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自治体病院の統合と機能分化❶ ~静岡県中東遠医療圏の地域医療再生モデル~

 厚生労働省が打ち出した地域医療構想に基づき、二次医療圏を基本単位とする全国341の構想区域で、公立・公的病院の統合や再編が検討されている。基準の大枠は、「診療実績」や「類似の機能を持つ病院との位置関係」、「公立・公的でなければ果たせない役割」等で、同省は、2020年1月に対象となる424の病院名を公表した。(後に約440に増加)

統合や再編の狙いは「病床削減による医療費の抑制」と「病院から在宅まで切れ目のない提供体制の構築」とされている。前者に向けては「高度急性期」、「急性期」、「回復期」、「慢性期」の分類に基づく機能別病床数の見直しを、後者に向けては在宅医療の充実等を推進。高コストの急性期病床を減らす一方でより高齢患者のニーズが高い回復期病床や在宅医療を充実させ、医療の質の向上と医療費の抑制の両立を目指す。

 

特に医療費の抑制は喫緊の課題だ。同省によると、2018年度の医療費は過去最高となる約42兆6000億円に上っており、団塊の世代全てが75歳以上となる2025年には、さらなる高騰が避けられない。推進に向け、同省は地域医療構想区域ごとに関係者との意見調整を進め、2025年の医療提供体制の検討を可能な限り進めることで調整している。

 

一方で新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う病床不足が指摘され、地域医療構想が進める病床編成に疑問を投げかける声は少なくない。同構想の対象は一般病床と療養病床であり、感染症病床は直接の対象ではない。感染症病床の整備は別の課題と捉えるべきだが、2020年6月の記者会見で当時の厚生労働大臣が「これから地域の医療構想を考えるときにも、感染症への対応をどうしていくか議論する必要がある」と述べたことからも、同構想に感染症対策が加味される可能性は高いのではないか。

 

いずれにせよ、医療費の抑制やシームレスな医療の提供に向けた公立・公的病院の統合や再編の大きな流れは避けられない。こうした状況の下、約440の公立・公的病院は、地域での役割や実績を客観的なデータを基に改めて検証し、必要に応じて機能分化やダウンサイジングも含めた再編や統合を検討している。高度急性期、急性期、回復期、慢性期のどの機能を担うのか、地域での役割を関係者間で調整中だ。病院間に加え、介護事業所との連携や地域住民の理解と協力も重要だ。特に病院の統合や再編では不安を払拭すべく、十分な情報開示と丁寧な説明に努めねばならない。

 

本特集では、地域医療構想に先駆けて自治体病院の統合と医療機能の分担・連携を成し遂げ、成功モデルとしても評価が高い静岡県中東遠医療圏の事例を報告する。

 

 

同医療圏の人口10万人あたりの医師数は県内最低であり、全国平均を大幅に下回る。過酷な状況下で医療崩壊の危機を乗越え、2013年に全国初となる市立病院同士の経営統合で誕生した中東遠総合医療センターをはじめ、もう一方の基幹病院である磐田市立総合病院、後方支援病院の役割を担う公立森町病院、地域が一丸となって取組む在宅医療と家庭医の育成、さらに地域医療を支える市民団体を対象に課題や経緯、現状を取材し、成功の要因について考察する。