管理しやすい施設を目指して

 耐久性に優れた建材や塗料、機器類の採用により部材の長寿命化に繋げ、維持管理の負担軽減を図りました。

 

〇 設計・施工一括発注方式のメリットを生かした

コスト削減施策

 施工者のVE/CD(Value Engineering/Cost Down)ノウハウを設計段階から採用し、コスト縮減と工期短縮を実現するために、将来の更新性、経済性および工期短縮など総合的に判断して、鉄骨造としました。

• 将来の更新性に際して、制約が生じる耐震壁やブレース(筋交い)を設けない構造としました。

• 適切な大スパン設定で平面計画の自由性を確保し、コスト増となる柱と杭本数も必要最小限にしました。

• 鉄骨造でのノンブラケット工法の採用により、鋼材重量と輸送コストを低減しました。

• スラブは鉄筋先組型枠デッキの採用により、工事工程と労務費を低減しました。

• 地上地盤レベルの適切な設定により、土量バランス計画での土砂の搬出入を最小限にしました。

• 設計段階から、採用するメーカー、工法を施工容易性・工期短縮・コスト削減の観点から選定しました。

降灰対策について

〇空調・換気設備における火山灰フィルターの採用

 病院施設内へ取り入れる外気は、床下ピット内へ取り込み、ピット内に設置した火山灰フィルターを通過させることにより、外気温度のクール化とクリーンな外気を病院施設内へ取り込むこととしました。

 

〇灰溜り・灰積り対策

• 各屋上部(バルコニーとも)の面積・形状を考慮し、屋根面を降灰の堆積しにくい構造、水勾配としました。

• 屋上部分における立ち上がり部の角面をなくし丸面とする事で、灰溜りを少なくする工夫を行いました。

• 屋外部分の機械基礎やパラペットなど平坦な部分においては、勾配を設けると共にウレタン塗布防水等を施すことにより、灰積りを少なくする工夫を行いました。

 

〇ドレン口径のサイズアップ

 降雨量によるドレンサイズの検討に加え、降灰による詰まりを防止する対策として通常設計より、1.5 倍の口径サイズとしました。

 

〇散水設備の設置

 堆積した降灰を水洗いできるよう、屋上に散水設備を設置しました。

 

〇外壁清掃の対策

 降灰しても窓ガラスの清掃が容易にできる構造としました。

〇立体駐車場での対策

• 車両が持ち込んだ降灰や降り込んだ降灰を除去するために、散水設備を設置しました。

• 散水による降灰除去の効率を高めるため、床勾配を1.0%→ 1.5% に変更しました。