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公立置賜長井病院の設計

 公立置賜長井病院(山形県)は、地域の基幹病院である公立置賜総合病院と機能分担を図りながら、長井市をはじめとする西置賜地域住民の身近な病院として初期および慢性期の治療を行っている病院だ。特に外来医療、入院医療、透析医療の提供を行っており、地域住民の健康を守る役割を担っている。

地域の健康を支える役割を担う身近な病院を目指して

 公立置賜長井病院(山形県)は、地域の基幹病院である公立置賜総合病院と機能分担を図りながら、長井市をはじめとする西置賜地域住民の身近な病院として初期および慢性期の治療を行っている病院です。特に外来医療、入院医療、透析医療の提供を行っており、地域住民の健康を守る役割を担っています。

 

 しかしながら現在の病院は公立置賜総合病院に病床を統合したのち、50 床の病院として運営を続けていましたが、施設の老朽化、耐震性の問題、300 床を超える大規模な病院施設であることにより運営しにくいなどの問題を抱えておりました。今後も地域住民になくてはならない病院として、高度な医療を提供する公立置賜総合病院と連携するサテライト病院として地域の健康を守り続ける病院とする必要がありました。

 

 このような状況の中、2018 年7 月に公立置賜長井病院改築設計業務を委託するための公募型プロポーザルが公告され、8 月に弊社の提案が特定され基本設計を進めてまいりました。その基本設計の概略を紹介いたします。

建替えの基本方針

 プロポーザルの提案においては、将来にわたり医療の提供を継続するために、運営しやすいコンパクトな施設とし患者や職員にとってわかりやすく利用しやすい施設を目指しています。そのために以下の4 つの基本方針を設定しています。

 

①市民が安心して利用できる「地域に開かれた病院」

② 未来の都市機能の一翼を担う「現代的で機能的な病院」

③災害や異常気象に対処する「安全・安心な病院」

④ 職員の働く環境の向上と少子高齢化に対応した患者にやさしい病院

周辺環境に配慮した効率的な配置

 近隣に対する日照やプライバシーへの配慮と、地域環境の向上に寄与する配置および景観計画としています。

• 北側の保育所に対しては日照を十分確保できるように北側道路から後退します。

• 敷地の道路側には緑地を設け、近隣施設や住宅との緩衝帯とするとともに周辺環境の向上に寄与する計画とします。

• 敷地南側に冬期の除雪のための堆雪ゾーンを設ける計画とします。

患者に配慮したやさしいアプローチ

 車による患者および職員のアプローチ、サービス用車両のアプローチを明確に分け、わかりやすく安全なアプローチ計画とします。

• 西側市道および東側市道よりアプローチし、外来用駐車場は新病院に近接した西側と南側の駐車場とし、スムーズに病院主入口および透析入口にアクセスできます。

• 職員は敷地周辺の既存駐車場と西側駐車場の一部を利用し、病院副入口および職員入口にアクセスします。

• 病院主入口前においては、ロータリー側から車いす用駐車場まで長いキャノピーを設け、雨天や降雪時の車からの乗降に配慮します。


わかりやすく連携しやすい全体構成

 わかりやすい階構成と利便性および安全性が高い縦動線とすることで、患者にとっては迷わない安心な施設とし、職員にとっては管理運営しやすい施設とします。

• 1 階は総合受付・医事・相談・地域連携部門、外来診察・処置、各種検査を患者にわかりやすく配置し、職員にとっても連携・運用しやすい構成とします。

• 2 階は見守りやすい病棟と外来からも利用しやすいリハビリテーション室と管理部門を配置します。

• 厨房・エネルギーセンター棟は、屋外設備と一体に配置し、管理しやすくします。

• 縦動線は中央の一般用エレベーターと寝台用エレベーターおよび階段により、1・2 階の階移動をスムーズにできます。

明快に構成された各階平面

 1 階: 外来ストリートと検査ストリートによるわかりやすい動線計画

 外来診察と検査への動線を明確にすることにより患者に行き先をわかりやすくするとともに、職員が連携しやすい部門配置にします。明るく開放的な外来ストリートにより主入口から総合受付、外来、検査へと患者をスムーズに導きます。

• 総合受付・医事・相談・地域連携部門は一体配置し運用しやすくします。

• 総合待合・外来待合は南に外接し、明るく開放的なスペースとします。• 患者の流れに沿った外来ストリートを設定し、総合受付から各外来診察へ、さらに検査部門へ移動できます。

• 検査部門の各検査室は検査ストリートに沿って設け、外来診察からアクセスしやすくします。

• 病棟から検査部門や透析部門へのベッドやストレッチャーでの患者搬送は外来待合を通らずに検査ストリートによりアクセスできます。

• 検査部門は北側に集中配置し、患者にはわかりやすく職員には連携しやすくします。

• 荷捌きスペースおよび汚リネン庫・ゴミ庫等をサービスヤードに面して設け、物品等の搬入搬出をしやすくします。

• 待合には県産材の使用をはじめ木質系のインテリアをすることで、心休まるスペースとします。

• 風除室は冬期の気候に配慮した2 重風除けとすることで、優しい室内環境とします。

 

▶ 2 階: 見守りやすい病棟とアクセスしやすい部門配置

 患者にとっては安心でき、職員にとっては運営しやすい病棟とするとともに、リハビリを2 階に設け入院患者がリハビリに専念できる構成とします。病棟入口のスタッフコーナー、中央のスタッフステーション、回れる病棟廊下により、患者のそばに看護スタッフを感じることができる病棟をつくります。

• 中央のスタッフステーションと病棟への入口側にスタッフコーナーを設け、見守りと病棟管理をしやすくします。

• スタッフステーションを中心に南北に同様な病室配置とし、2 つの小さな看護単位によるチーム看護を可能とします。

• スタッフステーション内にスタッフ諸室を設け、スタッフ同士のコミュニケーションがしやすく運営しやすいステーションとします。

• 個室はスタッフステーションから見守りやすい位置に配置し重症患者に対応できるようにします。

• 食堂・談話室と談話コーナーは開放的で明るい患者や家族がくつろげるスペースとします。

• 病棟にリハビリ室を隣接させ訓練のための移動をしやすくします。

• 1 階の検査等への患者搬送および配膳車・薬剤・物品等の搬送は寝台用エレベーターを利用します。

• 面会はEV にてアクセスし、人の出入りはセキュリティ扉にて管理をします。

• 会議室・病院幹部諸室・医局・スタッフ室を集積することで職員間のコミュニケーションをしやすくします。

• 一般の方が健康講座等で、EV ホールから会議室にアクセスすることも可能にします。


災害時に医療が提供できる安心安全な病院を実現

• 東側に位置する最上川による水害時の冠水対策は地盤面のかさ上げや防水板の設置などを行います。

• 重要度係数を1.25(一般施設は1.0)にすることで、大地震時の人命の確保に加え病院機能の維持を図ります。

• 災害時の医療を継続するための電源や給排水などのインフラを確保します。

• 災害時のトリアージスペースや治療および患者収容についても配慮します。

工事中も安全に医療を提供できる現地建替え

 敷地には既存施設が建っており、病院を運営しながらの建替えとなるため、工事中も病院機能を維持し患者・職員の安全と診療および療養環境を守るために綿密な工事計画を作成し、利用者の負担を軽減する対策を行います。

• 病院機能を阻害しないように、仮設設備の検討や上下水道設備配管の切り回しや消防設備の代替えの検討など、盛替えを最小限に抑えたインフラを計画とします。

• 工事中の安全を確保するために、病院を利用する人の安全に最大限配慮し、工事エリアを明確にするとともに工事車両動線と一般車両・サービス車両の動線を明確に分離します。

• 解体工事を含む各工事において、低騒音・低振動の工法を採用し、既存病院と近隣住宅地への騒音・振動の影響を最小限にします。

グランドオープンを目指して

 2022 年度中のグランドオープンを目指し、プロポーザル時の提案を基に公立置賜長井病院をはじめ関係者の皆様と協議し、医療施設近代化センター様のご指導の下スケジュールどおりに基本設計がまとまり、7 月にECI 方式における公立置賜長井病院改築工事請負業者選定プロポーザルで特定された、施工候補者である戸田・那須建設特定建設工事共同企業体の技術協力を得て実施設計および施工を完成し、地域の皆様により良い医療を提供できる病院の竣工を目指してまいります。